父から受け継いだせんべい屋を切り盛りする兄弟の会話

「期間限定一枚増量だあ!? たった一枚でそんなでかでかと書くない! 日本人の美徳たる謙虚さはどこへ行った!? 裏面にちょこんと小さく書いて、ああ、流石だな。と思わせてみたらどうだい!?」


「何を言っている。人間だってそうだろう? 俺は一流企業に勤めている。高収入だ。親が資産を。言って回る奴だけが結婚できている。能ある鷹は爪を隠さない。いいか、売れたかったら恥を捨てろ」


「世知辛い世の中だ。自己主張しないと誰にも見てもらえやしない。ならこういうのはどうだい。期間限定一枚も増量してませんって書くのは! これなら嫌味にならないし、正々堂々としていいじゃねえか。それでいて隠れて一枚増やしとけば、気付いた客は心意気に惚れるってもんよ」


「一理ある。だが、そんなことをしても、毎回買ってくれる常連さんだって気づかないかもしれない。ここはいっそ、期間限定一枚しか入っていませんと書いてみたらどうだ。袋を開けて、なんだ。沢山入っているじゃないかとなれば、一枚しか入ってないなんて、よほど謙遜していると思われるかもしれない」


 こうして二人の作るせんべいには、『期間限定、一枚しか入っていません』と一文が加えられるようになった。

 今まで、押しつけがましい一枚増量中と書いてあったせんべいに、そんなマイナス要素が書いてあったものだから、客は面白がってせんべいを買っては、彼らを謙虚だと称賛した。

 やがて社会問題にまで発展し、今ではほとんどのせんべいに、期間限定一枚しか入っていませんと書かれるようになった。

 コンビニで、ついつい期間限定とかかれたせんべいを買ってしまう私は、今、せんべいを食べながら、こうして、文字にして憂さを晴らしているのであった。

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