第11話 堕天使狩り
次に狩る獲物は、小城を殺した天使に決めていた。
だが、なかなか発見報告があがらないので、朱里は小城の部屋に残っていた資料を自分の部屋へと移し、彼が調べていた情報を頭の中に叩き込んでいた。いざとなれば、いつでも処分が可能なように。
「まずはこれね」
小城の部屋で見つけたメモリーカードをスマートフォンに差し込んで読み込む。
ダミーデータらしい画像やどうでもいい記述文書を読み飛ばし、朱里は重要そうなファイルをタップで読み込んだ。
タイトルは、女性の口説き方についてなどという無関係なものだったが、中身はれっきとしたPHCを分析するレポートだった。
『PHCの異常性はかの会社が持つ独自の技術力その一点に尽きる。なぜ先進諸国と数十年の開きがあるほどの技術力を保持しているのか、今だその謎は解明できない。しかし、重要なのは謎の解明ではなく、技術の獲得だ。PHCが秘匿している以上、内部による潜入によって技術を流出させなければならない』
小城は技術を盗むために、PHCへ潜入した。記録によれば、各国のエージェントも自国周辺の支社に潜伏しているらしいが、大した成果は見られていない。
どこも上手くいっていないようだ。小城ですら、PHCの独自技術への到達は叶わなかった。
『次に疑問なのは、PHC社長の驚異的な独自性だ。あの男は既に我々が手出しできないような見えない壁の中へ隠れてしまっている。銃を向ければ殺せはするが、下手に殺せばビーストへの対抗手段を喪ってしまう。国際連合はPHCを念頭に置いた独自の経済システムへの移行を提案しているが、各国政府は承認していない』
バカバカしい話だが、事実なのだろう。
PHCは、世界の主と化している。世界の国々がたかが一企業に振り回されるなど夢物語のようだったが、実際に経済破綻してしまった国もあるという。世界の崩壊は近い。社長が人類史上初めての世界元首になる日も近いのかもしれない。
『さらに奇妙な問題点。それは、PHCが自衛隊や軍の観測レーダーよりも素早くビーストの存在を知見することだ。彼らはどこよりも早くビーストの出現を察知し、政府へ勧告してくる。ドローンで隔離地域を見張っているとはいえ、自衛隊も網を張っているのだ。いくら技術が進んでいるからと言って、これほど差が出るものだろうか。憶測は尽きない』
憶測――これはPHCによる自作自演ではないか、という根拠のない推測。
だが、この意見は小城も証拠がないという理由で否定していた。朱里も一瞬そうではないかと思ったが、わざわざ魔獣を世に放つ理由がわからない。
いや、あの社長なら有り得ないことではない。魔獣の存在が社長に与える利益は計り知れない。
「でも、証拠不十分。考えるのは止めて、実のある行動をしましょう」
独り言を呟いて、朱里は部屋を後にする。天使と戦う前に、装備の点検をしておきたかった。
「やあ、ハンターアカリ。ヴィネショップへようこそ」
ヴィネの挨拶を受け流し、朱里はカウンターへ一目散。
「例のアレを」
「はい、どうぞ」
ヴィネはカウンターの下に置いてあった小城の剣を取り出した。
ライフルソード。狙撃銃と剣のいいとこ取りを目指した剣銃だが、結果は扱える者が限られる難物となってしまった。
ヴィネはそれをこれはいいものです、と上機嫌で言い、
「あなたは天使と悪魔を見たのですね」
「知ってるの?」
「もちろん。私は何でも知ってますよ?」
ドヤ顔を振りまくヴィネ。思うところがない訳ではなかったが、他に話せる相手もいない。
物は試しと訊いてみた。時間を止めて現れた紫髪の少女について。
「不思議な体験をしたの。殺される直前、妙な少女が現われて、力をあげるって言ってきた」
「へえ、興味深い。臨死体験って奴ですか?」
「まさか。……わからないならいいわ」
