第6話 希望を知る者だけが

 任務を終えた朱里が部屋に着くや否や、来客を知らせるインターフォンが鳴った。

 右眼の表示で何者か確認すると、ヴィネウエポンショップですれ違った男がカメラに映っている。朱里は狩人服姿のままドアを開けた。


「何の用、ですか?」

「引き継ぎの件で伝えに来た。常場健三が所有していた財産の全てがお前の所有物となった。大事に使え」

「どういうこと、ですか」


 朱里は訝しんだ。常場と朱里はそこまで親密な関係ではない。小城が何か手を加えたのかとも思ったが、それならば彼が直接伝えに来るはずだろう。


「常場が自殺する直前、書類にサインしていた。……公式には事故死だが」

「なぜ?」

「詳しくは知らない。奴には娘がいた。何か関係があるのだろう」


 男は知らん顔で答える。確かに、常場が朱里を娘と重ね合わせている節はあった。

 しかし、だとすれば最初から死ぬ前提で動いていたというのだろうか? もしくは、どちらに転がってもいいように手を打っていた?

 そこまで考えて、朱里は思考を止めた。考えても致し方ない。相手は故人だ。


「常場の金が譲渡されたことで、お前のランクは一段階上がった」

「……ランクって何ですか?」


 初耳の単語に朱里は訊き返す。しかし、男は答えなかった。


「自分で調べればわかることを私に訊くな。お前には義眼がある」


 素っ気ない態度だが、男の言う通りでもある。朱里は後で調べることにして、ありがとうございます、と謝辞を述べた。


「えっと……」

「チャーチだ。私のことはそう呼ぶがいい」


 自己紹介を終えた後、チャーチは去って行った。


「チャーチ……」


 朱里は閉じたドアから目を離し、ランクなるものについて検索を開始した。すぐに右眼がしゃべり出す。

 

 ――ハンターの評価基準のことです。S、A、B、C、D、Eの六段階形式であり、ランクが上昇するごとに強力な敵に挑む権利を与えられます。ランク上昇に伴い、いくつかの機能がアンロックされます。

 

 情報を得た朱里が気になったのは、自身の評価についてだ。プロファイルを開くのを面倒くさがって、右眼に訊ねる。


「私のランクは?」

 

 ――Dランクです。システムアップデートにより、サポートシステムの使用が可能となりました。


 さもありなん。最初はEランクだろうから、その評価は妥当と言えた。


「サポートシステムって?」


 朱里は質問を続ける。

 

 ――各種ドローンなどのガジェットの使用許可が下りました。それに伴い、オペレーターからのタクティカルサポートを受けられるようになりました。


 つまりあの協力する気ゼロのオペレーターから支援を受けられるようになった、ということだ。

 しかし、正直なところ他人の助力ほど信用できないものはない。ネフィリムは朱里の言うことを素直に聞いてくれるが、どうやら他の人間の命令にも逆らえないらしい。

 そういう点では、機械こそ一番のトモダチだと言えるかもしれない。朱里はさっそくドローンを仕入れることにした。部屋を出て店へと向かう。


「常場さんは残念でしたね」


 ヴィネの店で商品を閲覧している朱里に、彼女はいきなり言ってきた。

 そうね、と他人事のように返す朱里。いっしょに戦った仲でしょう、とヴィネは笑う。


「ですが、それぐらい白々しい方が、心が砕かれずに済むでしょうね」

「何とでも言えばいいわ」


 朱里はとりあえず最安値の偵察ドローンを購入した。文字通り偵察用のドローンで、右眼を用いれば安全に敵を捜索できる。

 武装搭載型もありますが、とヴィネが別商品を提示してきたが、充実するべきは機械のオトモダチではなく自分の火器だ。適当に見繕った狙撃銃を一丁仕入れて、残りはとっておくことにする。


