第12話 ある外国人らの暴動

次の日は学園が創立記念日と言うことでお休みだった。

3人は調べ物の前に、できるだけ材料を集めようと朝早くから松本が入院している病院へお見舞いがてら訪れていた。


瑠美は花瓶の水を替えに行っており、病室は松本を含め4名の女性が入院のためベットに居た。

皐が途中で購入した梨を松本の傍にて、手慣れた手つきでサクサク剥いていた。


その様子を良子とベットに居る松本が感心して眺めていた。


「凄いね~さっちゃん。私は包丁できないよ~」


「うん。皐さんすごいです」


あっという間に皿に盛りつけられた梨を皐は松本へ差し出した。


「どうぞ、松本さん」


「あ・・・ありがとー!」


松本はむしゃむしゃと梨を食べた。皐はその様子を見て笑みを浮かべていた。


「どうやら元気そうでなによりだ」


「・・・む・・ん・・・うん。この通り!腕がポキッといった。そのときの衝撃でちょっと肋骨がやられたみたい。あとは平気」


松本は梨を全て食べ終わり、「ごちそうさま!」と皐に言った。


「はい、お粗末さまでした」


皐はお皿を傍にあるテーブルの上に置き、松本に襲われた時の話を聞き始めた。


「松本さん。あまり話したくはないかもしれないが、暴漢のこと」


松本は神妙な顔をして頷いた。


「・・・クラスの中でも貴方たちの噂を耳にするわ。色んな不可解な謎を追っているって」


良子が松本に気遣った。


「松本さん・・・辛いなら別に大丈夫だから~・・・」


松本は少し笑みを浮かべ、良子へ「大丈夫」と答えた。


「私は貴方たちを迎えに行ったんだ。その途中で街角からその暴漢が現れたの。外国人だった。でも・・・」


皐は腕を組んで、少し姿勢を正した。


「でも、何かあったのか?」


「うん。その暴漢は頭を抱えて、少し苦しそうだった。角を曲がったときぱったり自分と鉢合わせのような状態。その暴漢が私に視点を合わせると、ニタ~っと笑って、私の腕にめがけて思いっきり蹴ってきたの。それでコレ」


松本はギプスの腕を指差した。皐はもう少しその暴漢について質問した。


「松本さん。その暴漢は他気になったことはある?」


松本は空を仰ぐように考えていた。


「ん~・・・警察にも話したんだけど・・・なんかキマッっている感じかな?」


「決まる?」


皐が言葉の意味が良く分からなかったので返したが、傍に居た良子が代わりに答えた。


「さっちゃん。ドラッグが投与されている疑いがあるってことだよ~」


皐は良子の言葉を聞いて、納得した。


「そうか・・・警察からは何か伝えてもらったのか?」


そう皐が質問すると、松本はこくりと頷いた。


「ええ。刑事処分で色々その外人さんへの告訴の準備のため、状況を話してもらうようなことだね。後は・・・彼にその精神的に何か責を負えるかどうかとか・・・」


それを聞いた皐はその外国人の暴漢はドラッグ投与の疑いが強まってきた。

大体話終えたところで瑠美が花瓶を持って、戻ってきた。


「お待たせー。お花も元気になりましたー」


瑠美が満面の笑みで松本のテーブルに花瓶を飾ると、松本は瑠美にお礼を言った。


「ありがと、瑠美さん」


「い~え。松本さん」


「チカでいいわ」


「じゃあチカさん」


「うん!ありがと」


瑠美と松本がやり取りしている間に、皐は良子へ院内の通話ができないため、メールにて御手洗に渋谷の件を送信する準備をしていた。


「で~、どうするの~、内容は?」


「そうだな・・・3年前に終わった渋谷のドラッグ騒動が現在進行形で、私らのクラスメートが犠牲になった。それを止めるバグテロリストが暗躍していて、少々面倒なことになる可能性がある・・・と打ってもらえればいいかな」


