第19話 ゆきの見た小栗くん 絢仁の見たゆきさん
「ゆきちゃん、おかえりなさい!」
「ただいま!山ちゃん。」
「梅酒が飲みたいなー。」
「美味しいのあるよ。」
「やったー!嬉しい!」
「ゆきちゃんは本当にいい子ね。」
「ありがとう。」
飲み物を用意しながら、私の目を見て山ちゃんがお母さんみたいに呟く。
やっぱりひげお母さん。
最近出会ったばかりの他人の私なのに、いつも山ちゃんが伝えてくれる言葉には心がこもっていて、暖かく嬉しい。
指定席のように、いつも同じ席に座るようになった。
「最近調子良さそうだね。」
「そう?何か違う?」
「顔色がいいよ。潤ってる感じ。一番最初に誘ったときは冷たい風と一緒に入ってきたからね。どうやったら温まるかと気を揉んだわよ。」
「そうだったんだ!いや、そうだったよね…。あの頃に比べたら格段に調子いいです。さすが山ちゃん。」
「誰にでもわかるわよ。ゆきちゃん素直だから。」
「誉められてるかな~?けなされてるかな~?」
「全力で誉めてるわよ。」
「あはははは、ありがとう!」
駅前で小栗くんを見かけてから2週間。
私の中で、あの日のことはもういいか。ってなってから山田さん家に行こう、と決めていた。それなりに充実したゴールデンウィークと、忙しい日常を2週間過ごしてみると、休日の出来事など面白いほどどうでもよくなる。
そして山ちゃんと話しているととても落ち着くし、楽しい。
それなのに、ふと隣の空席に目を移すと、前回そこで、ずっと笑っていた小栗くんがクリアに思い出されて、次の瞬間には私の横を素通りした彼の顔がリアルに頭の中に現れ、苛立ちと寂しさが2週間分の時間をあっさりと飛び越えて、私に体当たりしてくる。
ダメだな。
自分の気持ちって全然コントロールできないや。
おまけに何でここまで気になってしまうのかも、よくわからない。
「ゆきちゃん、あなたの行動は正しいことが多いと思うわ。プライベートは何も知らないけれど、正しいことをしている人ほど、うまく行かないことがたくさんあるもの。そんなもんなの。あなたのことを大好きで、慕っている人はちゃんといる。」
山ちゃんはすごいと思う。
それか本当に私の顔には考えていることがすべて写し出されているのか…
「顔に何て書いてある?」
「そんなつもりじゃないんだけどなーみたいな事が書いてある。」
「うふふふ、近からず遠からず!」
「おかしいわね。ドンピシャリのはずだったのに。」
「あはははは。」
「おっと!なんてタイミングのいいこと。ちょっと待ってね。」
山ちゃんが扉の方まで歩いていくのを目で追うと、向いの通りを、薄手のパーカーのポケットに手を入れて歩く小栗くん。
一人。
「待ちなさいよ。」
「なんだよー。早足で通りすぎようとしたのにー。」
「今日は必ず引き留めようと、気合いを入れて見張ってたんです!」
「お金無いんです…お腹はすいてるけど。」
「遠回しに奢りなら寄ると言っているんですねー。」
「かなりストレートに言いました。…あっ!ゆきさんだ!うわ。どうしよう…お金無いんだよなー。」
「わかりました。今度のバイト代から今日のお会計の半分を引く。これでどう?」
「乗りましょう。」
小栗くんは私を見てすごく嬉しそうに入ってきて、当たり前のように自然と、隣の席に座った。
この前と同じ隣の席で、前と同じ満面の笑顔で座っていた。
さっきまで私の内側を冷たくさせていたあの顔が、二度と思い出せなくなるほど無邪気で真っ直ぐな目。
「こんばんは!お久しぶりです。」
「こんばんは。いつもこんな感じでこのお店に寄るの?」
「いつもは何がなんでも逃げるよ。なんて冗談。家この近くだから必ずこの道通るんだけど、こんな風に引き留めてもらったのははじめてだよ。店の前で腹へったなーって、指加えて中を見てると、寄っていったら?って優しく声かけてもらうことはいっぱいあるけどね。だからここで歌ってもあんまバイト代もらえないんだよ。飲食代出したことないから、確実に給料天引きシステムだな。」
