ぱせり
三千字未満
https://www.youtube.com/watch?v=kpcVocQ1RJo&list=PLEcOCM3isWx__aziWMIMFc-DaFaWCOE0F&index=2
〇
「バッキャロウ!!」
俺は親父にそう怒鳴られ殴られた。
ぶっ飛ばされた俺は居間の机に突っ込んだ。
置いてあった湯のみが中身をこぼしながら、
コロコロと畳へと転がっていった。
「なにしやがる! くそじじい!」
ここ最近俺は親父と喧嘩してばっかだ。
「うるせえ! 親のいう事が聞けねえのか!!」
「俺の人生だ! 勝手に決めるな!!」
喧嘩の内容はいつもこれだ。
親父は俺に農家を継がせたがっている。
一人息子の俺をずっとその気で育ててきた。
子供のころは俺もそれでもいいと思っていた。
だが年を重ねるたびに、
俺は華やかな都会に憧れていったし、
親父の仕事が嫌いになっていった。
きっと親父は進学を決して許さないだろうと、
受験費用と当面の生活費を、
俺は高校3年間のバイトで自分で稼いだ。
それが今になって、許さないだと!?
「俺は絶対に都内に進学するからな!!」
「おい! 待て! 話は終わってねえ!!」
俺は親父の話も聞かずに部屋へと戻った。
〇
くそ、あのじじい、思い切り殴りやがって!!
俺はヒリヒリと痛む頬を撫でた。
撫でながら俺はさらに決心を固めていた。
絶対に家の跡は継がないと。
俺はなにも農業が嫌いなわけではない。
都会に憧れてはいるけど、
大学を卒業したら
実家に帰るのも別に悪くはないと思っていた。
だってそうだろう?
都会といえど4年もすれば飽きるだろう。
それくらい俺はわかっていた。
だが、卒業後もし実家に帰ってきたとしても、
俺は別の仕事に就くつもりだ。
何が嫌で跡を継ぎたくないのかと言えば、
その原因は親父が作っているものにあった。
うちはパセリ農家なのだ。
俺は友達とよくファミレスなんかに行くが、
パセリと言ったら飾りだ。
皆手を付けないでそのまま捨てられる。
確かに皿は華やかになるのかもしれない。
だがしかし、わざわざ食べない物を、
毎日汗水たらして育てる親父の姿が、
どうしようもなく無意味に見えて仕方なかった。
生活の為とはいえ、そんな仕事をするなら、
もっと有意義な仕事に就きたい、と
俺はそう考えるようになった。
結局俺は親父と分かり合えないまま、
母親に心配されながらも、
都内の大学を受験し、その後に合格。
実家を出たのである。
〇
『かんぱーい!!』
進学してから俺は、留年することもなく、
華のキャンパスライフを思う存分謳歌した。
そして、それももう終わろうとしている。
だが、俺は卒業後の進路を決められないでいた。
大学の同期達は就職口を決め、
俺は焦っていたが、せっかく誘われたのだからと、
仲間たちと酒を交わし合いに居酒屋に来ていた。
「就職決まってないのお前だけだぜ?どうすんだよ」
「まいったなぁ。まだ決まらねえんだよ」
友達の遠慮のない質問に少々返答に困る。
「大丈夫よ。まだ焦る時期じゃないわよ」
「そうそう、こいつなんて完全ブラックなんだから」
「おい! それは言うなって!!」
アハハハ、と笑い声が店に響く。
気を使って言ってくれてるんだろうけど、
やはりそろそろ決めないとなあ。
俺が一人でそう考えていると、
テーブルには料理が次々と運ばれてきた。
目を見やると、
どの皿にもちょこんと置かれたパセリが目に入る。
友達はそれをひょい、と箸で除け、
唐揚げや刺身に舌鼓を打っていた。
「俺、有意義な仕事がしてえんだよ」
酒の回ってきた俺は皆の前で思いを語った。
「有意義って……人の役に立つって事?」
「うーん。それもあるけど、なんかさ、
