光る水晶の洞窟

 記憶喪失の少年、エディに連れられ、沈黙の霧に近い濃霧の中を歩いて来たエクス達は、霧の中に薄紫色の光を見つけた。

 揺らめきこそ無いが、闇の属性を持つヴィランに見られる光の色合いに近かったため、エクス達は用心で栞を握っていた。しかしその光の正体を視界に捉えた瞬間、危うく栞を落としそうになってしまった。

 その理由の半分は、その光がヴィランの物ではなかった事に対する安堵。もう半分は、その光の正体となる物質の、あまりの美しさに目を奪われたためだ。

 その原理は全く不明だが、薄紫色に光り、霧を照らす『水晶』があった。洞窟の入口周辺にある暗い色合いの岩から、そして洞窟内部の壁や天井にビッシリとはえており、しかし床には点々と天井に向かって伸びているのみ。歩きやすい平らな地面である。

 天井と壁に隙間無くはえ、薄紫色に光り続ける水晶達は、静かに、そして優しく洞窟内を照らしていた。床にまでこれがはえていたら立ち入る者にとっては困難な道のりになる事必至だが、何故床には無いのだろうか、と、洞窟を進みながら、エクス達は考えずにはいられない光景だった。

 更に驚いたのは、洞窟内部の事だ。洞窟の中に霧は無く、光る水晶のおかげで見通しが良い。しかもどうやら人が多く出入りしていたのか、高い段差部分に人工の階段が設置されており、楽に奥へと進んで行けるのだ。それも、その階段は木製で、極最近作られた物のようだった。

 そうして慎重に歩を進める。奥へ行くにしたがって、あるものが目に映るようになっていった。よく見ると、ヴィランのものか獣のものか判別は付かないが、硬い岩の地面には引っ掻いたような傷がある。いくつか水晶も傷付いており、そういった水晶は光を失って暗い紫色になっていた。

「ヴィラン、だったかな。たしか、それの所為で付いた傷です」

「エディは此処でヴィランに襲われたの?」

「・・・・」

 洞窟に入ってから20分ほど経った場所で、エクスはエディに問いかけた。人の気配は無く、しかし人がいたであろう痕跡がちらほらと見え始めてきたのだ。

 硬い地面に敷かれた布は、多くが蹴散らされてしまっているが一部が規則的に並べられており、枕と思われる布の塊も見受けられる。しわくちゃになった服も多数見受けられ、それらの一部は無残にも引き裂かれていた。

 ただ、血のような物が見られない。おそらく・・・・。

「みんな・・・・目の前であの怪物・・・・ヴィランになって行きました」

 ストーリーテラーによって、その《想区》に生まれた瞬間に『運命の書』は渡される。それは神託とも、預言書とも呼ばれるような代物。自分の全てがそこに書かれている。逆に言えば『運命の書』は『自分自身』なのだ。

 カオステラーは、元はストーリーテラー。

 カオステラーは、その力を以ってかつて自分で書いた『運命の書』を書き換える。自分の描いた理想を、完璧なまでに再現する為に。

 そして、自分自身でもある『運命の書』を書き換えられた存在。それこそがヴィランであり、そのヴィランもまた、傷付けた者をヴィランへと変える力を持っている。

 仲間を増やしている、という事だろう。全てはカオステラーが・・・・

 ―― いや・・・・『カオステラーを宿した何者か』が望む世界を作るために。

「エディは、此処でヴィランに襲われたわけじゃないの?」

「襲われました。けど、僕を襲ったのは・・・・」

 エディが目を伏せてしまい、空気が重くなる。それほど疲れていないが足も進みづらくなり、洞窟内でも最も争いの跡が大きい場所で、5人の歩みは止まってしまった。

「エディ」

 レイナが沈黙を破って話しかけるが、エディは依然黙ったまま。近くに散乱する小石などを見つめているようだった。

「エディ、話してくれないかしら。此処で、何があったのか」

 それでもエディに話しかけるレイナだったが、肝心のエディの返事を待たずして、タオがレイナの肩に手を乗せる。

「ちょっと、邪魔しないでタオ」

「そんな事を言っている場合じゃねぇ。見ろよ、向こう」

 洞窟の更に奥の方から、揺らめく青白い光が見えた。

 ―― ヴィランだ!