「またしゃべりすぎだな。」
小栗くんが私の目の前でニコニコと笑う。
目も眉も下げて、歯を見せて笑う。
「山ちゃんの声のかけ方って凄いよね。タイミングが絶妙だと思う。心が読めるのか、私が単純過ぎるのか…。」
「あっ!!凄い激しく同感。わかる。今日マジでへこんだわーて日に声かけてくれたりすんだよね。そん時は顔に書いてありました?って聞いちゃったよ。」
「私、今さっき聞いちゃったよ。」
「ははははは!すげー旬な話だな。」
外を歩く小栗くんの横顔は、あの時と同じ『アンニュイ』な顔をしていた。山ちゃんと話している時、すでに柔かな笑顔ではあった。
でも、
私と目が合った瞬間に、花が咲くように笑った。と思った。それだけで、安堵の気持ちがじんわり込み上げて、今、目の前でベラベラ話している。その事実が私の体を喉元まで、指先まで温めてくれた。
嬉しい。
またこんな風に話してくれて良かった。
ようやく、何で素通りされたことが寂しかったのかがわかった。
少なくとも自分にとっては、こうして何も考えず、ただ自分らしく楽しく話ができる。山ちゃんと並んで小栗くんはすでに貴重な存在なんだ。
にもかかわらず、あの時、私はあなたなど、違う場で会ったら挨拶をする価値も無いと言われたように感じた。
自分は彼の中に存在していたいのに、追い出されたような感覚になったんだ。
「絢くん呑んでく?コーヒーにする?」
山ちゃんがお客さんのオーダーを取り終えて、私たちの前に来る。
しなやかで鮮やかに体全体を動かしカクテルを作っている。
こんな時の山ちゃんはちゃんとかっこ良くて、見とれてしまう。
同じようにじっと山ちゃんの動きに見とれている、私の隣の小栗くん。
「山ちゃんは黙ってればスゲーかっこいいよね。ホントに。」
「黙ってればが余計です。」
「そうだよ、山ちゃんが黙っちゃったら救われない迷える子羊が増えちゃうよ。」
「ゆきちゃんは本当にいい子ねー。」
「いや俺今誉めたし、いやゆきさんも今何気に自分を子羊に例えてたよね、子羊ってどうなの!?」
「あら?間違ってた?」
「ゆきちゃんは子うさぎちゃんでも子猫ちゃんでも何でも正解!絢くん呑むの呑まないのどっちなの?」
「態度違すぎだろ。呑ませていただきます。」
「ハイボール薄め?」
「積極的に濃いめでお願いします。」
「あんたに出す酒なんてちょっとでいいんです。」
「ホントは好きなくせに、ひねくれオヤジだなー。」
「何とでもおいい。」
「オカマ…」
「呟くな!!」
また久しぶりにお腹を押さえてゲラゲラと笑った。
絵にかいたように3人で、大きな口をあけて目を細くして笑っていた。
そんな時間は今の生活の全体の中では、グラフにしたら線でしか表せないほど貴重だ。
夕さんとの満たされた時間とも違う、これは恋愛感情が全く絡まないところに成立する大切な時間なんじゃないかな。なんて勝手な考えで安心しきって、楽しさに身を委ねていた。
ここでの関係で思い悩むのなんてもうやめよう。
「ねえ小栗くん。この前駅前で…」
「あー!!そうだ!あの時はどうも。いや、そうだよ、その時の話したくて、僕1週間ぐらいはゆきさんいないかなー?て店覗きながら帰ってたんだよ。」
「あれから1週間って、ゴールデンウィーク中だね。休みの日にはさすがに来ないかなー。主に仕事疲れを癒しに来てるからな。」
「休みがカレンダー通りの人なんだね。僕の場合カレンダー赤の日は忙しい方の仕事だから。」
「ああそうか!そうだよね。先週こそ仕事の疲れを癒したい1週間だったんだね。ごめん気が付かなくて。」
「全然、全く気にしてないよ。てかゆきさんは気を遣いすぎだよ。僕なんかちょっとやそっとじゃへそ曲げたり折れたりしないから、少なくとも僕と話す時はホント気にせず力抜いててよ。その方が嬉しいから。相手の気持ちなんていちいち深読みして考えなくたって何とかなるよ。何とかならない奴なんてこっちから願い下げだね。無理して合わせてたって、それ以上の大切な存在にはなり得ないからね。」
