第2話 孤独と仲間

 僕の犯行は生徒に素早く浸透していった。

 大人の耳まで届かなかったのは、彼女の告発が事実と少し違っていたからだ。

 

 僕の犯した罪は、ヤエちゃんの縦笛を舐めたことになっていたのだ。

 これは決して彼女の慈悲ではなく、あくまでも自己防衛だと思われる。

 どうやら自分の箱が開けられそうになったと言うことは、女子にとっては恥ずかしいことのようで、それでも僕を断罪したいという末にひねり出した妥協案らしい。


 それでも十分なダメージだった。

 僕は中学二年生まで完全ぼっちの学園生活を送ることになる。


 中学校はほぼ小学校の顔ぶれと変わりはなかった。

 つまりほとんどの人が僕の噂を知っている。


 友達がいないことは悲しいことだが、中学二年のクラスではいくらか軽減された。

 もちろん友達ができたわけではない。クラスメイトに同類がいたのだ。


 その人の名前は工藤紅葉もみじ。肩まで伸ばした黒髪に眼鏡をかけ、その瞳は憂いをふんだんに含んでいる。特筆すべきはその身長だろう。この町では身長の低い女性ほどもてはやされるが、一方で身長の高い女性は肩身の狭い場所に追い込まれる。

 彼女の身長は180cmあった。僕より5cm大きい。

 中学校に入るまでは逆に身長の低いほうで友達も多く明るかった彼女だが、急激に身長が伸びたために物凄いはやさで人が離れていき、目から輝きが失われていった。


 しかし、はみ出し者どうし仲良くするということはできなかった。ハリネズミのようにはっきりと目に見える障壁があったわけではない。お互いに傷を舐め合うさまを周りに見られたくなかったのだろう。二人組を作るときのみ僕らは結託し、それ以外は最低限度手を貸し合うという暗黙の了解ができあがっていた。


 悲しみが軽減したといっても僕にとっては最大の問題があった。

 それは劣等感だった。


 休憩時間は机に突っ伏して寝ているふりをして過ごすことが多い。そのため、聴覚が研ぎ澄まされ、クラスメイトの会話が嫌というほど聞こえてきた。

 歳を重ねるにつれて、鍵と箱の預け合いの話題を聞くことが多くなった。その話題を聞くたびに悶々とした気持ちになる。鍵を見つめて、その鬱屈した欲望を一人で解消する夜が増えた。


 そのときどうしても考えてしまう。工藤だったらやらせてくれるのではないかと。

 その考えは時が経つにつれて確信に変わっていった。なぜなら、工藤はみるみるうちに病んでいったからだ。


 僕は最適な時期を逃さずに彼女に手を差し伸べていたら、きっとその欲望を実現できていただろう。


 しかし、幸か不幸か、気づいたときには手遅れだった。

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