第27話 標的確認
朱里はキリカに連れられて、基地に備わっていたオペレーションルームまで歩かされていた。二人だけには広すぎる部屋へと通されて、モニター内臓式のデスクの前に座らされる。
「小さいのと大きいの、どっちが好み?」
「じゃあ、大きいの」
キリカが大小のモニターを指に差して訊いてきたので、朱里は見やすい前方にある大型モニターを指し示す。大型モニターが起動して、世界地図を表示する。さぁて、とキリカはキーボードを叩いて目当てのデータを表示した。
「我らの素晴らしき元雇用主についてお勉強しましょう」
画面には社長が写っている。ダークスーツ姿で、頭にはシルクハット。スーツは見覚えがあるが、帽子をかぶった姿を朱里は見たことないので、外行きの仕様なのだろう。
「現代ビジネスマン風、と言ったところか。金ぴかスーツの成金仕様じゃないのが不思議でしょうがないくらい」
「それは確かに。あの悪趣味だったら、身に着ける物全て金に染めてても不思議じゃないわ」
なぜ社長室だけ金に染めるという“謙虚”な姿勢なのか、朱里は疑問が尽きない。あの社長なら、常識を疑われようが罵倒されようが、面白いと言って愉しみそうなものだが。
「で、敵さんは本当に強いの? 小城さんも奴は銃で殺せるはずと分析していたんだけど」
「そういう見通しの甘さが、足を掬われる原因となるのよ」
まず日本が残した盗撮データから、とキリカは映像を画面に写す。
画面には日本政府の代理人が社長と交渉しているところだった。このデータは小城の部屋にあったので朱里は閲覧済みだ。日本だけでなく国際連合の代理として交渉していた要人が、あろうことか自分の秘書官に撃ち殺されてしまうのだ。
「買収能力は恐ろしいわ。きっと世界の政府機関に似たような輩が紛れ込んでるはず」
しかし現在、朱里はキリカだけを味方と定めている。それ以外の人間に対し油断をしなければ不意を衝かれる恐れもない。
そんな朱里を見かねたのか、それだけじゃないとキリカは首を横に振って否定した。
「問題はそれじゃない。それだけだったらとっくに殺せている。敵の洗脳能力なんてのは、初歩的な手品でしかない。真の力はここから」
映像が移り変わる。森の中だ。周りにはデジタル迷彩を着込む軍人が数人いて、これが特殊隊員の頭部カメラから撮影されたことがわかる。まるでリアルを重視した戦争映画のような映像だ。時折聞こえる無線から、これがアメリカの特殊部隊シールズによる軍事作戦であることがわかる。朱里は詳しくは知らないが、シールズは多くの軍事マニアにとって憧れの的だ。よく映画やゲーム、小説などでも取り上げられる。
『シール2。状況は?』
『こちらシール2。これより対象に攻撃を仕掛ける』
宣言通り、シールズは訓練の成果を遺憾なく発揮して、走行していた社長のリムジンと護衛者を地雷で破壊する。護衛たちは行動不能になった車から社長を守るべく外へと出たが、ライフルの一斉射を食らい反撃の余地なく撃沈する。
『やれやれ、参ったな』
社長がゆっくりと故障した車から出てきた。社長へと直接襲撃した部隊の他にもシールズは展開しているはずだった。なのに、社長は余裕の表情だ。護衛もなしに、無数の殺気と銃口を向けられて飄々としている。
『僕を殺す気かい? 僕が死んだら、一体誰がビーストを狩るんだ?』
『……問題はない』
隊員の一人がきっぱりと言う。そう、問題はないのだ。いくらPHCの技術が優れていても、直接物とデータさえ入手できればいずれ世界の技術力も追い付く。時間が掛かるかもしれないが、より効率的に魔獣を狩ることができるようになる。
人が強大な獣に脅かされるのはこれが初めてではない。石器や槍を使って獲物を狩っていた時、銃なんかよりもひどく劣った粗末な武器で人は狩りをしていた。古代人でも獣を狩れたのなら、現代人が魔獣を狩れない道理はない。