「小栗くんの言葉の力は本当にすごいよね。説得力がハンパナイよ。つられて今時な話し方になっちゃった。いや、つられるぐらい小栗くんの話に引き込まれちゃう。本とか出してみたら?悩める若者が集まってくるかもよ。」
「こんなバカ、歌でも歌ってればいいんです。口は達者だけど文章を書く能力なんて無いでしょ。」
離れていても、やっぱりわたしたちの会話を聞いている山ちゃんが、お客様にカクテルを届けて、小栗くんのハイボールを作りながら口を挟む。
「確かにせっかくの声がもったいないから、本より歌がいいね。」
「バカの部分だけでも否定してよゆきさん。」
「気を遣わずに話すことに決めたから。」
「はああ~どうせ僕っておバカキャラだよねー。」
「黙ってれば全くそうは思わないよ。」
「さっき僕が誰かにそんなこと言ったね。山ちゃん、その節は大変失礼しました。」
「ゆきちゃんグッジョブよ。バカは自分がやられて始めて相手に失礼なことをしたと気が付くからね。ゆきちゃんは賢い賢い。」
「何かすごい悔しいんだけど。」
目の前に置かれたハイボールを飲みながら、小栗くんは嬉しそうに悔しがっている。
さっきからずーっと嬉しそうにしている。
「で?駅前の話って何?」
盗み聞きしていた山ちゃんが悪びれもなく話題をふる。
「ああ!その話、また話が逸れてた。何話してても楽しくて、このままいくと本題に入る前に夜が明けそうだな。」
「その前に店追い出すから安心して。」
「自分で招き入れておいて失礼な店員だ。」
「また逸れてるよ。あのね山ちゃん、この前の休日、駅前で小栗くんに偶然会ったの。目が合って、あっ!て顔したくせに、すっごい冷めた顔で素通りされたの!私は背中を目で追ってしまったというに、スタスタと去っていったんだよ!どう思う!?」
「何でそんなことしたの絢くん!!」
「ちょっと待って!!あれはそういう報告で正しい?いやちょっと待って待って山ちゃん!」
大焦りで、一生懸命に手を顔の前に出して、山ちゃんに『待て』のジェスチャーをする小栗くん。
「ゆきさん。僕らの他にいた人達の話をしてはいけないの?」
ふと気が付いたら小栗くんの顔がすぐそこにあって、私の耳に顔を寄せて、小声で囁くように話す。
耳にかかる息、囁く声の揺れが直接耳に響いて、突然鼓動が速くなる感じがした。
小栗くんやっぱりいい声すぎる。無自覚なのが良くない。
でも、こんな他愛もないことでドキドキしていると悟られないようにゆっくりと顔を離してから小栗くんの方を向く。
「小栗くんが困らないなら私は全然いいよ。」
今まで山田さん家ではできるだけプライベートを出さずに来たけれど、嘘をつくぐらいなら隠さず話した方が良い。
「またそうやってゆきさんは、結局相手に気を遣っているから話がおかしなことになるんだよー。僕はそういうの全然かまわない人だから、もっと気楽に何でも話してよ。」
「待ったよ。それで、つまりどうしたの?」
楽しそうな山ちゃんが話の続きを催促する。
「小栗くんが彼女と一緒で超ラブラブだったから、私から声をかけるのをためらってたら、私に気が付いたくせに冷たい顔で素通りしたのよ。」
「ちょーーと待った!!!」
軽く腰を浮かせて、私の唇に触れるのではないかと思うギリギリのところで小栗くんの手が止まる。
左手は自分の顔の前で『待て』のポーズ。右手は私の口の前に『シー』のポーズ。
そのまま数秒間の沈黙。
小栗くんの手からロクシタンのハンドクリームの香りがする。
何かの力で内側から胸を押されてドキドキしてしまう。
この人の無自覚すごい。
言葉の武器もすごいけれど、相手との距離が近いことに気が付いていないのかな?
プライベートゾーンにあまりにも自然にズカズカ入ってくるから、入られてることに気が付かないままに
あっという間に間近にいる。意識したらこちらの負けだ。ん?何に負けるんだ?
