第13話 ある製薬会社との繋がり
瑠美たちは騒ぎが落ち着いた渋谷のセンター街に一路足を向けていた。
その途中でも良子はタブレットを持って、ずっと唸っていた。
その様子に瑠美が質問した。
「どうしたのお良?」
良子は瑠美の問いかけに眉間に皺を寄せて答え始めた。
「ん~・・・瑠美・・・私程の腕前ならば~、多少の仕掛けなど見切ること~できるんだけど~、JK観光のサーバーが着信元で襲われる仕掛けなのはわかったんだけど~、肝心の~襲う側の~仕掛けが~、全く掴めない~」
その話に皐が腕を組み、考えていた。
「そうだな。その仕掛けがまだ未知だな。お良の技術力ならば不可解なプログラムを探れるのは容易いはずなのか?」
「う~ん、私の~技術力で~分からないとすれば~、世界的でもそうはいないよ~」
瑠美が良子の答えに単純に発言した。
「ならば、お良よりも上がいるってことかな~」
皐と良子はドキッとした。それが一番しっくりいく答えだった。良子はハッとその宛を思い出していた。そしてその人物をタブレットに出した。そのタブレットには人の顔はなく、ただクラッカーの呼称とその実力についての内容が書かれていた。
「瑠美、さっちゃん~。このクラッカーなら私の確実に上だよ~」
皐がそれを見て、その文面を読み始めた。
「<オラクル>・・・2000年に入ってから、数々のハッカーの撃退や、逆に攻撃など、傭兵のように各国で活動している懸賞金首。最近では、各国のサイバー攻撃に加担しているとも噂をされていると・・・。十分、テロリストだな」
「そんな国家単位で追う相手を私たちが追っているの?」
3人とも顔を合わせて、苦笑した。
「まさかね~」
「うん、まさか。渋谷でテロなんてスケールが小さいんじゃない」
「まあ、一考しても良いかもしれんがな」
そう話しながら、3人は<ピースブリッジ>の傍まで辿り着いた。
良子はタブレットの時計を見て、物陰から渋谷のカメラを拝借して、その拠点前で待ち伏せすることに決めた。勿論、御手洗にこのカメラを使いますとメールを送信した後にだった。
ピースブリッジからマリアが出てきた。軽く手を振っていた。すると道の向こうから大倉がやってきた。2人で何か話をしてから、今度はマリアがどこかへ出掛けていった。
瑠美が2人に「ちょっと探りを入れてくる」と伝え、2人は了承した。
瑠美が大倉に近寄ると、大倉は気が付いた。
「あ、竜宮司さん」
「名前覚えていてくれたんだ。さすが代表ですね」
「まあ、人の名前を覚えるのも、責任者としては必要なことだからね」
大倉は笑顔で瑠美に話し掛けていた。すると、マリアとは違うスーツ姿の外国人が2人がピースブリッジにやって来た。それに大倉が気が付いて、2人に声を掛けた。
「ああ、マイクにアンディ」
「大倉さん、戻っていたんですね」
「オレもマイクと松濤の方まで見回ってきたんだけど。おや?この子は」
2人とも流暢な日本語だった。瑠美は自己紹介をした。
「初めまして。私、竜宮司 瑠美と言います。チカさんの同級生です」
背の高い黒髪のスペイン系のアンディ・ロドリゲス。甘いマスクで瑠美に話し掛けてきた。瑠美はそのカッコ良さにドキッとした。
「初めましてルミさん。オレはアンディ・ロドリゲスと言います。大倉さんとはこっちのマイクと同く古い付き合いでね。このピースブリッジにたまに手伝いに来ているんだ」
「そうだな。私はマイケル・アンダーソンだ。マイクと呼ばれている」
マイケルはアメリカ国籍でこちらも長身で茶髪の無精髭を蓄えた精悍な男性で格闘技でもやっているようなひとだった。
2人とも瑠美と握手を交わした。瑠美は何故2人ともマリアと違って日本語が上手いのか尋ねた。
すると、アンディが答えた。
「ああ、大倉さんと同じチームで日本で10数年活動していたし、オレもマイクも大学は日本の大学でね」
「そうなんですか。因みにどちらの大学で?」
「東都薬科大学だよ。元々、オレもマイクもそこで知り合ったんだ。互いの国で同じ分野で学んでいたんだけど、互いに日本に興味があってね。それで偶然留学先が同じだった訳さ」
「なるほど~。で、大倉さんも同じ大学?」