ヴィネは答えを持っていない。ヴィネの点検作業を見ながら、ふう、と小さくため息を吐いた。
するとヴィネは作業を止めて、
「契約はしなかったんでしょう?」
「――え、ええ」
迫真の顔つきで訊いてきたヴィネに驚きながら、朱里は答える。
ヴィネはにっこりと――丁度少女が笑っていたのと同じような笑顔を浮かべて、
「なら、大丈夫です。妙な輩の提案には乗らない方がいいですよ? 一体どんな罠が仕込まれているかわからないですからね」
「どういうこと?」
「さあて、私は常識を口に出しただけですよ。点検、終わりました」
ヴィネは自慢の一品を朱里に差し出した。
装備の点検を終えた朱里は自室へと戻り、思案に耽っていた。
そこへ来客が。ネフィリムだった。涙跡の残る赤い瞳で泣いていたことが窺える。
「どうしたの?」
「アカリ。申し訳ありません。私のせいで隊長が」
なぜそこでネフィリムのせいになるのかわからないが、ネフィリムはそういう思考回路の持ち主だ。
ネフィリムを招きよせて、抱いてみる。泣いた弟を慰めるように背中を叩く。
「あなたのせいじゃない」
「いえ、私は増援として出撃するべきでした。私の判断ミスによって隊長が……」
「私からの命令。自分の失態でないことを自分の失態にしないこと」
朱里が命令を口に出すと、ネフィリムはしぶしぶながらも同意した。
難儀な少女だ、と思う。どういう環境で育てば、全ての人間を平等に敬うことができるのだろう。
「アカリは天使と交戦した、と報告しましたよね」
「ええ。あれはまごうことなき天使。ビーストという表現がふさわしくない、神話の中の存在よ」
魔獣用の兵器は、ヴィネのおかげで充実している。しかし、当たらければ意味がない。
朱里はどうやって敵を倒すべきか再三思案を続けているが、具体的な妥当策は見いだせなかった。
だが、それでいい。朱里はほくそ笑む。今までもそうだった。下手に論理的では、不意を衝かれた時に対処できない。大雑把に、曖昧に。朱里は念密に策を弄するタイプではなく、衝動赴くまま敵を狩る怪物だ。朱里とはタイプが合わない戦い方を進んで選ぶ必要はない。
「格闘戦なら効く。問題はどうやって近づくか、だけど」
初戦では油断して近づいてきたが、朱里に腕を叩き落された以上、遠距離戦へ移行するだろう。
朱里の義眼ならば、敵の風圧を予測して弾丸を穿つことも可能かもしれないが、それでも決定打に欠ける。やはり、接近して一撃入れねばならない。
「……なら、クモの糸を使ってみては如何ですか?」
ネフィリムの提案に朱里は疑問符を浮かべた。
「クモの糸?」
「ええ、クモの糸。ワイヤートラップです。飛行型のビースト用のスカイワイヤーを戦術支援として要請できます」
ネフィリムの言葉を裏付けるかのように、右眼が解説をし始めた。――ワイヤートラップは、PHCにおける設置型捕縛兵器の一つです。ステルスドローンと対ビースト用ワイヤーを組み合わせ、指定された地点へと網を張ります。網が張り付いたビーストは、しばらくの間飛行能力を失います。
狩りの基本戦術とは、罠を仕掛けて獲物を待つこと。指針が決まった朱里は頷いて、彩月に連絡を取った。
「彩月? 怒らないから聞いてちょうだい。今度天使が現われた時には、空中用のワイヤートラップを――」
『丁度良かった。ハンターアカリ。天使が出現しましたよ』
それはまさにベストなタイミングだった。闘志も対抗策も、共闘仲間も全て揃っている。今狩らずに、一体いつ狩るというのだろう。
「行くよ、ネフィリム」
「はい! ……マスター」
どうやらネフィリムの中で朱里はマスター認定されてしまったらしい。
朱里は部屋を出て、格納庫で待機中の輸送機へと急いだ。
「作戦は単純。まず相手をおびき寄せて、ワイヤートラップで浮遊能力を奪う。次に接近して翼を斬り落とす。空を飛べなくなった天使はただの人間も同然。人と大して変わらない」