「ああ、スコープは要りませんよね」


 そんなことを言いながら、ヴィネは独断でスナイパーライフルのスコープを取り外した。その分まけておきますよ、とウインク。


「スコープがなきゃ狙撃はできないでしょ」

「あなたにはあるでしょう。鷹の目が」


 ヴィネは瞑った右眼をとんとんと人差し指で叩いた。



 一度休息を取った朱里は、早速新武器を試すことにした。

 ネフィリムを同行者に指定して、輸送機へと乗り込む。狩場は崩落の危険があるということになっている、C-5地点、廃工場だった。

 三点着地を決めた朱里は工場の屋根へ登って息を潜めている。隣でライフルを構えるネフィリムが囁いた。


「隊長を呼ばなくて本当に良かったので?」

「小城さんはいい人で、味方だとは思う。親身になってくれる。……だからこそ、邪魔になる」


 気が狂いそうな状況下の中で、小城は間違いなく信頼できる善人だった。今回の出撃時も小城はサポートを言い出してくれたが、朱里は丁重に断った。

 小城は新人教育を兼任し、高ランクの任務が発注されると単独で出撃することもある強者だ。つまり、彼を同行させると間違いなく獲物が奪われる。

 強敵が相手なら申し分ない。しかし、雑魚相手に要請するようなメンバーではなかった。


「隊長は報酬を分けてくれますよ」

「戦闘の経験値は分けられないでしょ。……他人に頼ってばかりじゃ、ここでは生き残れない」


 人間とは協力する生物である。集団では強いが、個人では弱い。それが人という生き物だ。しかし、PHCここでは一部の人間を除いて協力することが間違いだと朱里は認識している。

 ――否、無理矢理にそう考えさせられた。


「常場には感謝してる。彼はたくさんのことを教えてくれた」


 話ながら、朱里は狙撃銃を構える。スコープのないボルトアクション式のスナイパーライフルだ。ヴィネはレバーアクションのライフルや、ネフィリムの使っているようなトンデモ威力の品をオススメしてきたが、朱里が選んだのは音の立たない隠密仕様の暗殺用狙撃銃だった。

 名前をアサシネーションというらしい。言葉通り、暗殺の意。


「ヴィネはどういう意図で名前を付けているのかしら」


 朱里は思わず呟いた。英語だったり、フランス語だったりバラバラだ。

 こうやって、狙撃待機の時は、頭より口を動かしたくなる。スナイパーとは実に退屈な職業だったらしい。釣りみたいなものだ。相手が来ると思われる穴場で、じっと竿を構えて待っている。釣りとの決定的な違いは、エサがある場合が少ないということだ。

 しかし、今回の狙撃は間違いなく釣りだった。朱里の義眼が捉える先には、あらかじめ申請しておいた囮用の罠肉が設置してある。


「来た」


 朱里の視界の右端に、ドローンからの映像情報が表示された。翼の生えた鳥らしき生物が飛翔している。

 義眼は便利だ。知りたい情報やデータを瞬時に示してくれる。加えてスコープとスポッターの代わりにもなるのだから、言うことなしだ。


「ネフィリムは別地点で待機。私が狙撃するから、もし外したら援護をちょうだい」

「わかりました。私の移動行動が無駄足になることを祈ってます」


 ネフィリムは笑顔を振りまいて静かに移動していく。

 朱里はドローンと義眼、そして肉眼で敵の位置を確認した。


「飛行型ビースト、ハーピー」


 朱里の視線先には、数匹のハーピーが羽ばたいていた。女性の顔を持つ鳥類型の魔獣で、風の力を用い相手を弱らせて、捕食するらしかった。


「手品はナシ」


 朱里は肉を喰らおうと降りてきた一匹に狙いを付ける。狙撃知識のない朱里を補うように、右眼が観測し調整してくれた。義手のおかげで反動を考慮する必要もない。後は、右眼が良いと判断したタイミングで引き金を引くだけだ。