大倉は瑠美の話に「ちがう」と答えていた。
「いや、私は海外の大学でMBAを取得したので分野は畑違いだよ」
「経営ですか」
「そう。彼らと知り合ったのは海外活動での難民キャンプとかだったかな?」
マイクは頷いていた。
「そう。私とこのアンディが薬剤師の資格を有していて、あの手のキャンプだと衛生上色々な病気が蔓延するから、その補助で派遣されていたんだ」
アンディもその時を振り返り、渋い顔をしていた。
「そうだな。あの時はいろんな合併症を併発するひとが多くて大変だった。投与していた時、自分たちがこの場に居なかったらと思うと悲劇だったよ」
瑠美は相槌を打った。そして今度はマリアについて尋ねた。
「マリアさんは今日はいないんですか?」
大倉はマリアは少し前に出掛けたと伝えた。
「マリアはちょっと前まで渋谷が混乱していたから、仕事の要請先に行けなかったんだ。私が周囲を確認してから戻って来て、それで出掛けて行ったよ。で、マリアに用があったのかい?」
瑠美は頷いて、マリアに興味が有って、異文化交流をしたいと大倉に伝えた。
「そうか。まあ日本人はまだ鎖国的だからね。こちらのマイクやアンディもそうだが、日本のことに興味をもつ度合いが日本人よりもあることに日本人も見習わないといけないね」
大倉は笑って答えた。マイクとアンディも同感だった。
「そうですね。オレは和の心を持つ日本に興味が有って、そんな国に住む日本人はどれほど素晴らしいかと思っていたんですよ。まあ事実は自国のことはそれ程珍しくはない。何故なら、それがごく自然だからね」
「仕方ないことだ。普段の生活は世界の先進国と余り変わらなく、それが当たり前で日本の文化とか伝統芸能化して、普段の生活には馴染まない。たまに思い出したかのように祭をするのが普通だね」
そう2人が話すことに瑠美も深くそう思うと述べた。
瑠美はマリアが不在ならば仕方ないと伝えてその場を離れ、皐たちの下へ戻っていった。
瑠美は2人にそのやり取りを全て伝えた。それに皐と良子は感心した。
「全く。演技にも磨きが掛かり過ぎている位、自然体だな瑠美は」
「う~ん。絶対に怪しまれない」
「そう。えへへ」
良子はタブレットである検索結果を弾き出していた。大倉とマイク、アンデイはよくこのピースブリッジに顔を出していた映像だった。しかも決まった時間に。
「ほぼほぼ夕方だね~。記録の大半はスーツ姿だから~、勤め帰りかな~」
皐は良子にこの2人の身元検索はできるかと尋ねた。
「うん。やってみる~」
良子は瑠美から得た名前と人の顔を頼りに、自作プログラムでネット上に検索を掛けた。するとある製薬会社のデータサーバーにヒットした。それについて瑠美が渋い顔をした。
「良子・・・。会社のサーバーを網羅する検索ソフトって、秘密保護法もあったもんじゃないね」
「ハハハ。そうだね~。でも、個人情報なんて守られているとか~、そんな幻想を抱く方が~、可笑しいよ~。みんな各地で自分の名前書いたりしてるじゃない~。みんながそれを守りますって保護していたところで~、みんなが知っている訳だから~、それって秘密保護でも何でもないと思うよ~。だってみんなが知っているんだもの~」
「そりゃそうだけど・・・」
良子の適当な論破で瑠美は言葉が詰まっていた。そんなことをお構いなしに良子は2人にマイクとアンディの情報を見せた。
皐は2人の情報と瑠美の話が大体一致していることを確認した。海外派遣中の過程で2人とも会社から背任で追及されたことがデータに載っていた。
「背任か・・・。他社へ自社のデータを流していたか・・・」
しかし、それについては証拠不十分で不起訴になっていた。彼らは社内でもキャンプを救った英雄扱いをされていたため、上層部からの追求も止まったそうだった。瑠美はキャンプでの活動が英雄視されていたことに着目した。
「英雄ね~。救った命が多かったこと。社会貢献が素晴らしかったってこと?」
良子は瑠美の反応にタブレット検索で答えた。
「そうだね~。人命第一と考えて、各国の慈善団体から表彰されかかったらしいよ~」
「されかかった?されてないんだ」
