第2話 暴動と疾走

「!!??!?」

腹に突き刺さった剣。

熱された鉄と、蒸発する人工血液、そして金属の臭い。

足元は、白い人工血液と中年男性の血で鮮やかなピンク色に染まっていた。

金属のバイザーに覆われた頭に、二本目の刀が突き刺さる。

今度は熱されていない、普通の刀だ。

だが、ここで起きている事態は、破壊された警備兵にも、市民にも普通ではなかった。

「うわぁあぁぁ!」

1人目が叫んだと同時に、人の波が動き出す。場所は通勤ラッシュ真っ最中の街道だ。

逃げ出した人を挽きそうになり、車が急カーブを切り、転倒し、事故を起こす。波に押されて倒れる人。踏み付ける人。踏みつけられる人。そんな事態を引き起こした犯人を、監視カメラは見逃していなかった。

「あー。こりゃ少し…いや、かなりやっちまったな」

「次からは気を付けるよ。怒んなよ」

ピンク色の液体を足から払いながら、青年は1人で喋っていた。

当然。足元の死体と破損した機械はしゃべることは無い。むしろ、何も喋っていないのに青年は受け答えをしていた。それは彼の機械の身体は情報端末と一体化しているからだ。

「カメラに映ったなら仕方ない。新しい顔を頼む。ああ。当然カメラを振り切ってくる。」

そう言うと、青年は警備兵の持っていたライフルを手に取る。周りのカメラを一掃し、帰る場所へと走り出した。

「まさか、こんなに運が悪いとはな。」

彼が話ているのは、彼自身でもあるプログラムであった。

通称Ada

支援用独立人格モジュールの1つで。

警備兵の場合、この機能はベースのボディと一つになる事で一つの人格を形成する。

しかし、Adaはこの青年の人格をそのまま残して支援するためのモジュールで、一つの人格があり、一つの身体に、青年とAdaの2人がいることになる。とはいえ、Adaは支援するだけで、体を動かしたりはしない。

体を動かす青年の名は、ディオ・リーグル

このコロニーの人物ではない。


「初任務からこの運の悪さは、作戦行動に支

障をきたします。改善を要求します。」

「いや、そればかりは無理だっての…」

かれらは、監視を逃れるため、建物の屋根を移動している。

通常の警備兵では想像できないスピードで疾走しながら、一人芝居のように会話をしていた。

街は事件のせいで騒ぎになったが、人が逃げ出したおかげで、今までの静けさを取り戻していた。

「ベースシップにて、3Dプリンターで新規の顔を制作中。前回のフィードバックとディオの要望を受け、新規に見た目を作り直しています。」

「そうか。」

静かな街を、僅かな足音が駆け抜ける。

異様な光景ではあるが、今日も街は静かだ。


そこに、激しいエンジン音がなる。

ディオは嫌な予感を察しながら振り返る。

そこには、

炎を吹きながら、「バイク」が爆走していた。

「出やがったなスピードスター!」

警備兵より圧倒的に早いとはいえ、バイクにかなうスピードではない。が、場所は屋根だ。コロニー内の建物の屋根は意図的に平にされているとはいえ、細かい段差ならまだしも、1mの段差を越えるバイクなどありえない。が、それは旧世紀の考えで、このバイクにはスラスターがついていた。ロケットの様に火を吹き、空すら飛べていた。

「今更止まれとは言わん!無様に散るがいい!」

スピードスターと呼ばれる兵器にのる警備兵は、簡単なボタン操作で両サイドにマシンガンを展開させていた。

「まためんどくせぇやつだな!銃弾かわすのも楽じゃねぇんだぞ!」

スピードスターの両サイドについたマシンガンがディオを襲う。

「いくぞAda!」

「了解しました。」

するとディオは、急に振り返り、走り出した。

スピードスターと正面衝突する気だ。

「馬鹿め!蜂の巣からミンチに変わるだけだぜ!」

明らかに回避しえない距離。ディオは、今までに放たれた銃弾を、「全て剣で弾いた」

「なんだ!?」

目の前でありえない光景を見せつけられ、一瞬焦ったが、このまま走ればどのみち挽き殺せる状態だ。

「変なもん見せやがってぇぇ!」

「安もんのダサい顔に言われたかないねぇ!」

目の前にスピードスターが迫るその瞬間、ディオは腰から赤い剣を解き放った。熱を纏った剣を、ジャンプしながら踵に挟み、もう一度地面を蹴り、そのまま飛び蹴りをした。

スピードスターの正面装甲を貫き、警備兵の身体を粉々にする。そのまま剣を踏み台に、ジャンプをする。綺麗な着地をみせ、スピードスターがビルに突っ込み爆破する様をバックに、最高にクールに決めて見せた。

「やっぱ俺には敵なんていないね。楽勝だよ楽勝」

「お見事でした。」

そのまま爆風で飛んできた熱刀をとり、行くべき道へ行く。

途中でスピードスターの残骸に手をかざすと、青い光とともに、スピードスターの装甲が溶け、熱刀が修復した。

この現象は一部の兵器に使われるある金属に由来する。

それはさておき、スピードスターを倒し気持ちよく目的地へ行こうとする彼の前に、大きな影がかかる。

ビルの影は。反対方向を向いている。なら、この影は?

最初に倒した警備兵のすぐ近くにあった、異様な威圧感。巨大な体躯を支える為に動く機械から吐かれる熱。


大型兵器 汎用型グランドバトラー 通常コロニー配備機グアラス

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