自分で突っ込みを入れながら吹き出してしまう。
「ゆきさん酷いよね。今の説明酷いよね。どこまで自分だけを守り続けるんだよー。」
「あははははは。ゴメンゴメン。」
「山ちゃん、あなたの天使『ゆきちゃん』の彼氏はジャニーズ顔負けのイケメンだよ。背も高いしオシャレさんだし、ゆきさんにぞっこんだし。あんなん見せられたら誰でも声かけられないわ!」
「そんな風に見えたの!?」
「周りからどんな風に見られてると思ってんの?どこにでもいる平凡カップルっていう絵面じゃないからね。」
「不釣り合いなカップルだと思われてる、と思ってる。」
「あー!ダメなパターンだよ。ここまで来てこの自己肯定感の低い感じの発言はもう、わざとかと思われちゃうよ。僕も山ちゃんもゆきさんの大体の性格がわかってるから良いけど、他の人が聞いたら嫌味だと思うから要注意。」
「本心なんだけど…。」
「わかってるよ。ゆきさん自身は本当にそう思ってるんでしょ。そう思いそうなタイプだってこれぐらい話せば分かるけど、世の中そんなに物わかりのいい人ばかりじゃないからね。」
「つまりどう言うこと?」
「ゆきちゃんがすごく魅力的ってこと。ね、絢くん。」
「僕がその台詞を使うとやらしいけど、間違いなくお似合いだよ。すごい目立ってた。」
「そうなんだー。ゆきちゃんだからね、いい人がいないなんてことはあり得ないって思ってたけど、自分からは何も言わないし、今日は良いこと聞けたわー。」
山ちゃんが何かを妄想しているような目で呟くように言うから、突然恥ずかしくなって、小栗くんの顔を見る。
小栗くんはずっと私の事を見ていたのか、バッチリ目が合う。そして逸らせなくなる。
「なに?」
「ゆきさん、僕は本当にヤバイと思ったんだよ。あの時。ギャップ萌えを体感した。心を撃ち抜かれたとか言う古い表現を評価したくなった。」
「難しい。意味がわからないよ…。」
「歌の歌詞っぽく言ってみた。」
「そんな難しい歌詞流行らないね。」
「こういう時だけ素直なんだから。いやさ、プラネタリウムで会った時も、ここで始めて会った時も、ザ・キャリア・ウーマン!スゲーと思ったの僕。山ちゃんもそう思うよね?」
「そんな下品な言い方しないけど、ゆきちゃんがお仕事ちゃんとフルタイムでしている人だなっていうのは、雰囲気でよくわかるよね。服装とか。メイクとか。」
「そう!ここで会った時なんて、紺の深めのVネックニットに、マーメイドラインのタイトスカートでさ、一人で酒呑んで山ちゃんと楽しそうに話してるのなんて、僕の周りには絶対にいないタイプの女性だったからすんごい興味あったもん。自立する女性ってやつだよなー、かっこいいなーって。」
「そんな風に見えた!?誰かと一緒にいないと時間を過ごせない寂しい女の構図じゃない?」
「文句ばっか言って、暗い顔してお酒煽ってたらそうかもしれないけど、ゆきさん良い顔して楽しそうに呑んでた。」
「確かに、あまり愚痴は言わないね。口から出したら余計腹立つんだもん。」
「ゆきさんらしいわ。なのに外で会ったらピンクのニットにフレアスカートでショルダーバッグってダメでしょ~。」
「可愛いね。」
「そうなの山ちゃん!綺麗で自立した女性が駅前で会ったら可愛いカッコして、いい男連れてんの!ダメでしょ~!!」
「男はノックアウトね。」
「そういうもんなの!?狙ってないよ私。」
「狙ってないから良いんだよ。僕、自立する女性は男なんか頼りにしないし、興味もなくて、お高くとまってるんだろうなってずっと思ってた。完全に誤解だった。」
「まず私が、ザ・キャリア・ウーマンで、自立する女性だってところから誤解だよ。」
「そこは自己評価より他者評価が優先だから。」
「そんなもの?これって誉めてもらってる?嬉しい気持ちでいるんだけど、今までの人生の中でこんなに面と向かって誉めてもらったこと無いから、からかわれてるんじゃないかと気になって仕方ないんですけど。」
「そんなもの。バリバリ誉めてる。とにかくあの時は僕、久々にすごいドキドキして、あの後しばらく興奮してたら、連れにおかしいって怒られたよ。」