「う~ん。了解~」


良子はタブレットに手早く文面を入力し、御手洗へ送った。そして、数分後返信が来た。


「ほ~、早い~。早すぎるよ御手洗さん」


どこぞのスレッ〇ーさんに対しての文句を真似たが、そんなことを分かる女子高生はその場には居なかった。皐は御手洗のメールを見せるよう良子へ注文した。


「はい~、どうぞ」


良子は皐へタブレットを渡した。皐はタブレットを見た。


<話はわかった。渋谷署と合同で捜査に入る。君たちは調査を続けて欲しい。が、危険と思ったら直ぐに連絡をすること>


皐は1行にも満たない文章をサラッと読むと、良子へタブレットを返した。


「まあ、そんなところだろう。一応保険は必要だからな」


「そうだね~。言っても私たちは~、か弱い女子高生だものね~」


それから3人は松本と話題を変えて談話を楽しみ、昼前に切り上げて渋谷へ向かった。

向かう電車の中で、良子はタブレット上での緊急速報に目を顰(しか)めた。


「・・・瑠美、さっちゃん・・・渋谷は今、危険な状況よ~」


そう聞いた2人は良子のタブレットを覗き込んだ。すると、渋谷の109周辺とセンター街の何か所か外国人同士でトラブルがあったというニュースが流れていた。


「ちっ、またもや後手に回っているな私たちは・・・」


皐がぼやいていた。瑠美も同感だった。


「さっちゃん。警察も同じくそう考えているよ。とりあえずはお良の情報ソースを頼りに、渋谷の安全なところで作戦会議しよう」


瑠美の話に2人は頷いていた。

瑠美たちは渋谷の西口の方にある小さな喫茶店に入った。良子は今日に限って、カバンの中にノートパソコンを入れていた。良子はテーブルに着くや否や、ノートパソコンを起動し、ネット環境を整え、渋谷の監視カメラをハッキングした。