それが朱里の分析だった。タブレットで狩場である商店街を閲覧しながら、作戦を組み立てていく。
「幸運だったのは、今回の狩場が閉所だということ。狭い分、罠を設置しやすい。ただ、それは向こうも承知済みだろうし、こちらでどうにか誘導する必要がある。……ネフィリム」
狙撃銃を点検していたネフィリムが顔を上げた。
「はいなんでしょう?」
「今回はあなたが頼り。あなたなら風を読んで天使に狙撃ができるはず。たった一発、当てなくてもいい。当たるかもしれないと思わせれば、向こうはあなたを狙ってくる」
そして――敵に狙いを定めた獣は、周りが見えなくなりやすい。
朱里は天使の最期を想像し笑みを浮かべる。私の希望を奪ったのだ。お前にも代償を払ってもらう。そのように考えていると、ネフィリムが心配するように手を握ってきた。
「心の闇に呑まれぬように。隊長がずっと心配していましたよ。ハンターのほとんどは、ビーストではなく自分に敗北して殺されます。真の敵は自分自身です。戦士が死ぬ時とは、自分の心が折れる瞬間です」
「……大丈夫よ、ネフィリム」
朱里はネフィリムを励ますように、手を握り返した。
「私は怪物だから」
そう応える朱里の瞳には、天使が写っている。
目の前に立つネフィリムではなく、小城を殺した堕天使。そして、今から自分が狩る対象だ。
ああ、いい。朱里は笑う。倒すべき相手がいるというのは、とてもいい。やる気が溢れ、気力が漲る。
商店街へ到達した輸送機から飛び降りて、携帯端末からステルスドローンを所定位置へと配置させる。トラップ設置場所は、商店街のど真ん中だ。罠を仕掛けるには絶好で、思考しない敵なら容易に引っ掛かり、思考する敵ならばもっとも忌避する場所に……あえて、朱里は設置した。
下手な場所に設置しても、ドローンが風に流されてしまう。ならば、確実に待機させられる場所へと潜ませて、そちらへ自分達で誘導した方がいいという判断だった。
ここは戦場ではない。狩場なのだ。人と獣では、対処方法も変わってくる。
(もっとも、敵は天使なのだけれど)
今回のキーパーソン、ネフィリムの様子を後目で窺う。
ネフィリムは後方で待機していた。長い通路状になっている商店街のゴール地点だ。
この商店街は十字に展開しており、ネフィリムとトラップが縦方向に身を隠し、朱里が横方向の通りで息を潜めている。
最初はネフィリムを使って天使をおびき出し、状況に合わせて朱里が遊撃するという算段だ。
(完全とは言い難い。だからこそ、私の感覚は研ぎ澄まされる)
これがもし安心安全な計画であれば、朱里は真価を発揮できないだろう。自分の力を最大限に出しきるためには、ある程度の危険が必要だ。
一方的な狩りなど愉しくない。そして、愉しくなければ本気になれない。おかしく聞こえるが、そういうことだ。
「これが私の狩り方」
自分の怪物さに呆れながら独り言を呟いていると、右眼が警告を発した。それに呼応するように、上空に天使が出現。朱里は腰に差してある小城の遺品の柄を、強く握りしめた。
「ネフィリム!」
無線でネフィリムに号令を飛ばす。はい、とネフィリムがスコープで敵を捕らえる。
そして、急に苦しみ出した。ああああッ! 苦悶の叫びが無線から放たれる。
「どうしたの!?」
「あ、ああッ! ダメ、ダメだ! ダメです!!」
もしや何かしらの伏兵が――? と慌てて朱里はネフィリムの潜伏地点をスキャン。
しかし、何も無い。もだえ苦しむネフィリムがいるだけだった。
理解が及ばない。しかし、計画は修正を余儀なくされた。ここは臨機応変に対応し、天使を狩らなければならない。
朱里は今日天使を狩る予定でいる。撤退は有り得ない。この機会を逃せば天使を永久に逃してしまうかもしれない。
