第11話 あるギャルNPOの活動

「3年前・・・私のチームがまだ東京を抑えきれていなかったとき、渋谷で騒がしい奴らがいると情報を得た。まあ、粋の良いのはどこにでもいるから、何事もなければ関わる気はなかったのだが・・・」


「何かがあったわけですね」


皐が電話口で榊に尋ねた。


「ああ。私のチームではご法度である薬物にそいつらは手を出していた。不良の領分で犯罪に手に染めてはならない。最初は外国人チームとギャルのチームだった。しかしその誘惑はあっという間に渋谷の不良たちを飲み込んでいった」


榊は一つ間を置いてから話し続けた。


「うちの兵隊をやったが、返り討ちにあった。次いで親衛隊を派遣して五分・・・。埒が明かないと思い、私が出向いて行った。私が着いた渋谷の街は酷いもんだった。昼間からラリった奴らがセンター街周辺を占拠していた。その周辺通るもの全てに迷惑を掛ける。それが徐々に渋谷駅の方まで伸びてきていた」


傍にいた良子はバッグからイヤホンを3つ取り出した。そしてタブレットの自作機能を使い、榊との通話の受話のみをイヤホンで受け取れるように拡張させた。それを2人に渡した。


「これ~、耳につけて~」


瑠美、皐共にイヤホンを付けると、榊の話す声が聞こえた。


「私はすぐさまセンター街の出入り口を封鎖させた。それを見た奴らは逆上し、私たちに襲い掛かってきた。量が量故、警察も後手に回っていた。私はすぐさま制圧を試みた。しかし、奴らの凶暴性が異常だった。喧嘩じゃない、暴動だった。そのうちセンター街に火の手が上がり、消防車が出動した」


「消防車!」


瑠美が声を上げた。


「我々のチーム、奴らも含め、多数の補導者、逮捕者が出た。一般人の中でも負傷して救急搬送されるものも出た。あのF市の次いでの大失態だった。既に後にも引けない状況だった。私としても一定の成果を目指すことにした。それは元凶を潰すことだった」


「元凶・・・」


良子が呟く。


「そのチームの頭は屈強な外国人だった。アーミー崩れなのかも知れないな。戦ってみたからわかったが、それにドラッグドーピングも入り、いよいよ苦戦を強いられた。当時サシで勝てなかった戦はあの時だけだ。分の悪さに親衛隊のジェシカと圭子が加勢してくれたおかげで奴を潰すことに成功した」


「そうですか・・・そんなことが・・・」


皐が相槌を打った。これで話が終わりかと思ったが、榊はさらに続けた。


「ここからが私の不始末の極みだ。ギャルたちは一気に四散していったのはいいが、一緒に逃げた男がいた。後から締め上げて聞き出した話だが、そいつが元凶だった」


「!」


3人共驚いた。元凶が他にいたことに。榊の話は続いた。


「そいつがドラッグメーカーだった。名も知らない奴が渋谷の街を混沌に陥れようとしていた。その所在は今でも分からん。目的もだ。ただ・・・」


「ただ?」


皐が聞き返した。


「ドラッグを扱う上で困らない奴ということだ。しっかりとした入手ルートがある奴、ノウハウがな。それだけは察しがついた」


その話から良子は何かを思い出し、タブレットで高速検索していた。

その様子に瑠美が良子に尋ねた。


「お良、何か気になったの?」


「うん~。最近見たニュースがね~・・・ほら、これ!」


そう言ってある記事を2人に見せた。その様子を電話口の榊にも勘で理解していた。


「なんだ、傍にいるのか2人とも」


その問いかけに皐は答えた。


「ええ、申し訳ありません榊さん。良子のツールで先ほどの話を2人にも聞かせていました」


「いや、大丈夫だ。おおよそ何かまた変な事件に首を突っ込んでいるんだろう」


「左様です」


瑠美がその記事を声に出して読み上げていた。


「え~、大手製薬会社3社が実験中の新薬認可を求め、精製競争激化。どの製薬も商品も類似品で先に認可を取る会社の利益が数年のシェアを牛耳る程と・・・なるほどねえ。会社の威信がかかるね」