「……嬉しそうね」


 ハーピーの顔は上機嫌だった。獲物を捕食する喜びに満ち溢れていた。釣られて何匹も舞い降りていく。

 だが彼女たちはその喜びを噛み締めることなく、捕食者から被食者へと移り変わる。

 標的が現れたのなら――躊躇する意味はない。息を吐きながら、朱里は死の弾丸を撃ち放つ。

 人鳥を殺した銃声は控えめなものだった。彼女たちは死に気付く間もなく、幸福なまま死んでいったに違いない。



 ※※※



 呼び出しを受けたチャーチは、世界各国どの支部にも遜色なく設置してある社長室のドアをノックした。入っていいよ、との声が聞こえて扉を開ける。


「やぁチャーチ。調子は順調?」

「……用件はなんでしょうか」


 チャーチは社長の社交辞令に応じることなく単刀直入に訊いた。無駄話が好みではないからだ。

 それは社長も同じである。というより、社長は金さえ手に入るならどうでもいい。相手が弁えてさえいれば多少の無礼には目を瞑ったし、ルールを破ろうがどうでも良い。チャーチの前で座るのは、そんな男である。


「まぁ、君のことだからわざわざ言わなくてもわかると思うけどね。しかし、こういうのは直接口頭で伝えた方が面白い」

「……高宮朱里の件ですか」

「察しがいい。だから君は僕の部下なんだ。……日本政府から連絡があってね。もう少しでリミット、だってさ」


 チャーチはさして驚きもせず頷き返す。予想通りだったからだ。


「私から伝えましょうか」

「いや、僕から伝えよう。楽しそうだ」


 と言って社長は笑う。ずっと笑っている男だ。金のほかに興味あるのは娯楽だろう。愉しいこと、を模索してやまない。全てを手に入れた、と言わんばかりの笑みだった。

 ……実際に全てを手中に収めたのかは不明だが。


「用件はそれだけでしょうね」


 断定口調。社長は嬉しそうに手元の金貨を弄んだ。


「その通り。やはり君の洞察力と手腕は称賛に値する。……信頼しているよ――」


 チャーチは会釈し、部屋を出て行く。


「――君の腕に関しては、ね」


 社長は笑顔のまま、チャーチの背中を見送った。



 ※※※


 

 朱里は熱心に、魔獣を狩り続けていた。模範的な狩人の態度で、順調に稼いでいた。

 狩人として会社に雇われてからは、暇があれば狩りに興じていた。

 そうしなければならない理由が朱里にはある。否、ここで働く人間の全てに存在しているはずだった。


「……妙、ね」

「何がですか?」


 独り言を漏らすと、横を歩くネフィリムが反応してきた。


「いや、彼らの様子が、ね」


 朱里が奇妙に思ったのは、移動通路をすれ違う人々の無気力感だ。大人や子ども、男や女、若者や老人、様々な人間がPHC日本支社という牢獄に囚われている。あちこちに監視カメラがあり、もし自殺でもしようものなら、警備員がすぐさますっ飛んでくるという徹底ぶりだ。ここで生きる狩人には、死ぬ権利すら与えられていない。

 だが、それでも悲観に暮れ過ぎなのではと朱里は思う。もしや自分よりも額の多い狩人がいるのかもしれないが、だとしても絶望感が溢れすぎている。朱里も当初こそ絶望していたが、今や希望を手にしていた。魔獣を狩り、お金を稼げば家族の元に帰れるのだ。五億という莫大な金額だが、常場のおかげで多少は楽になった。そして、狩りの報酬を鑑みても、このまま順調にいけば数年ほどで返済できるだろう。何年も拘束されると思うと気が滅入ってくるが、だからこそ一分一秒でも時間を無駄にはできない。