「天使!!」
朱里はライフルソードで天使へと狙いを付け、間髪入れずに発射した。
狙撃銃と相違ないライフル弾が天使へと迸る。当たらなかったが、注意を引いた。
「……怪物。美しき怪物」
天使は何かを呟きながら、朱里へと急降下してきた。逃げながら、朱里は偵察用ドローンをネフィリムの傍まで急行させる。もう一度、彼女の身体に異常がないか確認させるためだ。同時に、無線で彩月を呼び出した。
『……何でしょう』
「ネフィリムに異常が発生した! 彼女の元に偵察ドローンを送ったから、具合を確かめて!」
『了解。これも戦術支援ですしね』
通信が終わり、朱里は罠の元へと駆けていく。逃げ惑う朱里を殺さんと、多数の羽が飛来して、シャッター街をめちゃくちゃにしていく。
厄介なことに、羽は着弾すると爆発した。かつてここで売られていたであろう商品の残骸が、霧散し飛び散り、辺りを汚す。
朱里は右眼と己の勘を信じて、羽爆弾を回避し続けた。当たってはならない――。射撃で倒せると、相手に思わせてはならない。何としても接近戦を挑ませねばならなかった。
実際に、羽は一発も朱里に命中しない。当たりそうになった羽も、朱里はショットガンで撃ち落とした。
「飛び道具で私を倒せるとでも?」
朱里はショットガンを背中に乗せて、挑発した。左手には、ライフルソードを構えている。
そんな朱里の様子を見て、天使も遠距離攻撃を止めた。
「格闘戦がお望みか」
天使が腰に差してあった黒く染まった剣を抜き取り、朱里は心中で安堵の息を吐いた。
相手が格上であったことが幸いした。剣の腕に自信があれば、当たらない攻撃からすぐに戦闘方法を切り替えるのは自明だった。
「ええ。かかって来なさい」
朱里はショットガンを背中に仕舞い、ライフルソードを右手に構える。天使は風圧で朱里を吹き飛ばすこともせず、直接剣で斬りかかってきた。
朱里は剣を振るいながらしかし、後ろへ押されていく。朱里の義手を用いても、パワーは天使の方が上であり、剣の技量も上手だった。
「驕ってはならぬ、美しき怪物。他人の力ではなく己の力で戦おうという闘志や良し。しかし、戦う相手を見定めねば、実力が及ばず死に伏せるのみ」
「忠告をどうも」
朱里は冷や汗を掻きながら、何とかして天使の斬撃を受け流していく。防戦一方の展開だった。押され、押されて、どんどん後ろに。剣と剣がぶつかり合うたび、朱里は商店街のゲート付近へ近づいて行った。
後数歩で商店街から外に出る――瞬間、朱里は不敵な笑顔となって、天使の攻撃を回避する。
「そっくりそのまま返すわ!」
「何ッ! ぬッ!?」
天使がクモの糸に引っ掛かった。朱里に気取られ過ぎて、透明な網にまんまと入り込む。
糸を引く四機のドローンたちが、天使をぐるぐる巻きにする。朱里は剣を携えたまま接近し、天使の右翼へと強引に斬りつけた。
翼の付け根は意外と脆い。切れ目に向けて剣を振るうと、見事に翼が切り落ちた。
片翼となった天使は、堕ちて地に伏せるのみ。トドメを刺そうと正面に向いた朱里だが、
「だ、ダメ……あ、ああああッ!!」
「ネフィリム!?」
錯乱したネフィリムが、ドローンの一機を撃ち落とし、後退を余儀なくされる。
「何をして――ッ!?」
ヴィネの銃器は対獣専用とするためのロック機構が備わっている。しかし、ロックが掛かるのは人を狙った場合のみで、武器を狙う場合を想定してはいない。
ネフィリムは精確な狙撃で、朱里のショットガンを撃ち飛ばした。文句を言おうと口を開いた朱里だが、彼女の苦悶の表情を見て口を閉ざす。
「うあ、ダメ、ダメ、ダメッ!!」
「ネフィリム……! くそっ!」
やはりネフィリムはおかしくなっている。早急に敵を狩らねばと向き直った朱里は、天使が完全に拘束を脱したところを見て取った。