『暗殺作戦か。酷いな。アメリカは暗殺しないと言ってたろ』
『いつの話をしている』
隊員がうんざりしたように言った。社長とこれ以上会話を続けるつもりはないのだ。この男の非協力的な態度は今までの交渉でハッキリとしている。拷問して情報を引き出す手立ても考えられたが、社長には予想もつかない協力者が世界中にいる。逃げられるくらいなら、さっさと殺してしまえというのが、彼らに与えられた命令だった。
『こちらシール2。これよりターゲットを暗殺する』
『ああ、恐ろしいな』
隊員の一人が社長の眉間に向かって銃弾を撃ち込んだ。ヘッドショット。即死の狙い。
そして、崩れ落ちる。社長を撃った隊員が。銃弾がきらりと光る何かに弾かれて、戻ってきたのだ。
『何だ!? 撃て、撃て!!』
周りの隊員が一斉に銃を撃ち始めるが、何かに弾を防がれる。異常事態が起きていた。アサルトライフルを連射しているというのに、社長に一発も届かない。
『ああ……言ってなかったな。僕は護衛が必要じゃないくらいには強いんだ』
社長が手に金色に輝くものを持つ。朱里はやっとそれがコインだったことに気付いた。社長がコインを弾くと、弾丸よりも早く強くシールズの一人を打ち砕いた。それだけではない。複数名の隊員が口の中からコインを嘔吐した。コインが隊員たちの中から溢れ出す。
『君たちは強く、勇敢だ。できたコインはコレクションしがいがある。大切にさせてもらうよ』
隊員たちがコインの山へと変わっていく。撮影していた隊員も例外ではなかった。人のモノとは思えない身の毛のよだつ悲鳴を上げて、カメラの高度が下がっていく。ヘルメットがコインの山へと沈んで、下から社長を見上げる形となった。
『これは公式な作戦? それとも非公式? 僕なら、これを公開しようとは思わないね。どういう意味かわかる? わかるよね。君たちはそういう政治は得意だろう?』
映像はそこで途切れた。作戦に従事していたシールズは全滅。これ以降、米軍は社長に対して大がかりな干渉ができなくなった、とキリカが解説。
「手品を使ったってことはやはり……」
「ええ、社長は悪魔。考えてみれば当然でしょう? ただの人間が、世界をこんな風にできるわけがない」
だったら、何の策もなしに突撃したところで、朱里も社長のコレクションアイテムに成り下がるだけだ。
いや、だとしても、奴を狩るのに朱里ほど適任はいまい。人を殺すのは人で十分。しかし、悪魔を狩るには怪物が必要だ。自分の必要性をひしひしと感じて、強く目標を意識する。
「どうやって狩る?」
というキリカの質問に、朱里は顎に手を当てて、
「今じゃ何とも。コイン弾は強力だけど予備動作を視認できれば回避は可能。でも、人をコインに変える能力が厄介ね。あれさえなければ接近戦で一気に片が付く」
「……私とシルフィも似たような戦術を立てたわ。でも、錬金術に打つ手はない」
「錬金術。つまり、あいつは錬金術師?」
「そう。ぶっちゃけ何でもあり。やろうと思えば世界を征服できるでしょうに、それがつまらないから、奴は会社経営を行い、駒を動かす戦略ゲームを始めた」
朱里は夢に出てきた悪魔少女の言葉を思い返す。――勝ちすぎて、悪魔の心は涸れている。
人があまりにも弱いから、悪魔はあえて油断して敵の強さを楽しもうとしている。強者由来の思考に反吐が出たが、これはチャンスだ。朱里は悪魔に自分の力を誇示したいわけではない。邪魔だから、排除したいのだ。なら、この機会をむざむざと逃す手はない。こちらが弱ければ弱いほど、敵に勝てる可能性は高くなる。
「概念的な強さを敵が持っていないなら、弱さはアドバンテージ。勝てる可能性はゼロじゃない」
いや例え無敵のバリアーを張っていたとしても、朱里は勝つ自信がある。
「不敵ね。弱点がない敵は存在しない。弱点がないと言い張ることは、自分の弱点を見落としているということであり、そこを狙われればどんな強者でも呆気なく敗北する」