その声を通話中の榊に遠くながらも聞こえていた。


「そうだな。その記事は私も新聞で目にしたことがあった。成程、製薬会社の人間か・・・着眼点としては良さそうだな」


榊がそう褒めると良子は「えへへ~」と照れていた。

皐が榊にお礼を言っていた。


「有難うございます。とても有力な情報でした」


「そうか、何か助けがある時には再び連絡をしてくるといい。ましてや<ウィザード>絡みになったら尚更だ」


「そうですね。その事態の時には連絡します」


「ああ、じゃあな」


榊は電話を切った。皐はため息を付いて、イヤホンを良子に返し、思考に入った。

瑠美もイヤホンを良子に返した。良子は追加でそれ関連の情報を精査していた。


「ね~、瑠美、さっちゃん。この未認可医薬品の輸入も気になる所だね~」


「未承認?」


瑠美が反応して答えた。良子が頷いた。


「う~ん。厚生省で認可受けていない医薬品~。良し悪しあれど~、健康被害などで~、色々な問題あるみたい~」


皐がその話に重ねて言ってきた。


「ああ、近頃は軟弱な考え方が流布して、痩せたいだの、綺麗になりたいだの、様々な誘惑で自滅しているからな。この薬の欠点はやはり国に認可されていないていうところだな。健康保険適用外は自己責任だからな」


