1-4 はい、どーぞっ!
「……。ん……。くぅ……。ふんばあっ!? ゆ、夢か……」
夜半、大島要は奇声を上げて飛び起きた。全く酷い夢だった。欲望のままに一線を踏み外し、雫を想いのままに貪る夢。
「……!」
荒い呼吸のままに周囲を見渡す。居間を雫に明け渡し、自分は玄関先に寝床を移していたことを思い出した。ポリポリと頭を掻き、布団も干した方がいいな、と思いつつ立ち上がる。
雫を起こさないようにそっとやかんに水を汲み、火をかける。そして、こういった行為ができるようになった理由を思い出し、内心で頭を抱えた。
(どうしたものか)
布団の上に鎮座し、彼は腕を組んで考え込んだ。インスタントコーヒーを入れようとしたのだが、既に賞味期限が切れていた。白湯を飲むのも腹が立つので、火は落とした。久方ぶりの寝間着には汗が滲んでいる。着替えたいがそうもいかない。
(追い出す……のはないな。正直此処まで片付いたのは彼女のおかげだ。理性にはきついが、嫌ではない)
思考と対応の整理を始める。どこまでが許可できる範囲なのか。どこからが踏み込まれたくない部分なのか。
(まず、なんでもいいから生業は見つけさせよう。得意分野は叔母さんに聞く)
(後、男女の関係とかは一旦脇においておこう。本人の意志が確認できていないし、今の俺には処理できるか分からない。言動は……。そこまで規制する訳にはいかないか)
一つずつ煮詰めていき、方策を完成させていく。別段共に暮らすのが嫌な訳ではない。ましてや彼女が嫌いな訳でもない。ただし彼にとって雫はまだ妹分であり、未成年の保護されるべき少女である。それだけなのだ。それだけだからこそ辛いのだ。
実際僅か半日共に居ただけで、要は夢に見てしまった。己の危うさを痛感してしまったのだ。
(まずは叔母さんとの話し合いから、か……。もう一度寝ておこう)
毛布の中に身体を入れ、布団に横たわる。たったそれだけの行動で、要は労せずして意識を手放していた。
「少しぐらいは話を聞いてくれよ……頼むよ」
掃除で疲れていた二人の朝は、結局遅くなってしまった。雫がブランチの準備を始め、要は叔母への電話を行った。しかし、先方の言い分は想定の範囲内に終始し、それではこちらも折り合いの付け方を見出すことができなかった。
「ね? 言ったでしょ。むしろ『手を出したら冗談を真実にするから』ぐらい言われたんじゃない?」
雫は実にあっけらかんとしたものだった。溜息をつく要をよそに、タンクトップにホットパンツ、黒髪を下ろして食事の支度を行っている。
「むしろ『手を出せ』って言ってませんかね、その格好……」
「そんなことないよー?」
雫はクスクスと笑い、フライパンを器用に操っていく。ただの調理のシーンなのに、妙に艶々しいのがまた癇に障った。
「と、ともかく! 後は飯を食いながら話をしようか。な?」
「分かった。ほっ……っと!」
既にほぼ仕上がっていたのだろう。雫は巧みなフライパンさばきで二つの皿にオムライスを盛っていった。そのまま目にも留まらぬ早業でケチャップをかけていく。
「はい、どーぞっ!」
ウインクと一緒に差し出された要のオムライスには、綺麗なハートマークが添えられていた。
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