6-3 一緒になろう
ひとしきり絶景を注視した後、2人は顔を見合わせた。
「行くか」
「うん!」
手を繋ぎ、フロアを駆ける。手続きを済ませ、園内に躍り出る。と、そこへ。
「お客様、今回フリーパスを頂いておりますので優先的なご案内サービスをご利用頂けますが。どうします?」
「パス!」
「パスでお願いします」
再び現れ、恭しく頭を下げた総支配人。しかし2人はそれを一蹴した。
「承知しました。では、行ってらっしゃいませ」
駆け出す2人を、彼は姿が見えなくなるまで見送り続けた。
「さーて、どれに乗るかね?」
園内は大勢の人でごった返していた。はぐれないように腕を組み、人混みを進む。同居を始めた頃は手を繋ぐのも気恥ずかしかったが、今となってはどうということもない。だから2人に、迷いはなかった。
「ジェットコースター乗りたい!」
雫の弾んだ声が、要の耳を打つ。その響きさえ、今の要には心地よい。
「OK」
素直に答え、2人はジェットコースターの乗り場へと向かった。途中の売店で飲み物を仕入れ、途中途中で交換しながら飲み干していく。その過程にもよどみはなく。
「あはは」
「くくっ……」
どちらからともなく苦笑した。
時は瞬く間に過ぎていく。混雑と人混みに苛まれながらも、それすらも飲み込んで2人の逢瀬は楽しく、眩く、輝かしく。いつしか夕日が水平線に沈みゆく時間を迎えていた。
ガタンガタン。
海を見渡せるほどに高い大観覧車の中、要と雫は向き合って座っていた。夕焼けの中、彼女は羽織っていた白いブラウスを、己の横に畳んで置いていた。
「綺麗……!」
雫のその目は、夕日に赤く染まった海を見つめていた。一方要はといえば、目をそらし、どこか不自然に身体をそわそわさせていた。だが、観覧車が頂点に近付いたその時、彼は意を決した。
「し、雫!」
「ほにゃ?」
状況に不自然な、大きな声が狭いゴンドラにこだまする。しかし、雫は要の方を向いた。要は、一気に突っ切る。
「俺と……一緒に居てくれ。交際して欲しい。そして」
そこで要は一度言葉を切った。雫の表情を窺う。彼女の顔は、固まっていて。だから、要は。最後の言葉を。
「君が18になったら、その。一緒になろう」
静かに、言い切った。
言葉を受け取った雫は、最初は口を開け、静かに震えていた。しかし、徐々に飲み込めてきたのか、ようやく言葉を発した。
「え、ちょっと。え? よーにー……一緒に、って? そういう、こと?」
「そうだ。本当は指輪もあると良かったんだが」
要は言い切った。すると、雫は。
「よーにー……。それは反則だよ……!」
顔を伏せ、泣き出した。嗚咽の中から、僅かに意味のある言葉が漏れる。
「わたし……リテイク、って言った……。だから……。もういちど、とは、思ってた……のに……」
要は目をそらさなかった。今の彼は、その嗚咽すら受け止める覚悟だった。彼女の隣に移り、そっと顔を隠す手を取った。
「やだ……!」
「大丈夫」
雫は目をそらす。だが要は顔に手を添えて引き戻す。そして、目を合わせて。
「どんな雫でも、俺は。大好きだ」
その一言とともに、唇を重ねた。
地上では空気と待ち客を読んだ添乗員が、そっと彼等を2周目へと送り出す決意を固めてた。
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