破壊ノ姫
NUJ
第一部
第1話
『太平洋上に奇妙な腐乱死体!クジラか?それとも巨人か?』
−3月未明頃、漁船あぬた丸から「見た事のない大きな生き物の死体が浮かんでいる」と市に連絡がありました。市によりますと、浮上していた生物は著しく腐敗しており特定が困難ということです。骨格を見ると大きな人間に非常に近いという報告もあり、この先の調査結果に注目が集まっております。
「見た?」
「巨人の死体のニュース?」
「うん。写真もみた。」
「キモイよねー。皮膚なくて真っ赤だし、肋骨見えちゃってるし。100メートルもあるのかあれ。」
「一体何なんだろうなあ。そもそも何で海に打ち上がってるんだ。」
「さあ。でも腐敗してたってことは最近まで生きてたって事よね。」
「何それ。怖い。」
「2週間前くらいに南極で謎の爆発があったって言うじゃない。」
「何それ、関係あるの。」
「南極の氷で固まっていた怪物が、蘇ったとか。」
「そんなファンタジーみたいな事、起きるかねえ。まあ起きたとしても今死んでるけど。」
『太平洋上の巨大生物はやはり突然変異のクジラか』
-海上自衛隊の
…このようにかつて賑わせたニュースとて、1、2ヶ月も経てばほとんどの人の興味は薄れ、忘れ去られていくものである。結局あの怪物が何だったのか関心をおく人は少なく、残ってその情報を追っているのは研究熱心な人たちか、あるいは、世の超常と反逆を信じたい者たちしかいない。インターネットを見れば「人間の環境汚染が引き起こした突然変異の犠牲者」と声高に訴えているサイトが、SNSでたくさんシェアされている。
そのようなシェアを頻繁に見かけるため、太平洋の怪物関連の記事を鬱陶しく感じるようになった人もまた多くいる。僕もそうだ。根拠のない説を流布して、恥ずかしくないのか、と苛々していた僕が、しかし、あのような出来事に巻き込まれるとは知らなかった。
「いかがでしょうか。」
マンションの若い大家さんの
「いいところじゃないですか。」
僕、
「壁に所々に埋め込まれている大きな
「あの、はい。」冨田さんは申し訳なさそうに首で頷いた。「花澤さまはご存知でしょうか、噂を・・・。」
「あ、もちろん。」当然激安物件はワケアリが多い。「
「ああ、そうです・・・」
『タイルがおしゃれなこのマンションに怨霊か!<(0o0)>』
〔ハーイ!世界の深淵よりあなたに真実の言葉をお届けする、地獄の申し子、ABYSS娘でぇす☆
今回普通にお散歩してたら、ちょっと怪しい気配がしたのね<(0o0)>
何かと思って探ってみたら、このマンション
[写真]
調べたら琥珀のタイルがおしゃれなマンションだって
でもここに、苦しんで死んだ怨霊が確実にいる!
ここからはあたしもはっきり分からないんだけれど
もしかしたらあの太平洋で死んだ怪物の霊かもしれない
まだこれだけははっきり分からないんだけど、みんな心に留めといてね☆
では最後に本日のメッセージ
毎日「ありがとう」を欠かさない。
ではミ☆〕
当然ながらマンションの場所は特定され、たちまち客足は途絶えてしまった。このような事件を度々起こしているABYSS娘だが、正体不明の存在であり、営業妨害だと訴えようにも尻尾がつかめないようである。
「僕は気にしてませんよ。あんなこと。」僕は冨田さんにそつなく伝えた。「根拠の無い事なんて信じない。誰かが実際に死んだんじゃあるまいし、大学に入って念願の一人暮らし、こんなオシャレな部屋を見つけたこのチャンスを絶対逃すまい。」その上、人が寄りつないものだからお代が非常に安い、という理由はさすがに言えない。
「では、ご契約、ですか・・・?」
「もちろん!宜しくお願いします!」
こうして得た念願の一人暮らしに僕はわくわくしつつ、しかしすぐに疲れ初めてしまった。食事も炊事洗濯も全て自分が行わねばならない。うまく生活リズムに嵌れば楽しいのだろうが、あいにく僕は少々怠慢な所があり、一回崩れると何もかもうまくいかず、いろんな事が疎かになっていく。結果部屋は荒れ、心も荒れ、ちょっとばかり鬱にもなる。
僕には高校からの友達で同じ大学に通う
『元気』
5分経って、
『元気だよ』
『何してる』
『あしたの宿題』
『そうか』
『ごめんまたあとでね』
と淡々な会話をして話が終わってしまう。
こういう時、部屋の琥珀のタイルに独り言のように話しかけて気を紛らわせたりするのが最近の僕の習慣だ。ちょうどこのタイルの大きさが座ってる自分と同じくらいだからか親近感がある。
「ああー、こういう時誰かが一緒にいたらなー。」
タイルは答えない。前々から気づいていた事だが、タイルの模様はよく見ると独特で、脊髄のある何かが丸まっている。おそらく化石だろう。きっとこの中には古代の生き物がいたのだろう、と僕はちょっとしたロマンを感じながら話しかける。
「元気?」
タイルはなにも言わない。
「元気そうだね。僕は元気だよ。」
タイルはなにも言わない。
「ああ、君が人だったらなあ。もう少し気楽になれるのに。」
タイルの化石にそんな事を話しかけた所でしょうがない。そんな夢見はさておき、この背後にあるまだ畳まれて無い洗濯物を一気に畳もう、と僕はようやく決心して向き直る。
ぱき。
背後のタイルの方から音がした。
みちみちみち。
何かが小さく潰され砕かれるような音。
僕は振り返った。
タイルにあった骨だけだったシルエットが膨らんだ形をしている。
よくよく見ると細かい繊維のようなものが枝分かれしながら伸びて骨のシルエットを覆おうとしている。
それは人の大きさで人の形をしていた。
僕は後ずさりした。
そのタイミングがよかったのかもしれない。琥珀のタイルが突如破裂し、僕の足元に大量の破片が滑り落ちた。
僕は唖然とした。
壁の中にいたのは、白い体の・・・
「女の子・・・。」
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