「くっ。なんて間の悪い!」

「・・・・」

 ヴィランと聞いて、エディは思わずたじろいでしまう。そして持っていたバッグの中から、装飾の凝った鞘に収められている短剣を取り出す。

 僕も戦う。無言でいかにも怯えているが、そう言っているように見えた。

 しかし。

「エディ!」

「・・・・っ!」

「君は闘わなくて良い。僕達があれを倒す! だから君は、その間に君の『運命の書』を見つけて? この辺りでしょ?」

「・・・・っ」

 エクスは、実は適当にそう言ってみただけだったのだが、どうやらこの辺りで運命の書を落としてしまったのは間違いないようだ。図星だった為にエクスと目が合ったまま、エディは硬直してしまう。

 薄い翠色の瞳が、見開かれたまま。

「落ち着いて、エディ」

 しかし、エクスの淡い赤色の瞳に見つめられ、エディはハッとなる。

「ヴィランを倒した後で話を聞かせて。此処で何があったのか。そして、君の、本来の運命を」

「・・・・」

 不安、困惑。そんな表情を浮かべ、沈黙を保っていたエディ。

 しかし、返事を待っている余裕は無い。エクスは栞を握り締め、ヴィランへ向かって走り出した。

「―― 話すよ。後で」

 そう、後ろから聞こえた。

 エクスは一層顔を引き締めて、迫るヴィランの元へと駆けて行った。


 オレンジ色の光が弾け、肌寒くなってきた洞窟内を照らし、温める。散乱していたシーツを何枚か焚き火の傍に寄せ、その上に座りながら彼等の会話は始まった。

 戦いを終え、全員が無事である事を確認してから1時間。一行は広場で一息ついていた。エディはずっとしまわれたままの短剣を一瞬だけ見て、

 此処にいた人達の物だろう食料で鍋を作り、それを食べながら、だ。

「ふむ、良い出来栄えです。どうやら海産物が多いのは、シェイン達のいた想区と同じだった様ですから。懐かしいです」

「おう。例の鬼ヶ島流、な」

「いえいえ。さすがに調味料が違っていたので、あくまで似た感じです」

 洞窟にいくつかあった食料庫では、釣りたての魚が凍らされていた。そのすり身を一口サイズに丸めた物や野菜を一緒に煮込んだスープ。エクスもレイナもあまり食べた経験の無い料理で、かぐわしい香りに誘われつつ、不思議そうに煮込み中の鍋に浮かぶ白い物体をつつく。

「嗅いだ事の無い不思議な香りだけど、美味しそうね、このスープ」

「ふふ、その名も『つみれ汁~別の想区バージョン~』です」

「見た目はフワフワしていそうだね。ね、エディ!」

「・・・・」

 エクスの問いにも黙り込むエディの手には、先程見つけたのだろう、運命の書が握られていた。ただ、何があったのか、その装丁はボロボロだ。

 シェインがテキパキとつみれ汁のつがれた器を配る。運命の書から手を離し、エディはそれを両手で受け取った。

「・・・・す」

「えっ」

 いただきます、と言ったのだろうか。と、エクスは思った。しかしこの場面でそれは相応な言葉である。何故か気になって聞き返してしまったが・・・・その行動は正しかったらしい。

 エディは「いただきます」と言おうとしたのではなった。

 エクスを見つめる力強い瞳が、エクスに緊張感を覚えさせたのだ。それが、エクスが思わずエディに聞き返した理由だった。

 エディは静かに進級をして、意を決したように話し始める。

「・・・・此処は、数ある避難所の内の1つです。理由は分かりませんが・・・・皆さん、あの霧を恐れているようでした。そして、その霧から逃れられる場所に避難所を設けた。此処はその1つです」