皆が俺を必要としてくれる仕事ってゆうかさ」
酒の力は恐ろしい。
普段絶対に言わないような恥ずかしいことも、
平気で口から出てくるようになる。
「俺なんか給料しか見てなかったけどなあ。
おまえなんか難しいこと考えてんだな」
「別に難しくないさ、まあ昔から思っててさ」
俺はそう言って開いた皿のパセリを眺めた。
すでに料理は無くなっているが、
寂しそうにパセリはその緑色を主張していた。
それを見て、なんだか親父の顔が浮かんできた。
もしかしたら、親父が作ったやつかも知れない。
「わりい! その皿取ってくれ」
俺はパセリしか載っていない皿を指さした。
「これか? 何に使うんだ?」
友人はそう言いながらも皿を取ってくれた。
俺はその上のパセリを箸で掴み、口に運んだ。
口の中に青臭い香りが広がる。
「おまえパセリ好きなのかよ。変わってんなあ!」
「別に好きじゃないけどさ。なんとなく」
「パセリってあってもなくても変わんねえよなあ。
だったら皿に載せないで値段落としてほしいぜ」
友人のそのセリフを聞いて俺はうつむいた。
俺自身そう思っていたが、
人に言われるとなぜか悔しかった。
やがてほかの料理が空き、
またもパセリだけが一人寂しく皿に残っていた。
俺はそれを見たが、
また変なことを言われるのを恐れ、
手を出さないことにした。
すると、俺の隣にいた女の子が、
箸でそのパセリをひょい、と掴んで口に入れた。
「なんだ、お前もパセリ食うのかよ」
「普段こうゆう場面だと遠慮するんだけどね
パセリって栄養すごいし、おいしいのよ。
さっきの見てたら食べたくなっちゃった!」
「私もそれ聞いたことある! パセリって、
すっごい栄養あるスーパーフードだって」
俺はそれを聞いてなんだかにやけてしまった。
自分がなんでにやけたか分かった時、
俺は進路が決まったような気がした。
大学を卒業してから俺は実家に帰ることにした。
〇
4年ぶりに実家に帰ると、
母親が笑って出迎えてくれた。
俺は挨拶も早々に、親父のところに向かった。
親父は居間でテレビを見ながら、
熱いお茶をすすっていた。
俺が部屋に入ってきたのに気づいたのか、
視線をテレビからずっと動かさなかった。
俺は親父の横に座り、そして土下座した。
「親父、俺にパセリの作り方教えてくれ!!」
俺は気づいたんだ。
一見無意味に見える仕事でも、
絶対にそこに意味はあるんだって。
人に必要とされてない仕事なんてない。
パセリだってそうさ。
出されてもパセリを捨てる人は多いが、
好きだって言ってくれる人が確かにいた!
それだけでもう有意義な仕事なんだ!!
それだけでもう十分なんだ!!
土下座する俺の姿を見て、親父は涙を浮かべた。
「馬鹿野郎……楽じゃねえぞ……」
「ああ、それでも俺はやりたいんだ!!」
この日、俺は親父と和解し、
実家の跡を継ぐこととなった。
〇
あれから俺は必死になって親父に、
パセリについていろいろと教えてもらった。
親父の言う通り、楽な仕事ではなかった。
少しでも手入れを怠れば、
必死で育てたパセリは全て駄目になってしまう。
2年ほど親父の下で勉強し、
そしてやっと出荷できるレベルのパセリを、
俺は一人で育てられるようになった。
嬉しかった。
やっと一人前に慣れたような気がした。
俺はそのパセリを親父の元に持って行った。
「親父! いいのが出来たんだ! 食べてくれ」
俺はそう言って手に持ったパセリを、
親父に手渡したらすごく嫌そうな顔をされた。
「えーやだよ。パセリって苦いじゃん……」
俺はそのセリフを聞いてパセリ農家を辞めた。
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