「そういうこと。……正直、敵と戦わないと戦略は練れないわね。敵の攻撃手段を知ったから、即死は免れるだろうし」
「戦っている最中に敵の狩り方を構築し、実行する。――スリルを楽しむ好戦的な性格ね」
「悪い? だからこそ悪魔を狩れるのよ。私はウォリアーじゃなくてハンターだから」
「いいんじゃない? そうでなくては困るし。――何のために私と協力者が――おっと」
キリカは何かを言いかけて、国連軍が使用するレーダーに反応があったことに気付いた。朱里も気になって彼女のモニターを覗く。戦争が始まったか、と呟くキリカ。
「早いわね」
「むしろ遅いくらい。いつでも攻め落とすことはできたんだからね。逆に言えば、攻める必要もなかった」
キリカは衛星にコマンドを送り情報を傍受しようとする。勝手にデータリンクを構築していた右眼が、閲覧しますかと先んじて訊いてきた。
朱里は右眼に応えて瞑り、太平洋沖で始まった自衛隊と米軍による迎撃作戦を俯瞰する。
※※※
先行していたのはF―22。先日ドラゴンに撃破されたF―15の新型タイプだ。PHCの日本支社がある太平洋沖の孤島から、輸送機が発進し本土へ上陸しようとしていたのだ。
『素人め。作戦もへったくれもない』
『ビースト相手では後れを取るが人間相手ならば我々の方が優れている』
パイロットの無線通り、防衛戦は早々に構築され、護衛もない輸送機部隊は日本へ到達するのは不可能に思われた。朱里が目視していたイーグルたちが
『楽勝だ。第二派の迎撃に……ッ!?』
戦闘機のパイロットの一人が異変に気付く。他の隊員たちも瞠目して――自身の機体の上に乗った黄金スーツを着込む狩人を目の当たりにした。
『な――パワードスーツだと!? バカな……あれはまだ開発ちゅ――』
迎撃した戦闘機の内、一機が爆発四散。次々と爆発が起きて、迎撃部隊は文字通り全滅。PHCのパワードスーツチームは、展開していた艦隊へと攻撃を開始。空母や護衛艦、駆逐艦など複数の戦艦が展開していたが、パワードスーツが小さすぎてまともに応戦できない。内部へと進入を許し、兵士たちが銃器で応戦するも、フルフェイスのパワードスーツには効果がない。自分の撃った弾で死んでしまう兵士も少なからずいた。
パワードスーツを纏った狩人たちは、主武装である槍や剣を使って刺し貫くか、敵の銃を奪って軍人たちを虐殺して行った。なるべく兵器は壊さないように戦っている。後で利用するためだ。リサイクル精神で、使い手を殺し武装を回収していく。
「撤退させて」
朱里が念じるように呟いた。戦ったところで意味はないのだ。端から負け戦。米軍も自衛隊もPHC相手には分が悪すぎる。敵を始末できたかも怪しいところだ。PHCのスコアはどんどん上がっていって、それに比例して日米連合軍の死体の数も上昇していくばかり。
早く逃げろ。まだPHCは国土を攻めない。常識をかなぐり捨てろ。朱里は生者に訴えるが、言葉は届かず人が死ぬ。無意味に死んで、海に沈んでいく。
「くそッ」
朱里が毒づいたと同時に、血に染まる海全体へ声が響き渡った。機械か、手品か? どちらでも良い。重要なのは話の内容だ。
『そろそろやめてあげよう。一気に殺すのはつまらないからね。対策期間を設けようじゃないか。君たちは今日のデータを持ち帰って分析し、対応策を考え出してくれ。人は群れる生き物だ。日本だけならいざ知らず、他の国々とも協力すれば何か策が導き出せるかもしれないぞ?』
答える気力のある兵士はこの場にいない。数名残った指揮官も謎の声に返答する余力は残されていなかった。
代わりかどうかは不明だが、社長は朱里に投げかける。やぁ、見てるんだろう? そう気さくな態度で、
