恋と雨は突然降りかかるもの

二千字以内

バス停、二人、雨縛りの企画で書いた物です


   〇


 最悪だよ。天気予報晴れって言ってたじゃん。傘なんか持ってねえし、ちょっとそこのバス停にあるベンチで雨宿りしよう。

 あーあ。結構本降りだなあ。全然止む気配ねえよ。でもあれだよなあ。こういう場面に美少女が来て恋が始まったりなんかしたりして――ってそんなわけねえか。


 なんだあの子? この土砂降りの中走っちゃって。傘持ってないのかな?

 ――って、こっち来た! うわ、めっちゃ可愛いい! って、え!? ヤバい! どうしよう! 隣に来ちゃったぞ! この子、バス待ちなのかなあ?

 どこ校の制服なのかな。見た事ないけど、なんか雨に濡れてちょっとエッチかも。いや、ダメダメ! あんまりジロジロ見てたら変態扱いされるって!

 ちょっと気まずいな。向こうも同じ事思ってるだろうなあ。なんか話しかけた方がいいかな……。いや、それこそ迷惑だって!


 あ、スマホいじってる――って! スマホケースでかっ!! 手のひらに収まってないじゃん! 両手で抱えちゃってるじゃん! 全然スマートじゃねえよそのケータイ! しかもなんでケースがミルワームなんだよ! ちょっと昔にダイオウグソクムシが流行ったから許されると思ってんのかよ! 気持ち悪いよ! 妙にリアルだよ!!


 女の子の感性ってホントにわかんねえよなあ。しかも可愛い子に限って変なの好きだったりするし、なぜかそれをカワイイって言ってたりするし。

 でも待てよ。そこを逆手にとって「そのケースかわいいですねぇ。僕もミルワーム好きなんですよ」なんて声かけたら仲良くなれるかも。よし!

 よーし、声掛けるぞ。

 今だ!


「あの

――テテーテ♪ テテーテ♪ テテーテ♪ テテーテ♪ テー♪ テテテー♪ テテテー♪


 うわ、タイミング悪! あの子に丁度電話が――って、なんでスタンハンセンのテーマ着信音にしてんのこの子! プロレス好きなの!? ってか世代的に知らないでしょうよ! 読んでる人もほとんどわかんないよ! 昔みなおかでよく流れてたアレだよ!!


「タッカラプト・ポッポルンガ・プピリット・パロ」


 なんでナメック語なんだよ!! 誰と電話してんだよ!! デンデ!? デンデなの!? なんだよこの子! 頭スパーキングしすぎだろ!! そしてやっぱり電話しづらそうだよ! でかすぎるんだよそのスマホケース! 昔ストラップつけまくってたコギャルかよ!


「いや、私だ。ああ、約束の金はスイス銀行に入金しといてくれ。トランプ」


 お前誰だよ! ゴルゴかよ! 殺し屋なのかよ! てかなんで急に日本語になってんだよ! トランプってあのトランプかよ! いきなり国際問題に発展だよ!!

 あ、電話終わったみたい。なんか、色々聞きたい事できちゃったな。でも友達と冗談でふざけてただけなのかも。そうだとしたらめっちゃ面白い子かもしれないぞ。こんなに可愛くて面白いって最強じゃん! よし、声を――

 あ、本読み始めちゃった。邪魔しちゃったら悪いかな。読み終わるまで待ってみるか。


 ……大分真剣に読んでるみたいだけど何読んでるんだろう――って! 上下逆さまだよ! 本が逆! 何この子! 下から上に向かって読んでるの!? 脳トレなの!? しかもバロウズの裸のランチだよ! 二重の意味で内容なんか入ってこないだろ!! ぜったいおまえ読んでるふりしてるだけだろ!!

 なんだ? ポケットに手突っ込んで……。え!? ライター!? まさかこの子、タバコを!? いや、不味いって! ただでさえ最近青少年のタバコってかなり厳しく取り締まってんのに、制服着たままタバコなんか吸ったら――って、その本燃やすのかよ! 「この本、意味わかんねー」じゃねーんだよ! そりゃそうだよ! 意味わかんねーのはおまえの頭ン中だ!


「あの、よかったら一緒にあったまりませんか?」

「え? 俺?」

「はい。他に誰もいないじゃないですか」

「あ、うん。……そうだね、ありがとう。あのさ」

「どうしました?」

「俺も……、ミルワーム好きなんだよね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る