マニアックな動画
三千字未満
https://www.youtube.com/watch?v=JwMHH_UhNz4&list=PLEcOCM3isWx__aziWMIMFc-DaFaWCOE0F&index=4
〇
(ああ、これ死んだな……)
薄れゆく意識の中で僕はそう確信した。
どうしてこうなったんだ。
速度はそんなに出てはいなかった。
周りに車がいたわけでもない。
ただちょっと着信が入って、
それが誰からなのか確認しようとしただけだ。
僕はその一瞬で電柱に突っ込んだ。
体中、主に首が痛い。
自分の体勢がどうなっているかわからない。
間違いなく骨は折れてる。
脳が揺れたからか視界が歪んでいる。
多分僕は死ぬだろう。
嫁は若いし、娘もまだ小学生、
これから頑張り時だっていうのに。
ゴメンよ嫁、娘。俺を許してくれ。
悔いの無い、いい人生だった。
子供の時の記憶が頭の中を駆け巡り、
僕は意識を失った。
〇
「あなた、大丈夫?あなた!」
目が覚めると僕は病院にいた。
「私がわかる!?」
ベットの傍らには僕の愛する妻がいた。
必死に僕のことを呼び、
顔はひどくやつれている。
「ああ、大丈夫。心配かけたね」
僕はそう言い、起き上がろうとした。
「いてて!!」
体中に駆け巡った激痛で
僕はベットにボフッ、と戻される。
自分の体を見ると、
両腕両足にギブスが施されている。
「だめよあなた、まだ治ってないのよ!」
どうやらそうらしい。
体を起こすことが出来ないのなら、
歩くことなど なお無理だろう。
「あなた、まだ安静にしてないと!」
「ああ、そうみたいだね」
僕は嫁に言われるがまま、
ベットに横たわった。
「僕はどれくらい寝てたんだ?」
「丸2日寝てたわよ。会社には連絡したから、
心配しないでゆっくり休んでね」
嫁は優しくそう言ってくれた。
その言葉に涙が出そうになる。
本当にいい嫁を持ったものだ。
「ありがとう。僕の娘は?」
「昨日の夜には来てたけど、今は学校。
泣いちゃってしょうがなかったんだから」
娘も不安にさせてしまったかな。
退院したら、好きな服でも買ってあげよう。
今も心配しているかなあ。
「お医者さんが言うには、
退院まで2か月はかかるって」
「結構かかるなあ、僕そんなにひどい?」
嫁は呆れた顔をする。
「下手してたら死んでたらしいわよ」
自分でも死んだかと思ったけれど、
それを他の人に言われるとゾッとする。
しばらく車には乗りたくないな。
でもせっかく生き延びたんだ。
前向きに考えよう。
「これからしばらく寝て過ごせるなら、
ちょっといいかもね。ゆっくりできる」
「呑気な事言っちゃって。あなたらしい。
あ、そうそう、起きたら言おうと思ったんだけど」
「ん? どうしたの?」
「最近、娘が学校の友達と
YouTube見るのにはまっててね
でもスマホを持たせるのはまだ早いと思うの」
僕は嫌な予感がした。
「へ、へぇー そうなんだ」
「だから入院中、あなたの部屋のパソコン
娘に使わせてあげたいんだけど」
やっぱりそうきたか!
それはまずい!
男なら誰しも自分の
パソコンを見られたら社会的地位を失う。
しかも自分の娘にだ!
僕の趣向を知ったら
2度と口をきいてくれないかも知れない。
断固止めなくては!
「パ……パソコンはまだ早いんじゃないかな」
「でも、早くからパソコンを
使わせた方がいいと思うの。
これからの時代、それくらいできないと」
嫁のおっしゃってることはごもっともだ!!
だが駄目だ!! まずい流れだ!!
「会社のデータが入ってるからさ、
万が一消えちゃったら困るんだよ……」
「じゃあ私が隣で教えるわ。
安心して。あなたより得意だもの!」
うわあああああああああああああああああ!!
更に不味いことになった!!
最悪離婚まで見えてきた。
なんで俺はパソコンにパスかけてなかったんだ!
「な、ならいっそ娘にパソコン買ってあげれば?」
「そんなお金無いわよ。
あなたもこんな状態だし」
僕の安月給にはそんな余裕無かったああ!!
どうしよう何とか言い逃れないと。
「ぼ……僕のパソコン、古いからさ、
実はYouTube見れないんだよ」
「最近買ったばかりじゃない、
アップデートしてないの?ついでに見とくわ」
OhhhhhhhhhhhhhNoooooooooooo!!
何か打開策は……
この時僕に、電流走るっ……!!
見られる前に消せばいいんだ!
「あ、会社のデータ整理したいから次来るとき、
ここに持ってきてくれない?その後なら……」
「デスクトップじゃない。さすがに無理よ」
なんでノート買わなかったんだああああああ!!
もう2度とデスクトップなんて買うものか!!
ちょっと冷静になれ。諦めるのは早い。
僕と嫁は結構アブノーマルなプレイもしてた。
もしかしたらわかってくれるかもしれない。
「突然なんだけどさー、パソコンに
○○○の動画とか入れてる人どう思う?」
「サイテーね。あなたは絶対やめてよね!!」
うわああああああああああああああああああ!!
さすがにこれは嫁も受け入れられなかった!!
そりゃそうだよなあ!
絶対無理だと思って、
今まで隠してきたんだから!
「じゃあ、私そろそろ行くから。安静にしてよね」
嫁はそう言い立ち上がろうとしたので、
僕も痛みに耐えて立ち上がった。
「ちょっと! あなたなにしてんの!!」
「いやあ! なんか治ったみたいだ!
一緒に帰ろう!!」
その時の嫁の顔は印象深い。
唖然とした顔が怒りへと染まっていった。
「治るわけないでしょ!! 寝てなさい!!」
「でもこんなに元気だよ!?」
僕は腕をぶんぶん振り回した。
体中からパキパキと音が聞こえた。
痛みで涙をこらえるので精いっぱいだ。
だが一家の主として!!
ここで頑張らなくては全てを失うんだ!!
頼む! 俺の体! 持ってくれええええ!!
「ほーら、全然平気さ!!」
「あなた……もしかして……」
嫁が曇った表情になった。
「あなた……パソコン見られたくないの?」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおお
やっと気づいてくれたか!!
嫁にはバレるが、それでも優しい嫁だ。
許してくれるに違いない!!
そして娘にばれるのは免れたああああ!!
「うん、実は……」
僕はすっごく申し訳なさそうな顔をして言った。
嫁は涙を浮かべて、微笑んだ。
「もう、最初から言ってくれればいいのに……」
無理して体中痛いが、
それだけの価値はあったようだ。
「いやあ、秘密にしたくてさ……」
「あなた、
来週私の誕生日だからって、内緒で
プレゼント買ってくれてたのね」
僕は凍り付いた。
来週って嫁の誕生日だっけ?
いやそれよりそうじゃなあああああああいい!!
「大丈夫!Amazonの履歴は見ないから!」
「いや、ちょっ……そうじゃ……」
止めようとする僕の声もむなしく、
「じゃあ、安静にしてなさいね!」
嫁はそう言い残し、病室から出て行った。
僕はその後ろ姿を眺めながら思った。
もっと、思いっきり、跡形も残らないくらいに
電柱に突っ込んどけばよかったと。
世の男性諸君、
この動画を見たら今すぐパソコンを整理しろ。
人生いつ、何が起こるかわからないんだ。
だからこそおもしろいし、そして恐ろしい。
経験者が言うのだから間違いはない。
僕の今後の人生は、
また後日語ることにしよう。
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