2月
坂下 道玄
如月
雪が降っている。
街灯を仰ぎ見ると、無限に続く氷の欠片が僕を星間旅行に導いてくれる気がした。
オレンジ色に染まった雪は火花の様で、仄かな温もりを感じた。
夏に灯に群がるユスリカにも似ている。まるで枯山水。
それは炎のようにも、水のようにも、神話の一幕すら垣間見える気がした。
灯が灯っている。
橙色のLEDは昏い夜道を照らし、雪にそれを反復させながら僕も照らしている。
街灯が太陽なら雪は月だろうか。太陽より何倍も巨大な惑星かもしれない。
そういえば、ペテルギウスはもう消えているのだと話している人がいた。
何万光年という時間の隔たり。
今、僕の頰に触れた雪がもう水になっているように。
気がついた時にはなくなっているものって沢山あるよな
って煙草に火を付けようとしたら もう一本も無かった。
僕は代わりに白い息を吐いて、煙草を買いにゆく。
寒い夜には身体を温める火が必要だ。甘い珈琲もあると尚 良い。
公園のイルミネイションを横目に見ながら、日本語訳を考えたりした。
帰ったら辞書を引こう。
此処には光と闇だけがある。
殊更、夜にはそれが強調される。
遠い昔は月明かりだけが大地を照らしたのであろう。
深々と積もる雪の狭間から月のぼやきが聴こえる
街灯達はそれを反抗的な眼差しで凛と見つめていた。
それはまるで幼子と母親のようで
この惑星が未だ生まれて久しいことを思い出させてくれる。
遠くから渡り鳥の編隊が風に乗って現れる。
僕は白い息と煙を吐きながら鳥の行方を追う。煙と空が混じって白んできた。
徐々に雪原と空の境界が曖昧になってゆく。
太陽が現れると、月と街灯はにらみ合うのを辞め、作り笑顔で景色に溶けてゆく。
鉄塔が誇らしげに街を見下ろす。電波塔は金星との交信を終えた。
鳥は遥か遠くに消えてゆく。僕は雪原にぽつりと取り残された。
電線に一羽の鴉が留まっている。
2月 坂下 道玄 @perseus
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