「よ~し。これで~渋谷は丸裸~」


良子の監視映像を瑠美と皐にも協力してもらうため、更にタブレット端末を2人の為に用意していた。


「はい、これ~」


瑠美と皐は良子から渡されたタブレット端末を持った。すると勝手に起動し、渋谷の監視カメラと接続されていた。瑠美は驚いていた。皐も感心していた。


「これはすごい」


「うむ、良く見える。足よりも手早く現実を知れるな」


良子は2人に使い方を説明し、それを使って渋谷を探るよう促した。


「何せ~、狭いとはいえ~、カメラの数は結構あるからね~。ちょっと人海戦術が必要だと思うよ~」


皐はため息を付き、瑠美は気合いを入れ、作業に取り掛かった。

街のリアルタイムが映し出されていた。箇所で小競り合いみたいなことが起きているのが分かる。それに止めに入って来た警官たち。関わらない様に避難する待ち往くひとたち。


皐が小競り合いについて、気が付いたことがあった。


「なあ、この小競り合い。片や一糸乱れぬ動きだが、片やまとまりなく暴れているように思える」


瑠美、良子とも賛同した。


「そうだね。コレってやはり・・・」


「う~ん。バグテロリストの操作とドラッグ中毒者との戦いだね~」


3人共各箇所の小競り合いをカメラを切り替え眺めたが、どれも同じだった。

瑠美がふと考えた事を言った。


「今回のテロリストは渋谷をドラッグから守りたい訳なんだよね・・・」


瑠美の意見に良子が答えた。


「そうだね~。でも、やり方が~」


「そうだな。余りに酷い・・・だからテロリストたる所以だな」


皐はどちらの言い分にしろ、両者とも犯罪者だと断定した。

互いに互いの思想を戦わせている。それが第3者である者を利用して。


バグテロリスト側は騒ぎの拡大を狙い始めたのか。はたまたドラッグメーカーの行動の展開が早まったことでの行動なのか。3人は色々思いにふけっていた。


「さっちゃん、お良。とりあえずはこの映像についての情報は出尽くした感ないかな?」


瑠美が率直な感想を述べた。それについて皐が質問した。


「瑠美、どうしてそう思う?」


瑠美は手前に注文したアイスコーヒーをストローでちょっと飲んでから答えた。


「完全にボードゲーム化っぽく見えるんだよね。ましてカメラを通して見ても。私だったら、この小競り合いの最中、両者とも正体を出さないと思う」


「成程、将棋の駒みたいなものか」


皐は納得し、この小競り合い続いている間はテロリストとドラッグメーカーを見つけることはできないと瑠美と良子に話した。


「そうだね~。じゃあ3つにパートを分けようか~?」


「3つ?」


瑠美は良子の提案に反応した。良子はニコッと笑った。


「う~ん。私は~このまま監視する~。瑠美は~、松本さんが襲われた当日の渋谷のカメラ記録。さっちゃんは私たちを襲いに来た高校生の時間帯の渋谷の記録」


瑠美と皐は互いに頷いた。すると、良子はノートパソコンを叩き、瑠美と皐のタブレットのカメラをそれぞれの日の情報に変えた。更に追加で時間と日付の設定も2人に教えた。


「あとは~、また根気よく探してね~」


「ああ、了解だ」


「うん、わかった!」


そして3人はその喫茶店で長い時間を費やすことになった。


・・・数時間後・・・


渋谷の小競り合いも警察の出動での効果が徐々に表れてきた。渋谷署の警官だけでカバーしきれないエリアなど、警視庁に協力を求め、カメラ以上の警官配置がなされていた。


良子がリアルタイムの監視カメラを眺めていたが、そろそろ切り上げようと思っていた。


「う~ん、警察の火消しは大体終わったらしい・・・。渋谷各所に警官が配置されたみたいね~。あっ、御手洗さんがいる」


良子がセンター街の一か所で御手洗が何やら指示出しをしている姿を画面で眺めていた。御手洗は良子が見ているカメラに視線を流してきた。良子は一瞬ドキッとした。御手洗が胸のポケットより携帯を取り出し、電話を掛けていた。


その時、良子の携帯に電話が鳴った。良子は着信を見て<御手洗>からだとわかった。良子は2人に席を外す事を伝え、店の外に出た。


「もしもし~、白河です~」


「ああ、御手洗だ。こちらは粗方片付いた。しかし、原因がまだ調査中だ。白河、どうせお前がいることだ。監視カメラでも眺めていたんだろ?」


色々手解きなど受けている間に御手洗の良子たちの呼称が呼び捨てに変わっていた。御手洗の指摘に良子はとぼけることにした。


「いや~・・・まさか~・・・」


御手洗は電話口で少し笑った。


「っくっく・・・お前のIPアドレス等を教えてもらっていて良かったぞ。公安の下に渋谷のカメラにハッキングの疑いがあると連絡があった。しかも複数だった。そのうち1件はお前だってわかった。すぐさまそれを捜査対象から外すようにと命令を出したんだよ」


良子は半笑いだった。自身の背筋に汗が流れ落ちていた。


「・・・バレてました?」


「当然だ。高々、高校生のクラッカーに対応できない警察だと思ったか?」


「精進します~・・・」


良子は自分の技術を過信していた。プロ並みの技術力を持つ良子だが、プロは世の中にありふれている。自分より上がゴロゴロいる訳だ。


御手洗は渋谷の件について、話始めた。


「さて、粗方片付いて気が付いたのだが、バグアプリ感染者とドラッグ中毒者の2タイプが互いに争っていた。そして、カメラハックがお前ら以外で複数件あった。そのうちの1つが本命なんだろうが、どれも追跡を困難にするような中継の中継でカメラにアクセスしていたようだ・・・」


良子はその話を聞いて、後悔していた。


「あら~、そうか。リアルタイムで彼らも監視していたんだ。互いの駒を動かすために・・・。なら各カメラのハックされたアドレスを追えば良かったな~」


御手洗が良子のぼやきにフォローした。


「まあ、我々は既に追跡捜査に入っていたが、落ち着いた今でさえ、まだ解析できてない。・・・そうか、お前らはカメラでこの事件を起こした犯人がまるでチェスの駒のように操っていたと言いたいのだな」