『君が逃走したのは残念だ。お気に入りだったのに。僕は君の強さに惚れた。君は例え劣った武装を用いても、どうにかして対抗策を編み出すだろう。君、彼らに戦い方をレクチャーしてやったらどうだい? 人相手のありきたりな戦い方しかできない彼らを教育してあげるんだ』
「ふざけないで」
朱里は心の底からそう思った。ふざけるな、と。自分が戦うのは大好きだが、誰かが自分の代わりに戦い死んでいくのは大っ嫌いだ。
これには大人も子供も経験も才能も博識も無知も関係ない。怪物の有無。ただそれだけが重要だ。朱里は怪物なのだ。見る者を恐れさせ、敵を怯えさせ、己の欲望に忠実に動く畏れ多き者。遥か太古から存在する獣狩りの術を生まれながらにして身に着けている狩人だ。
だから、朱里が戦う。戦士や暗殺者、軍人たちを差し置いて、狩人が銃を執る。
「お前を狩るのは私。他の誰にも譲るつもりはない。私は怪物だから、あなたの予想を超えて、その喉元に食らいついてやる」
『怖いなぁ。恐ろしいよ。なんたって君が僕を狩る理由は、正義感でも、恐怖心からでもなく、僕を殺したいという欲望からだからね。誰かを守りたいわけでも、トモダチの仇を討ちたいからでもない。もちろん、多少は関わっているけど、一番の理由は殺したいからだ。こういう手合いは本当に怖い』
以前なら頑として否定するか、根暗みたいにうじうじしながら肯定していたが、今や自身の怪物を胸を張って受け入れている。それでいいと、心から思っている。今、朱里が生きる理由は社長を狩ることの一点に尽きている。
「せいぜい会社の中でブルブル震えていることね」
『そうさせてもらう。ああ、わかっていると思うけど、もう僕は君たちの居場所を捕捉しているよ。最高の刺客を送り込んだから、そいつを狩って僕を殺しに来てくれ』
「もちろんよ」
朱里は毅然と言い返す。社長はまたいつもみたいに笑いながら、
『頼もしい限りだ。その自信がいつまで続くか見物だよ』
社長との対話が終わり、朱里は戦場の俯瞰視点を中断する。
※※※
「今の聞いてた?」
朱里はモニターを熱心に眺めているキリカに訊く。キリカはもちろんと頷いて、
「これから来るであろう敵を倒せば、計画は最終段階に移行する」
朱里の知らない計画が着実に進行しつつある。とはいえ、終着点が同じであるなら何も問題は起きない。朱里の目的は、先程社長が言っていた通りだ。キリカだって重々承知しているはずだ。
「チャーチが来てくれればいいんだけど。ネフィリムの仇が取れるのに」
臆面もなく呟く朱里に、キリカは目線を逸らしながら、
「それはないと思う」
と断言する。まぁ、朱里も希望をこぼしただけだ。本当にチャーチが現われるとは思っていない。
「パワードスーツ兵だったら、大した問題もなく対処できる。PHCに私を殺せるほどの強さを持った奴がいるとは思えない」
「自信満々ね、朱里」
自信に満ち溢れている朱里にキリカが言うと、朱里は驕っているわけじゃないわよ、と言い訳して、
「でも、うじうじしている相棒なんて見たくないでしょ。ネガティブ野郎は大っ嫌い」
「PHCに捕まった時はかなり荒れてたらしいけど」
「だからこそ、その反動なのかもね。ああやって自分の弱さに甘えていた自分が腹立たしいだけよ」
他人なら許容できるが、自分がああもみっともない状態だったと思うと朱里は情けない気持ちになってしまう。どんな相手が来たって、例え苦戦したって勝ってやる。朱里は覚悟を決めて、出てくる相手をどう対処するか想像を膨らませる。
「ハンターだったらなるべく殺したくない。でももし、PHC……というより社長がビーストを生み出しているんなら、ビーストが攻めてくる可能性の方が高いわね」
「或いは、その両方かも」
「……両方?」
キリカの呟きに朱里が耳ざとく反応した瞬間に、基地内の警報が喧しく鳴り響いた。右眼も警告を発する。――正体不明の敵が接近中です――。
「画面に監視映像を出す」