「そうだよ!そんなこと言って小栗くんだって超可愛い女の子を連れていたじゃない!人のことばっかり話してるけど、自分はどうなのよ?」
「萌(もえ)ちゃんのこと?」
「山ちゃん待って、あえてたくさんそういう女性がいるような雰囲気で話すのやめてもらえます?僕こう見えてもわりと真面目なんです。」
「ゆきちゃんどんな子だった?」
「黒髪ボブカットの小柄で華奢な感じの、私とは正反対な可愛らしい感じの子だったよ。」
「あら、萌ちゃんだ。最近は真面目にしてるのね。」
「最近とか言わないで。ずっと真面目。大真面目。」
山ちゃんは他のお客さんに目配りして、自分からおかわりを聞きに行ったりしながら、私たちの会話には常に耳を傾けていて、ちょこちょこ入ってくる。
「小栗カップルはとても可愛らしくて、私、しばらく離れたところから見とれていたんだよ。気が付かなかったでしょ。彼女しか見えてないから。」
「可愛いのは萌ちゃんだけです。」
「山ちゃんうるさいなー。彼女しか見てないとかそんなんじゃないよ。保護者的な感じ?」
「あんたみたいな親、萌ちゃんに必要なし!」
「くそー。」
「萌ちゃんもこのお店来るの?」
「来ないよ。山ちゃんが知ってるだけ。」
「この人がライブハウスで歌ってた時に話したことがあるの。もうライブハウスは止めちゃったのよね。」
「余計なこと話してると、オカマ喋りになってるよ。」
「悪かったわね。」
何となくぬるい空気が二人の間を通過した。そこは今触れないでほしいって言う小栗くんの声が私には聞こえた気がした。
『保護者的な感じ』と表現した小栗くんの言葉と、あの時見た大人っぽい笑顔がとてもしっくり来て、事情を知りたいと思う気持ちはもちろんあった。
でも、今じゃなさそうだ。
「ゆきさん気を遣ってるでしょ。今。」
「うん。」
「ありがと。いつか話すよ。そんな時も来るかもしれないし、来ないかも知れないけどね。」
「何それ?」
「話す必要があるような関係になる時が来るかもしれないし、来ないかも知れない。どんな巡り合わせか知らないけど、人がいろんなタイミングで出会うのには何か意味があるのかなー?て思って生きてるタイプ。僕。だから話す必要がある関係になったら、それはそうなるべく、出会ったんだよきっと。そう思える時まで待ってね。」
「うん。」
わかる気がした。その考え方。
何で今、この人が私の前に現れるんだろう、と思うこと。
絶妙なタイミングでいい人が現れる時も、最悪のタイミングで求めていない人が現れる時も、でもどの出会いも結果自分の人生に必要な出会なのかもしれないと思ったことが、私にもある。
やっぱり小栗くんの言葉には、何故かいつも安心する。自分のうまく説明できない感情をクリアにしてもらっているようだ。
たくさんの言葉を駆使して伝えてくれるから、どこかのキーワードに同じ考え方を見出だせるだけなのか。
考え方や生き方自体が少し似ているのか。
私は自分の気持ちをこんなに表出するタイプでは無いけれど、裏の無いまっすぐな小栗くんのやり方には深く共感できる。
この日は山ちゃんが私の分も奢ってくれた。
私を思って、言葉に出して評価してくれる人がいて嬉しい。
「山ちゃんありがとう!優しくしてもらってるって実感できる。すごく嬉しい。」
「ゆきちゃんはいい子だからね。特別。」
「小栗くん、今日はいっぱい誉めてくれてありがとう。これでまた仕事頑張れる!」
「ゆきさんこそ、知りもしない僕に始めて声をかけてくれた時、全力で誉めてくれた。感動したよ。ありがとう。」
「そんなこともあったねー。」
山田さん家の魔法は、山田さん家でしか使えない。
小栗くんは私に連絡先を聞いたりしないし、私も聞かない。
ここで会う。駅前で偶然会う。以外の選択肢が無い。そのぐらいが気持ちのよい距離。
いい関係だと思った。
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