「そうですね~。リアルタイムで見ていてそう思いました。やはり、アプリ感染者の動きですよね~。若干統制が取れていると思います~」


御手洗は良子の話に頷いた。


「そうだな。ドラッグ中毒者の輩は完全に暴動のような動きを見せていたが、それを妨げるかのような動きをアプリ感染者が過剰とも言える暴力で抵抗していたな・・・」


電話をしている最中、御手洗の下へある報告が届いていた。御手洗はそれを良子へ伝えた。


「白河。部下からの報告だが、ヒカリエのJK観光案内のサーバーを公安の管理下に一時的する決定がされた」


「へ~、それはそれは。迅速な対応で」


「お前も知っていたのだろ?」


良子は御手洗の既知だという質問に素直に肯定した。


「ええ、もちろんです~」


「これで、バグアプリについては終息するだろう。後はバグテロリストの確保とドラッグの出所だな。その辺の見解はお前たちはどうなんだ?こちらは動き出したばかりで余り情報がないんでね」


良子は御手洗に調査中の内容について、事細かに伝えた。

御手洗は少し考え込んでから、良子に伝えた。


「・・・成程な。ドラッグメーカーを追う方が良さそうだ。実害としては今回は3年前の事を引きずってきている。その大元がバグテロリストの目標ならば、社会的にもドラッグ野郎の方を仕留めることが先決だ。その流れでテロリストが挙げられれば一挙両得だな」


「ええ。そう思います~」


「私らよりもお前たちの方が先に辿り着く恐れもある。警戒を怠らぬようにな。一旦渋谷を制圧したが、ずっとは無理だ。街の営業に差し支える。そうなればいたちごっこだ。その前に迅速なる解決を目指すとしよう」


そう言って、御手洗は電話を切った。良子は「ふう」と一息ついて、店に戻っていった。


瑠美と皐は変わらず画面と格闘していた。良子が席に着くと、御手洗との会話を2人に伝えた。

皐は少し頷き、良子へ伝えた。


「御手洗さんの言うことを是とする。バグテロリストの警告と暗躍はひとえにこのドラッグが原因だ。このドラッグ騒動がなければ、起こることもなかった」


良子も「そうだね~」と同意した。瑠美は調べている中で、単純に知っている人たちの動向のみを追っていた。すると、不可解な点に気が付いた。


「ねえ、さっちゃん、お良。これを見てもらえない?」


瑠美が提示したのは<ピースブリッジ>の前の映像だった。

ピースブリッジ自体も外国人との融和に努めてはいるが、JK案内とは違って、率先しての行動はゴミ拾いや商店街の抱えている外国人問題の課題解決の手伝いであった。


実は渋谷には他にも外国人相手の紹介場で有名なところがある。そこの方が外国人にとっても認知されている。一方のピースブリッジは外国人向けの役立つような宣伝はしてはいない。外国人への案内については受け身の姿勢であった。


そんなピースブリッジに訪れる外国人が少なからずとも居た。気になった瑠美は時間軸や日にち軸を変えて調査していた。


瑠美の勘は2人にも的を得ているという感想を与えていた。


「これは、不思議だな。ピースブリッジはそれ程案内するような拠点でもなかった。事務所のような造りだからな」


「そうだね~。瑠美のチョイスしたものに全て同じ外国人が数人頻繁に出入りしていることがわかるね~」


「うん、この映像だと拠点に入っていく映像だけ。果たして誰に会いに来ているのかな?」


瑠美の質問に皐が断言した。


「当人たちに聞きに行くのが一番だろう。大倉さんかマリアさんだろう。それ以外に居れば、また紹介してもらえれば良いさ」


良子が不安そうに皐に聞いた。


「でも~、もしそこが当たりなら?」


皐は笑い、言い放った。


「それならば、そこで解決だ。尚手っ取り早い。上等だ」


瑠美も皐の意見に賛同した。良子は一つメールを御手洗に送った。


<御手洗さん。ピースブリッジというNPOに向かいます。もしかしたら当たりかもしれません>


そして3人は勘定を済ませ、一路ピースブリッジに向かった。

時は既に西日を射していた。


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