「う~ん。なんかちょっと非合法なところもやって~、問わず薬を集めたらしい~」
皐は良子の情報に腕を組んでいた。
「そうか。慈善団体はその手段に一歩踏みとどまった。しかし彼らが助けた命は事実。それは本国の製薬会社に伝わり、結果は上々。救命の英雄と言われた訳だ。その事実は知らないことで」
「そうね~。それに~、大倉さんも~関わっていたみたいよ~。ほら」
良子は検索してタブレットを差し出すと、マイクとアンディの映る写真の中に大倉の姿もあった。
皐は頭の中で描いた話を瑠美と良子に伝えた。
「仮定の話だが、大倉が経営学を修めたことで、2人の非合法手段のパイプ役となった。2人は元々救命意識が高いことを利用し、背任の疑いを掛ける程の行為を行わせた。大倉が2人の弱みを握っているのかもしれないな。さて、大倉の狙いが問題となってくる。渋谷を混沌にさせることが狙いの理由とは?」
瑠美と良子はそれぞれ悩んだ。瑠美がゆっくりと話し始めた。
「狙いねえ・・・。3年前とリンクしているとすれば、大倉さんがドラッグメーカーで、渋谷で薬を蔓延させている。薬・・・未認可・・・製薬競争・・・。実績を上げると利益になる。単純に金銭目的かな?」
皐が瑠美に「どういうことだ」と聞き返した。瑠美は再びゆっくりと答えた。
「これも仮定だけど・・・。大手製薬会社の競争で勝ち組が富を得れると言う話が発端ならば、渋谷で非合法な治験をしていたのかもしれないよ。それを隠すために渋谷をドラッグ汚染で混沌とさせた。と言うシナリオは?」
「成程。ドラッグ汚染が森に木の葉を隠すためか。3人の共通するとすれば、製薬関係。彼らの利害は製薬の発展による富と名声、人命救助だ。ドラッグ汚染に対しては治験と言う観点からは程遠い。目的は治験患者の非合法的な獲得もあるのかもしれない」
皐は瑠美の推理を褒めた。良子も2人の言い分に納得していた。
「そうだね~。仮定の話ならしっくりくるよ~。で、証拠はどうする~?」
良子はニタニタ笑いながら、2人に語り掛けた。2人ともその表情に既に何かを掴んだことを悟っていた。
「お良よ。的はどこだ」
「へ~い。こちらでございやす~」
良子は皐にタブレットを差し出した。すると渋谷の外れのビルに大倉が立ち入っている姿が映し出されていた。その建物には何人かの外国人や女子高生、そして白衣を着た人が出入りしていた。
「マイクたちの勤める製薬会社の治験場か・・・。会社絡みになってきたな」
皐は表情を顰(しか)めた。大人が犯罪を主導していたことに。社会とは全く救いようがないなと考えた。その考えは<ウィザード>の言い分も若干理解できると思った。
「大人がこのような事をするわけだから、救いようがないな。<ウィザード>の悩みも少しは分かる」
「さっちゃん!」
瑠美は皐を叱った。皐は少し笑い、手を挙げて謝った。
「悪かった。<ウィザード>はやり過ぎだ。法の下で裁かれることが一番だ」
瑠美はホッとした。良子はタブレットを操作し、そのビルの映像を見入っていた。
「うん。ビンゴ~。瑠美、さっちゃん。具合悪そうな女子高生が~、建物内に入って~、少し経ってから~、同じ女子高生が元気になって~、出てきている~」
「何か投与されたってことだな」
「そうだね。それしかない。ドラッグだよ。さっちゃん、お良、そのビルに今から行ってみる?」
皐は少し考えた。ここの見張りも必要だが、3人の分散も事態としては望ましくない。あの覚醒アプリも1回しか使えない。すると、良子が「監視カメラでいつでもモニタリング可能だから大丈夫だよ」と伝えた。皐は同意した上で「ならば、先にそのビルの現在の映像を映せるか?」と尋ねた。
「う~ん。余裕だよ~」
良子が現在のビルの状況を映すと愕然とした。ビルが燃えていた。ビルの中から沢山のひとが逃げ出していた。
「なんで~?燃えているの~?」
瑠美と皐は良子の反応にすぐさまタブレットを覗き込んだ。
「ホントだ。燃えている・・・」
「くっ・・・先を誰かに越されたか・・・」
そしてその映像の中に後ろ姿ながら、見覚えのあるひとが映っていたことに瑠美が気が付いた。その人物がスッとスマートフォンを取り出して、何かを操作していた。その時、良子のタブレットが強制的にシャットダウンした。
