1-5 こういうことをしたらどうなるの?

「……。結構なお点前で」

「へへーん」

 渡されたオムライスを受け取れば、雫は得意気に胸を張る。これではハートマークにツッコミを入れることも出来なかった。

 そして、オムライスは実に美味しかった、一度口に入れてしまえば後はスルスルと入っていった。おかげで、話を始める前に皿の上から食事が消えてしまっていた。


「さて……。腹も膨れたところで、そちらの要求を改めて聞こうか」

「要兄と一緒に暮らしたい! ついでに言えば結婚前提で交際したい! 目指せ、専業主婦!」

「よーし、落ち着け。いっぺんにぶつけられても困る! つまり雫ちゃんはここで暫く暮らしたい。そういうことだな?」

「色々と端折ってない? まあ大筋は合ってるけど」

 話を振った途端に欲望を全開でぶつけられた要。近付けられた、懐いてくる犬のような顔を必死に手でとどめ、要約してしまう。ひとまず同意を得て、要は更に言葉を紡いだ。


「OK。よくわかった。まずはステイ!」

「犬じゃないよ? 戻るけど」

 頬を膨らませながら、雫は乗り出した顔を戻していく。要は内心の動揺をごまかすように天を仰ぐと、搾り出すように現実論を吐き出した。


「雫ちゃん、まず前提の話から始めよう。物凄く夢のない話で申し訳ないのだけど、俺はこの部屋を一人暮らしって事で借りている」

「あっ……」

 犬のように呼吸を荒くしていた雫が、小さく呟いて我に返った。本当にその辺りを考えていなかったのだろう。しかし要はそこで首を振る。まだ言わねばならぬことがある。


「それだけじゃない。もっと大きな問題もある。君は高校を三日で放り出した。これは俺の望みだが、君にも家賃の半分でも良いから稼いでもらいたい。母さんや叔母さんの手を、あまり煩わせたくはない。後、君を家に縛り付けたくもない」

「うん……」

 目の前の少女は、小さく頷いた。大きな目が、クリクリと、忙しげに動いている。その意図をなんとなく察して、要は頭を掻きつつ言葉を探した。できるだけこの娘が、喜ぶような言葉を。そして、思い当たる。


「……叔母さんから聞いたけど、家事裁縫に勉学諸々。なかなかに優秀らしいじゃないか、どれもこれも」

「それはもう。 要兄の為に勉強したし?」

 雫はニンマリした顔で胸を張る。ただでさえ豊かな胸が強調され、要は一瞬気が緩みかける。しかしすぐ気を取り直し、雫を見据えた。


「そこまでされると光栄の至り、としか言えないな。しかしそのスキルは稼ぐことにも使えるはずだ。例えば家庭教師とか。やりようは、多分」

「うん。あると思う」

 頷く目の前の少女。先程までの雰囲気とは一変し、要を見据えてきた。ここが勝負だと、要は言葉に力を込める。


「取り敢えず一週間。その間だけは宿泊としておくよ。その間に俺が納得する方法を考えて、なるべく具体的なものを提示してくれると助かる。……俺だって意志は尊重したいからね」

「分かった。要兄と居たいから、頑張る」

「それでいい」

 要が頷くと、雫も首を大きく縦に振った。それを確認して立ち上がろうとすると、雫が声を掛けて来た。


「ねえねえ、要兄」

「ん?」

「こういうことをしたらどうなるの?」

 次に眼前に展開された光景。それは前かがみで胸を強調し、手を膝に置いた所謂グラビア系のセクシーポーズだった。

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