「人にはそれぞれ事情があります。感性も違います。あなたには平気なことでも、他人が耐えられるとは限りません」

「にしても、妙。……それとも、私がおかしいだけなの……?」

「そんなことはありません。アカリの心理状態は正常です」


 ネフィリムとはまともな会話が成立しない。朱里は推察を諦めて、素直にヴィネの店へと足を運んだ。

 ヴィネは通路で蹲ったり、行ったり来たりして精神に異常をきたしている人間とは正反対に、にこにことした様子で応対してくれた。

 一目見ただけで、武器の点検ですね、と見破る。ヴィネは客の要望を見抜く能力があるようだ。


「悩み事ですか?」


 ヴィネは朱里の銃器を点検しながら訊いてくる。朱里は棚を見ながら首肯して、


「なぜみんながみんな、暗い顔をしているのか気になって」

「私は逆に、どうしてあなたがそこまで平気なのか気になりますね。あなたの中に潜む怪物は、相当に適応能力が高そうだ」

「褒め言葉、として受け取っておく」


 朱里自身も抱いていた疑念だ。常場は擁護してくれたが、自分は庇いようなく異常者の類だろうと達観していた。


「さて、最初の質問に答えましょうか。――希望を知る者だけが、絶望する権利を持っている」

「……」


 答えかどうか判断付かぬ返答に、朱里は黙してヴィネを見つめた。ヴィネはショットガンを手早く確認し、次にハンドガンへと取り掛かる。


「あなたは確かに、他人よりも適応力が高い。判断も的確だし、狩りの才能を秘めている。ですが、あなた程度なら先人たちも辿りついていた。それを知ってるからこそ、あなたは疑問を感じて私に訊ねた」

「その通り」

「でしたら、あなたが知りえない絶望が、まだ隠されているのでしょう。あなたはわかっているはずです」


 問題なさそうですね、とヴィネはハンドガンをカウンターの上に置く。


「私の知りえない絶望」

「そう。PHCは一筋縄ではいきません。考えてみてください。あなたは拉致されているのですよ。今日でちょうど二週間。常識的に考えて、日本政府の対応が遅すぎやしませんか」

「政府が私を助けてくれるとは思えないけど」


 もし助けるつもりがあるのなら、随分遅めの救援である。

 朱里が胸の内を漏らすと、そうですねぇ、とヴィネは相槌を打ち、


「となると、です。手助けではなく、妨害があったりするかもしれませんねぇ」


 笑顔を浮かべて、朱里に不穏な一言を放ってくる。



 ヴィネの言葉は引っ掛かったが、今取るべきは休息だった。

 シャワーを浴びた後は、ゆったりとした体勢でソファーに寝そべる。疲れた時にはこの体勢が一番だ。朱里はバイト帰り、よくソファーに寝転んでいた。

 心地よい疲労感に包まれながら、コレを心地よく感じてしまう自分の心に嫌気がさす。しかし、朱里の身体と心は別物のように違う物を要求し、結局朱里は自分が求める嫌な物を受け入れてしまう。


「狩りは楽しい、か。楽しんだ者勝ち、とは言うけれど」


 左手を頭上へと掲げ、ライトの灯りを妨げる。

 人の身体は欲望に従うようにできている。でなければ死んでしまうからだ。欲がない人間は生者ではなく死者であり、生きているからこそ欲深く、人は罪を重ねてしまう。生きることとは、殺すこと。世界に生きるほとんどの生物は、何かを殺さなければ生きていけない。


「……くそっ」


 朱里は自分の思考に嫌気がさした。ここに来て初めて狩りをしてからというもの、朱里はこのような言い訳を考えるようになった。それっぽい、哲学的なことを考えていれば、自分の行為が正当となるかのように。自分が特殊な人間で良かったと思う反面、積み重なる罪悪感に押しつぶされそうになる。もし自分が正義の味方か何かだったら、この状況をあっという間に改善し、家族の元へと帰還できるのだろうか? しかし、それは無意味な想像だ。