 多くの人々がここに避難していた事は、洞窟内に散乱する物資を見れば一目瞭然だ。数キロに渡って敷かれた布の数は、100単位で数えても指が足りない。

 その全てが、ヴィランにされてしまったのだろう。

 彼1人を残して。

「えと、その。まだ霧が少しだけ薄かった頃、僕はこの洞窟の先にある出口近くの町で目を覚ましました。今の僕にとって、最も古い記憶というのがそれで、町の皆さんが避難所へ向かっている途中でした。僕はその波に飲まれて、この避難所へ」

「つまり、わけも分からず此処へ来た、と」

「はい。正直、町で目が覚めた時の事はよく覚えていません。それで僕の記憶が無い事を知ると、皆さん、とても優しくしてくれて。僕はしばらくこの避難所で僕の分も食料を用意してもらって、お返しに僕も皆さんを少し手伝って。僕も皆さんも不安は大きかったですけど、確実に笑顔は増えて来ていました」

 エディは小さく微笑んだ。今でこそ静寂の目立つ洞窟の中は、その時の彼等にとって、ほんの一時でも、最も安らげる場所だった事は間違いない。

 しかし、人々の笑みは急速に失われる。

「そこに、ヴィランが来ました。当然の事ですが、あれの事を知らない僕達は逃げようとしました。けど、僕以外の人は・・・・僕の目の前で、あの怪物になっていきました。何人かは逃げましたけど、仲間を逃がそうとした人、逃げ遅れた人。みんな・・・・っ」

「そうか、だから争った跡があったのか」

「・・・・はい・・・・。だから、大切な物があっても、持ってこられませんでした・・・・。僕も、記憶をとりもどうしたいと思って運命の書を開こうとした瞬間に襲われましたし」

 涙を堪えながら、エディはそれでも言葉を続けていた。

「運命の書を見る事までは思いついていたのね」

「は、はい。ただ、記憶が無かったからか、運命の書についての記憶も全く無くて。皆さんが何気無く聞いてくださらなければ、分からなかったかもしれません」

「それで・・・・どうだったの? 中身。何か思い出せた?」

「そ、それが、そのう」

 気まずそうにエクスから目を逸らし、白い湯気の立つつみれ汁を食べるエディ。

 そしてつみれをごくり、と飲み込んだ後、そっと、何かを差し出した。

「・・・・見て、くださいますか」

「「「「?」」」」

 エディの手に握られていたのは、装丁がボロボロになっている『運命の書』だった。

 エディの話では、ヴィランがこの場所にやって来て、それから逃げる時に落としてしまったらしいが。

 と。

 そこまで考えて、レイナ達は違和感を覚えた。

 何に対しての違和感だろうか。運命の書は、自分達が持っている『空白の書』と、見た目はほぼ変わらないはずだ。表紙こそ違うが、色合いやその造りは同一である。

 ・・・・。

 答えはシンプルだった。

 ヴィランは、狂ってしまった想区の主、カオステラーが《想区》の住人の持つ『運命の書』の内容を書き換えてしまうために生まれる怪物。強制的に。急速的に。

 では何故。


 ―― 何故、エディの『運命の書』は無事なのか?


「すぐ、見つかりました。落とした場所からは少し遠かったですけど」

 きゅ、と、唇を引き結ぶエディ。

 エクスは何かに気付き、エディの運命の書を開く。


 ―― そこは、見慣れた『空白』で埋め尽くされていた。


    エディもまた。


      『空白の書』の持ち主である。


「・・・・っ!」

 思わず絶句してしまう。

「エクス達が戦う所、何回か見ていたけど、君達が持っている『運命の書』―― それって、たしか『空白の書』ってやつだよね」

 エディは視線を泳がしながら。というより、言葉を選びながら聞いてきた。この『空白の書』を見て何かを思い出したのかは定かでないが、目の前の人物が『空白の書』を持つ者だと知って困惑している少女が、困惑した目のままで声を荒げる。