朱里とキリカのレジスタンス基地には周囲を監視するべく大量の監視カメラが設置してある。キリカが画面に映し出すが、朱里は独自に右眼でカメラの一つをハックして眼内に表示させていた。左眼でモニターを見上げ、右眼で直接敵の姿を確認する。
「ビースト。黒いドラゴン……ワイバーンね。敵意の象徴。本気であなたを殺しに来たのかも」
モニターには体表が黒く、前足と翼が一体化しているワイバーンが表示されていた。近年のフィクションではドラゴンの下位互換として扱われることも多いが、PHCが観測したデータでは魔術も使う恐るべき敵である。
だが、朱里がよく手品と言い表す魔術は、タネさえわかってしまえば対処は容易い。
「さっさと狩って、復讐に行くか。……朱里?」
キリカはなぜか驚愕の表情で画面を見つめている朱里を疑問視する。朱里がなぜそれほど驚くのか理解できない、といった様子だ。
ワイバーンは凶悪だが、朱里は一度ドラゴンタイプを狩っている。似たタイプを屠ったことのある朱里が恐れる理由が見当たらない。もしや、シルフィードの時のようなことが起こると危惧しているのかもしれないが、だとしてもキリカは悪魔と契約する気はさらさらない。どうせ死ぬなら潔く死ぬ。
「な、なぜ……どうして」
しかし朱里は崩れ落ちてしまう。どうしたの、とキリカは朱里を立ち上がらせる。
「て、天使が……」
朱里がか細く呟いて、キリカはようやく朱里がワイバーンとは別の敵を見ていることに気付いた。
朱里が呆然としている横で、キリカは端末を操作する。そして、ワイバーンの反対側から迫っている小さな物体を表示させた。
黒い翼に、白い髪。翼を生やし、超高速で海上を滑空するその少女の名は――。
「――ネフィリム」
朱里は義眼と接続された監視カメラに映る、虚ろな表情のトモダチの名前を呼んだ。
※※※
「うふふ。特等席ゲット。やはり迫力のある場所から眺めるのが一番よね」
左方からはワイバーン。右方からはネフィリム。島から少し離れた空中で、テーブルと椅子、そして紅茶カップを手に持つ少女が浮いている。
気品すら窺える紫髪の少女は、これから始まる劇を楽しみにしていた。今、メインキャストは衣装に着替えている最中である。今か今かとはじまりの時を待ちわびている。
「ネフィリムは天から使わされ、人の魅力によって堕落したグリゴリの忌み子。小さな巨人。暴食の名を持つ堕天使と人間のハーフ。あの男によって機能制限、拡張され、人に奉仕するよう改造された人造人間。さぁ、朱里。狩らなくちゃねぇ。彼女はあなたのトモダチである前に――悪魔だもの。妖精の時と同じようにね。うふ、うふふふふッ!」
悪魔少女は笑う。苦悩するであろう怪物を見て、嗤う。
※※※
「始まったか」
社長はモニターを見て嬉しそうに呟く。金色の部屋がきらきらと光り輝き、社長の喜びを表しているかのようだ。
「始まりました」
チャーチは同意して、携帯を取り出す。少し操作して、失礼しますと言って部屋を出ようとする。
「どうしたんだい? 見ないの?」
「……先程の作戦で反抗心が芽生えたハンターが数名いるようです。適切な処理を行うため、諫めに行ってきます」
「そうか、残念だ。僕はここで見ているから、何かあったら呼んでくれ」
「承知しました」
チャーチは社長室を出て、廊下を進む。しばらく歩いていると、にやにやと全て知っているような瞳をしたヴィネと鉢合わせた。
「お仕事、するんですか?」
「わかり切ったことを私に訊くな」
チャーチは一言ヴィネに告げて、再び廊下を歩き始める。ヴィネはその背中に声を掛けた。
「じゃあ、例のアレ、準備しておきますね。大切な預かりものですからねぇ」
意味深に笑って、手伝いますよ先輩、と手伝いを申し出てきたウヴァルと共に武器店へ戻っていった。
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