 朱里は正義の味方ではなく、忌むべき怪物なのだ。人のカタチをした、恐ろしい生き物。

 最初はあの憎たらしい男が言った妄言だと思っていたが、今となっては納得する。ただの女子高生がここまで適応できるはずがない。どこか気の狂った存在でなければ。


「……っ。常場――」


 朱里は目の前で自殺した男を思い返す。身を起こし、テーブルに置いてあったライターを手に取った。

 オイルの入っていないライターの蓋を開けては閉じ、無意味にいじり回す。あの男は結局何を伝えたかったんだろうか。朱里は考えてみたが、わからない。


「死んだ方がマシ。……戦術的にそんな状況があり得るの?」


 愚問だと思いながらも、右眼に問いかけた。即座に返答。――ビーストの大軍に囲まれた場合、最終手段としての自爆をPHCは推奨しています。朱里は呆れ果てる。

 ライターを元に戻し、横に置いてあった携帯を取った。朱里が正式に狩人として活動を開始した時、小城から返却されたものだ。

 通話はもちろんできない。ここでの携帯の使い道は、記録媒体の一点に尽きる。


「心配してるよね」


 家族写真を画面いっぱいに表示して、寂しそうな表情となる朱里。自分の身よりも、家族の身の方が心配だった。お母さんはどうしているのだろう。必死に働いているのだろうか。お父さんは病院で寂しがってやしないかな。章久はちゃんと学校に通っているかな。手の掛かる時期だし、迷惑を掛けてなければいいけど……。


『タカミヤアカリっ!』

「……?」


 朱里が家族に想いを馳せていると、突然右眼から少女の声がした。オペレーターの彩月だ。焦った様子で声が震えている。怯えてもいるようだ。

 どうしたの? と問い返す。まるで今にも殺されてしまうような怯えぶりだ。


『しゃ……しゃちょ……社長が……』

「社長」


 朱里の脳裏に今すぐにもでも銃を撃ちたい相手が浮かび上がる。あの男がどうかしたのだろうか。もし事故死でもしていてくれたら、朗報なのだが。


『社長があなたの部屋に訪問します! 伝えたい事柄があるそうで、礼儀正しい態度で応対してください!! 伝えました、伝えましたよ!! 記録を録りました! 何かあってもあなたのせい、私のせいではない! ないんだからぁ!!』


 彩月の悲痛な叫びを最後に、通信は切断された。何度か事務的な会話を彩月と交わしたが、彼女は社長を極端に恐れている。朱里の知らない何かを彼女が知っているのか、はたまた社長に弱みを握られているのか……。

 いや、今はそれどころではない。朱里は関心を彩月から社長へと移す。

 あの男が何をしに来るのか考える。だが、あの男は今だ底が知れない。銃がこの場にないことを朱里は悔いた。拳銃があれば、怪物に相応しい行動を取ることが可能なのに。

 ほどなくして、チャイムが鳴った。朱里は右眼で来客を確認。

 社長だった。不意な来客よりも警戒心を強めて、朱里が対応する。


「やぁ、朱里。元気にしてたかい?」

「私を元気だと思えることに驚きを隠せないわ」


 つれないなと社長はにやける。中には入らない。――正確には、朱里に入れる気がない。


「だって、狩りは愉しいだろう? 君の笑顔を何度か目撃したよ。ログにも残ってる」

「……」


 無言の威圧。しかし社長は動じない。例え銃口を突きつけたとしても、その余裕が揺らぐかどうかは謎だった。


「まぁ、今日はそんなことを言いに来たんじゃない。それに、嫌われてるようだしね。手短に話そう。――君、もうタイムリミットを迎えたよ。日本には帰れないってさ」

「――っ!?」


 その言葉を聞いた瞬間、朱里は呆然とした表情となった。手に持っていた携帯が落ちる。


「おや、携帯を落としたよ? 拾わないのかい? ねぇ」


 社長は心底愉しそうに訊いてくる。

 朱里はまだ無知だったのだ。常場が伝えようとした絶望を、そこで初めて理解した。

 希望を知る者だけが、絶望する権利を持っている。

 希望を知った朱里が、本当の絶望を目の当たりにした瞬間だった。

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