「っ! 何でそんな事を知っているの?! まさか、貴方ロキの・・・・」

「レイナ、落ち着いて。エディが『空白の書』ホルダーなら、『空白の書』の事を知っているのは不自然じゃないだろ? 一旦深呼吸。ね?」

 エクスが静止し、レイナはハッとなってエクスの言うとおりに深呼吸する。

 吸って、はいてを4回ほど繰り返し、レイナは落ち着いた様子で再びエディへ向き直った。

「・・・・う、ごめんなさい。そう、よね。空白の書を知っているからと言って、全員あいつの関係者なわけ、無い、わよね」

「いえ。僕も見た時驚きました。すみません、整理が付かなくて、さっきまでその。ボーッとしちゃって」

「僕達は大丈夫だよ。それで、何か思い出せた?」

「・・・・」

 暗い表情を見れば一目瞭然だ。運命の書には自分の運命が書かれている。それを見れば、記憶が戻らなくとも自分が何者なのかが分かるはずだ。いくら整理が付かなくとも、とりあえず『何者か』は言ってくれるはずだ。

 短い間だが、エディは記憶が無いためか、素直で隠し事をしない人間であると、少なくともエクスはそう感じていた。

「でも、思ったより僕は几帳面な方なのか、この想区の現状を書きまとめた紙が何枚か挟めてありまして」

「えっ、本当なの?」

「はい! 僕はもう読みましたので、要点だけお伝えしますね」

「いや、ちょっと待って、エディ」

 エクスが食べ終わったつみれ汁の容器を置くと、エディ以外の人間が立ち上がる。

「食後の運動にはちょうど良いな。珍しく良いタイミングだぜ。まぁ、食後にしてはメガ・ヴィランは勘弁願いたいけどな」

 タオが腕や足を伸ばし、洞窟の奥に揺らめく光を眺めた。

 再び、ヴィランの襲撃である。

「タオ兄、エディさんの話を妨害している時点でバッドタイミングです」

「そうね。それと食後にイキナリ動くのも体に悪いのよ? とにかく、早く色々聞きたいし、ちゃちゃっと片付けるわよ!」

「エディはそこにいて! 何かあったら呼んでね!」

「うっ、うん!」


 ヴィランの襲撃を再三撃退するエクス達は、エディから再び話を聞くことになった。

「この想区は、元々『霧の国』っていう国が中心になって動いていました。ずぅっと昔、英雄が神様を好く出来事があり、神様はお礼に、何でも願いを叶える『願いの宝珠』を人に与えました。ただし、願いを叶えられる回数は決まっていて、その回数分を消費すると『願いの宝珠』はただの小さくて透明な水晶球になってしまうのです」

「その『願いの宝珠』とやらが、カオステラーと何か関係がありそうね」

「正にその通りです。本来は『エトワール』という名前の少年が、その命を捧げて『願いの宝珠』に願える回数を回復するため、長い旅をするという運命だったようです」

 エディが言うには、『願いの宝珠』は誰の願いでも、どんな願いでも叶える神器なのだそうだ。願うことの全てが『運命の書』に記されているのだろうが。

 しかし、その願いには回数の制限と、時間の猶予があるらしい。正確な回数も時間も不明だが、その期限が近付くと、彼曰く『エトワール』の運命を持つ少年が産まれるのだそうだ。

「その『運命の書』に従い、たった1人で旅をして、道中困っている人を助けながら。そして、どうやらその良い行いが幸いして『願いの宝珠』は願える回数と寿命を回復させるようですね」