「ええ?・・・なんでー!」
良子は慌てた。自分の端末が強制的に切られたからだった。自分の端末にアクセス権限を持つもの、またはその上を行く者の仕業だった。皐はそれを察した。
「お良よ。例のオラクルの件も考慮に入れた方が良いかもしれんな」
良子はゾッとした。世界的なクラッカーを相手にする。自分の持ち前の端末を全て破壊されるかもしれない。しかし、これを乗り越えることが自分の新たなる成長となる。その両天秤に武者震いをした。
「う・・・う~ん。実戦こそ、一番の近道だからね~。幸いタブレット後2つあるから~、そちらを親機に変えて~、家に持ちうる一番のウィルスを持ってくる~」
瑠美は良子の意見に首を傾げた。何故対策ソフトでないのか。それに良子は答えた。
「もはや~、私のセキュリティーを突破できることが今実証されたわけよ~。ならば~、私に攻撃したときに相手に喰らわすウィルスを用いようと思ってね~。セキュリティよりもウィルスの方が上だから~」
「そうなんだ~。何で?」
「穴を塞ぐためにセキュリティ対策するけど~、それまで中々穴に気が付かないから~、ハッカーは穴を探しては~、攻撃してくるんだよ~。で、セキュリティ対策をする訳だよ~」
瑠美は良子の話にセキュリティ対策の後手を認識した。皐は再びピースブリッジに目を配らせた。すると皐の予想通り、大倉、マイク、アンディの3人は電話片手に慌てていた。
「瑠美、お良。奴らは当たりだな。あの慌てようは先のビルの火災のことを知ったんだ」
2人もピースブリッジを見て、皐と同様の感想を持った。
「そうみたいだね。遠くからだけど・・・」
「う~ん。製薬関連で~、彼らの製薬会社の建物が焼失したからね~。それに対して、大倉さんが慌てることがまずおかしいよ~。関係ないはずだもの~。ピースブリッジとは~」
「出資者の1つなのかもしれんな。それにしても、大手製薬会社からの出資だ。たかが1つのビルの焼失で大倉があんなに慌てる必要はない訳だからな」
皐はその場で御手洗に電話を掛けた。
「・・・皐か。どうした。何か展開があったか?」
御手洗は落ち着いた声で語り掛けた。皐は端的に伝えた。
「御手洗さん。今日で決着が付きそうだよ。渋谷の外れの火災は知っていますか?」
「ああ、こちらでも確認している。大手製薬会社の治験場だな」
「それが今回の火元です。と言っても燃えましたが」
皐はブラックジョークを交えて今までの推理を御手洗に話した。御手洗は全てを了承して、取るべき行動を伝えた。
「要するに、我々がそのビルの現場へ向かえばいいんだな。そこでドラッグの欠片でも見つけたらクロだ」
「そうですね。私たちはこれから大倉の前で告発します。もしかしたら、彼らは自分たちに繋がる持ちうる証拠を消して逃げるかもしれません」
「すると、再び闇の中か・・・。わかった。幸いまだ渋谷だ。30分で片づけてやる」
そう言って、御手洗は電話を切った。皐は御手洗とのやり取りを2人に伝えて、3人で慌てている大倉達に詰め寄ることを話した。
「既に賽は投げられた。あの火災は大倉が想定したものでない。つまりバグテロリストの仕業だ。大倉を先に捕まえて、バグテロリストから防がなければならない。そして、今ここで大倉を捕らえなければ、3年前と同じく逃げられてしまう。彼らの持ちうる繋がりは映像と御手洗さんが探してくれるであろうドラッグの欠片だ」
瑠美、良子とも頷いた。皐は話を続けた。
「それに彼らが自前で持ちうる証拠を今ならば消す暇を与えずして、抑えられる可能性がある。例えば彼らの電話等だ。もしかしたらピースブリッジ内にも資料があるかもしれない」
瑠美が皐の話に答えた。
「そうだね。現状打破は今しかないね」
良子も瑠美に続いた。
「う~ん。そうだね~。詰め寄っている間にもネットでの情報証拠を拾いあげてるから~」
「よし。では行こうか・・・」
皐は2人の決意を聞いた後、3人はピースブリッジへ近づいていった。
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