2-5 な、なにを?

「アハハハハ! いや、済まなかった! 懐かしさに負けてついやってしまった。済まない!」

「もー……頼みますよ。ほら、雫もそんな顔はやめてくれ。俺も悪かった」

「むー……。私も要兄を抱き締めたい……」

「っ!? あ、いや。えーと。雫ちゃん、この人は俺の大学の先輩で春野彼方はるのかなたさん。色々とお世話になったんだ」


 先程の光景からたっぷり十数分が過ぎて。闖入者はようやく平静を取り戻した。

 要よりも高い背。

 モデル体型という言葉がふさわしい体躯。

 この二つを持ち合わせた美女を見上げ、欲望たっぷりの恨み言を呟く雫。


 この羨ましがられるはずの状況下にあって、要の脳は高速で回転していた。

(いやこれホントどーすんのさコレ。このままだと先輩と雫が一悶着とかあるんじゃないかコレ)

 余計な想像まで身をもたげ、女体に触れた感覚も幸福感も全て吹っ飛ばして、要は内心で悶絶する。とにもかくにも、安全にこの場を離れられる名目が欲しい。しかし、運命は残酷だった。


「うむ、こんな所で立ち話も良くないな。私の部屋が近くにある。大島、車について来い」

 いともたやすく行われた春野の宣言。それによって要の脳内で作られた幾つかの案は、全て破棄されたのであった。



「ハハハハハ! それでな、大島の奴……」

「そんな事があったんですか。色々とご存知なんですねぇ」

「うむ、楽しかったぞ? ……それにしても」

 さっくり一時間後。春野の大学時代のエピソード(大半が要絡み)に花を咲かせる女子二人と、それを尻目にチューハイを飲み干し続ける要の姿があった。


「どうした大島、もっと会話に参加せんか」

「そうだよ要兄。折角なのに」

 先程までの空気はどこへやら、すっかり意気投合してしまった二人の声が艶やかに響く。しかし要の飲むペースは変わらない。無論理由はあった。


(雫に酒を飲ませる訳にはいかないんですよぉ! 未成年ですからぁ! 後なんで仲良くなってるんですか想定の斜め上です)

 この一点である。この一点を死守するために、要は急性アルコール中毒すら覚悟して目の前の酒に挑んでいた。そして九本目を空けた所で大の字になり、意識を手放したのであった。



「やれやれ……。前はもう少し弱かったはずなのだが」

 寝息を立て始めた要の顔を覗き込みながら、春野は嘆息した。

「あ、それは私が見るべきものです」

 雫も負けじと逆方向から彼の顔を覗き込んだ。前屈みになるせいで彼女の備える武器、山と谷がよく見えている。

「……うむ、大きいな」

 いつしか春野の視線は、そちらへと転じていた。要を踏まないように器用に近付き、後ろから身体を捕まえる。

「な、なにを?」

「うん? 私は女もイケるクチでね。君は小さくて可愛いし、持ち物も良い」

 耳に息を吹きかけ、手は雫の豊満な胸や身体を弄っていく。その度に艶のある声が漏れそうになり、若い身体はピクピクと白魚のように跳ねる。

「だ、ダメ、です……っ」

 僅かな理性で制止を促す雫。だが相手は手練だった。身体は絡め取られ、手は急所以外の各所に伸びる。限界が近付く。だが。


「……うむ。コレだけ極上の光景があっても起きないのなら、完全に寝こけたな」

「ほにゃ……?」

 それは突然の事であった。春野は雫の拘束を解き、立ち上がる。そして冷蔵庫を空け、一本の缶ジュースを投げ渡した。

「済まない。少々手荒なことをした。まあ私が君と、もっと深い話をしたかったのだ」

 春野は要を挟み、あぐらで雫と対峙した。そして持って来たチューハイを一気飲みで空け、口を開いた。


「……。以前私は、コイツの告白を振った」

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