「命を、捧げる、か」

 エクスはふと、暗い表情を隠すように顔を伏せた。

 ・・・・ジャンヌ・ダルク。彼女もまた、運命の書によって「いつ死ぬのか」を定められた者だった。

 その死をもって、運命を動かす鍵となっていた。

「これでも、この世界では最も幸福な運命ですよ。人々に希望を与える運命ですから。ただ・・・・」

「ただ?」

「・・・・おそらく誰も試した事は無いでしょうが、もし『願いの宝珠』に命を捧げず、もし『願いの宝珠』が願いを叶える力を失えば・・・・こう、なります」

 エディは、見えない洞窟の奥を眺め見る。

 沈黙の霧にも似た、深すぎる霧。何も見えず、ともすれば誰の声も聞こえなくなってしまいそうな。

「それって」

 はっと、レイナが息を呑む音が聞こえる。

 ・・・・。

「この霧はこの想区にいる人達にとって恐怖そのもの。普段から『全てを奪う霧』と呼ばれていて、エトワールという少年が現れたら、たとえ自分の子供でも、世界を救うための生贄として、王様に差し出すらしいです。」

「王様?」

「うん。この先に町があって、それを城下町とした大きなお城で・・・・あ」

 何気無く話していたが、どうやら「自分が目覚めた町」の事を少しだけ思い出したようだ。何度かまばたきをして、1回だけ深呼吸をする。

「レイナ。もしかすると、そのエトワールっていう子が?」

 急に記憶が戻ってきた事に驚いているエディが落ち着くと、エクスはレイナに問いかけた。

「可能性は高いわ。最初から『命を捧げる』事が決まっている運命を与えられて、自分はただ良い事を繰り返す。その過程でエトワールという子が、自分のやってきた事に『自分に対して』何の見返りも無いという事に気付いたら、もしかすると」

 運命の書に書かれた内容が細かければ細かいほど。想区の主人公に近ければ近いほど、自分の運命に対して疑問が生まれやすいという。

 その疑問が、ストーリーテラーへの疑念へ変わるその時。自身の運命に疑問を持つ者の強すぎる想いが、ストーリーテラーをカオステラーへと変貌させ、それを『自身』へととりつかせる。

 そうして想区は、カオステラーとなり、創造の力を得たその者の願いで、その形を変貌させる。

 自身の運命に抗う、登場人物達の強すぎる想いと願いによって。

「・・・・カオステラーがいるのは何処だろう? 今の話で言う、命を捧げる場所とかかな?」

「それはありません。僕達が出会ったあの場所こそが、命を捧げる祭壇ですから」

「えっ」

 エディとエクス達が出会った場所といえば、あの不自然に霧の晴れた石造りの地面が広がる場所だ。

「ならお城ですね。これまでのカオステラーは物語の終着地点にいる傾向がありますが、シェイン達のいた祭壇を終着地点として、そこにいなかったのであれば、そこにいないとしても、その『エトワール』さんが旅を始めるとされる出発地点から始めるのが得策かと」

 シェインが変わらぬ無表情で淡々と言うと、レイナが小さく頷いた。

「そういうわけだから、案内してくれる? エディ」

「はい。・・・・あの」

「ん?」

「その。エトワールを見つけたら、どうするつもりですか?」

「・・・・カオステラーだったら、倒すよ。倒して、レイナが『調律』する。そうすればこの想区は元通りだ。まぁ『空白の書』を持つ僕達には何の影響も無いけど、この想区の人達は、カオステラーがいた時の事を、もしくはヴィランに変えられた人達も、自分達がヴィランに変えられていた事の全てを忘れる。・・・・僕達と出会った記憶も含めて、ね」

「! 元に・・・・そっか、良かった。なら、早く『調律』しなきゃ。だね」

 ・・・・。


(この時、エディが浮かべた満面の笑みの意味を僕達が知るのは、随分と先の話だ)

(けど、それを知っても尚、僕達は前に進まなければならなかった。


 このまま霧が世界中を覆ったならば。

 それはおそらく、この想区の「おしまい」だ。


 ・・・・まだ、レイナの『調律』に対する気持ちの整理は、完全に付いたわけではない。

 しかし。

 自分の今は無き故郷を思い出しでもしたのだろうか。

 レイナは少しだけ、決意を固めていた。

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