「やはり、コケにはできんか。美しくとも怪物は怪物だ」
天使は剣を構え直し、朱里へ凄まじいスピードで急接近した。今まで以上の速度に、朱里の反応が遅れる。
朱里の首が掴まれ、地面へと叩きつけられる。コンバットスーツでは防ぎきれない衝撃が、朱里の身体を駆け巡る。
くはッ! と悲鳴を漏らし、天使は朱里を殺すつもりで、剣の切っ先を突きつける。
「気に入られているようだ。また、誰かしら現われるかもしれん」
意味不明なことを朱里に言う。朱里は応える余裕も考える猶予もなく、首を絞められ死にかけている。
「契約を結べば、一瞬だけでも生きられるだろう。私は人が嫌いではない。特に、お前のような怪物は。運命とは皮肉なものだ。私がどれだけ人間を愛していても、神はそれを赦さない。そして、私も私自身が赦せない」
「ぐ……ぅ!」
視界が段々灰色になってきた。端にある看板の上に、先日現れた紫髪の少女が見える。彼女はひらひらと手を振っていた――。どう? 私と契約を結ぶ? そう愉快に笑いながら。
だが、朱里は強く睨んで少女を追い払う。理不尽な契約など二度とごめんだ。ふざけた契約などPHCの契約だけで十分だ。
『あー。ネフィリム、身体的に異常は見られませんでした。はいこれで支援は終わり』
唐突に割り込む彩月の音声。瞬間、朱里は右眼をネフィリムの方向へ向けた。
「仲間に縋るか? 無駄な足掻きのようだ。……もとより、あれに私を殺せはせん。私があれを殺せないように。そういう契約だ。聞いていないのか」
朱里は聞いていない。天使の言葉も、ネフィリムの苦悶も。
僅かに残った空気を回して、右眼に命令を下して、死なないように努力して、誰の話にも耳を貸さない。
左眼で天使を見、右眼でも天使を見ている。――接続した、偵察ドローンのカメラから。
「――ッ!」
「ぬうッ!?」
猛スピードで迫ったドローンの体当たりによって、天使は体勢を崩した。
右手で天使に追い打ちを掛け、地面へと転倒させる。右手に剣を携えて、倒れた天使の腹を踏む。剣を顔へと突き立てるが、天使は切っ先を顔を逸らして避けた。
しかし、剣先は外れても、銃口は天使の頭を捉えている。
「終わりよ」
「……怪物、め」
天使が呟き、朱里が薬室へ弾薬を流れ入れる。
撃発し、天使の頭が血をまき散らす。
「あ、あ……」
朱里が振り返ると、なぜかネフィリムがショックを受けた表情で呆けていた。
天使の遺体から離れて、ネフィリムへと近づく。が、彼女は絶叫し、
「……と……さ……」
という言葉を最期に気を失った。
「ネフィリム!? くそ、一体どんな繋がりが……」
ネフィリムを抱きかかえて、朱里は考える。思考を積み重ねるが、想像の域を出ない。
物証が乏しい。証拠がなければどんな思考も朱里の妄想で帰結してしまう。
「彩月、至急輸送機を寄越して。後、メディックも。……支援対象外? うるさい! 金は払うから……」
朱里はイヤーモニターに手を当てて、彩月に支援を要請した。
※※※
朱里がネフィリムを介助する姿を、遠くから狙撃スコープで眺めている者がいる。
レティクルが捉える先に立つ朱里はネフィリムを抱きかかえ、降下準備に入った輸送機に急いで乗り込もうとしている。
狙撃手は、引き金に指をおいて――離した。狙い撃たない。ただ傍観しているのみ。
風に赤いフードをなびかせて、朱里だけに視線を注ぐ。彼女の挙動だけを注視して、淡々と感想をこぼす。
「まさかシェミハザを倒すとは」
スコープから目を離し、感心した顔で、赤い死神は朱里を見つめる。
「いい様に利用されているみたいね、高宮朱里。だから生き地獄だと言ったのに」
哀れね、と独りごちて、死神は電波塔から飛び降りる。
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