瑠美が2人の話を聞いて、納得していた。


「なるほどね。国が取り締まれないで国が保護できない薬かあ。・・・う~ん、危ないね」


瑠美は何度も頷いていた。そして、再び3人は渋谷駅に向かって歩き始めた。

その人混みの中、前方より俯き加減で瑠美達に近づいてくる3人の男性がいた。


その嫌な気配に皐がいち早く気が付いた。


「(瑠美、お良・・・例のアプリを準備しておけ・・・)」


囁きながらも緊迫した皐の声が瑠美と良子に届いていた。

2人は<例のアプリ>という単語がこれから起こる面倒事を示唆しているものだと感じた。


その3人は日本人の高校生だった。ただ3人とも揃って俯いて真っすぐこちらを目指していた。

その距離が至近になったとき、3人は瑠美達に襲い掛かってきた。


「うがあーっ!」


人の声とは思えなかった。周囲が驚き、その3人を見た。瑠美と良子はアプリを起動し、その高校生たちの動きに機先して避け切り、渋谷駅へと走り急いでいった。


皐も1人に当て身をして、地面に崩れ落ちるところを見た。その後急ぎ、瑠美たちの後を追って行った。


その様子を物陰で見ていた者がいた。


「(・・・彼女らは危険だ。あらゆる意味で・・・。これで諦めるかはわからないが、警告にはなったはずだ・・・)」


その人物はそう思い、センター街の中へ消えていった。



・・・次の日の夕方・・・



大倉の紹介で、美倉と会うことができた。3人は茶髪でガングロなコギャル姿の美倉を見て、とても奉仕精神あるものとはギャップがあると感じていた。


さておき、瑠美が美倉に自己紹介をした。


「初めまして、私は竜宮司 留美。松本さんのクラスメートです」


次いで、皐、良子と続いた。


「私は財部 皐だ」


「白河 良子といいま~す」


それに美倉が答えた。


「チカのクラスメートか~。あたしは美倉 咲子。サコとでも呼んで~。よろしゅう」


美倉は1人ずつ握手していった。


「よし、これであたしらも友達だね!」


美倉は満面な笑みを浮かべた。そのテンションについていけたのは瑠美だけだった。


「うん!私たち友達だよ!」


皐は一つ咳払いをすると、美倉に今日の活動について尋ねた。


「美倉さん」


「サコでいいって!」


「美倉さん・・・。今日はどんな活動の予定ですか?」


「んもう。ノリがわる~い。今日はね~。コレ!」


そう言って背負っていたリュックの中から、軍手と鋏み(はさみ)と大きなビニール袋が出てきた。


「これでセンター街のゴミ拾いだよ」


皐は拍子抜けした。良子は感心していた。


「へえ~。ゴミ拾いなんて、偉いね~」


「そうでしょ!この渋谷の街を綺麗にしてさ~。私たちも遊ぶに気持ちよく遊びたいじゃん!」


そう美倉が言うと、リュックの中から3人分の掃除用具が出てきた。しかしながら何故そのリュックのサイズからそれだけ出てきたのかが謎だった。


「・・・どうやって収納していたんだ・・・」


皐がその疑問にいち早く気が付いた。瑠美と良子は喜んで借りた。


「うん。私たちも手伝うよ」


「ゴミ拾いなんて滅多にやらないからね~」


「そうでしょ!大ちゃんから3人来るって聞いていたから、余分に持って来たんだ」


瑠美が「大ちゃん?」と聞き返すと、美倉が説明した。


「大倉 大輔だから大ちゃん」


ごく単純な理由だった。

皐も掃除用具を受け取り、この際だから掃除しながら渋谷の状況を把握しようと考えた。


道往くひとたち、老若男女、様々な人種が渋谷には居た。それぞれ色々な付き合いの中、楽しんで渋谷を満喫している様子を皐はゴミを拾いながら見て取れた。


そんな人混みの中で、1人だけ独特な雰囲気を醸し出す女性がいた。その女性を美倉は知っていた。


「あー!しずか~」


美倉が手を振ると、その女性は気付き、少し手を挙げた。

美倉がその女性に近付いて行ったので、3人は後を追った。


「サコか。またゴミ拾いか。善行を積んで、懺悔したいことでもあるのか?」


「え~、そんなことないよ。もっとシンプルなことしか、あたし考えないから。しずかだってボランティア活動してるじゃない?」


「私は・・・ただ道標としてここにいるだけだよ。人を導くだけ・・・」


「ぶーん。よくわからん。けど、しずかは色々人の手助けしてるもんね~」


その女性は綺麗な黒い長髪でモデル並の身長の持ち主。姿だけなら一時流行った森ガールのような風体だった。3人は<しずか>と呼ばれた女性に大体察しが付いていた。その女性は瑠美たちに気が付いた。


「おや?今日はお仲間が沢山いるのねサコ」


その女性は3人の前に立ち、1人ずつ眺めていた。

その視線がとても清々しく、3人にとって心地良い感じだった。


「・・・3人とも、大倉さんから話を聞いております」


その女性は懐からカードを取り出し、その場でめくっていった。


「・・・太陽・・・貴方が良子さんね」


良子は見ず知らずの女性から名前を当てられてびっくりしていた。


「え~!なんでわかったの~」


「フフフ、私のタロットは結構評判良くてね・・・。これで様々な人の道標になってきたわ。それに・・・月・・・貴方が瑠美さん」


瑠美もびっくりした。


「ひやー。凄いね。しかし、月のマークが私?」


「うん、そうなの。何故かしら。でも貴方からはそう感じる。最後は引くにしても答えは出てるわ。皐さんね」


皐は下の名前で呼ばれていることに少々違和感を感じた。


「まあ、消去法な訳だが、大倉さんから私たちの紹介があったからか名前をご存じだったみたいですね。次いでなんだが、私は何のマークでしたか?」


その女性はタロットを引いて、皐のマークを知らせた。


「騎士ですわ。高潔な精神の持ち主ですね」


女性はタロットを仕舞い、自己紹介をした。


「初めまして、私は真島 静香と言います。大倉さんの下、様々な旅人へ導く手伝いをしております」


瑠美、皐、良子、皆が真島について<不思議でおかしい女性>と感じた。

瑠美がそのことについて、質問した。


「真島さん?」


真島は手を挙げて、瑠美に伝えた。


「静香でいいわ」


「静香さん。導く手伝いとは?」


真島は目を伏せて、話し始めた。


「人は出会い、別れ。往く先々で様々な織りなす物語があります。しかしながら、それが善いことになるケースもあれば、悪いことも起きます。人をより善い方へ導く手になれればと日々活動しております」


瑠美は少々頭が混乱した。今度は皐が尋ねた。


「静香さん。なぜファーストネームにこだわるのか?それとは別に、そこまで人の導き手に固執理由とは?」


静香は今度は少し上を見上げて、答えた。


「ファーストネームは・・・おそらく海外に居た経験からでしょう。導き手につきましては、性悪説にの反証が目的です。私はその証明することが人生の命題と位置付けておりますが・・・中々、上手くいきません。人の根底が善であるような事象を果たして生を終えるまでに見ることが可能なのか?・・・不安です」


皐は真面目に考えた。性善説、性悪説。コインの表裏の立証だ。即ち同じコインな訳だから、考えるだけ不毛ではないかと思った。その心を読まれたかのように真島は皐に話し掛けてきた。


「フフフ・・・同じではないの。本性が善であるような人に出会えること。いない人を探す見つけ出したときの価値は計り知れないものよ」


皐は何か見当が有って、真島が行動取っている風な含みだったので、そこを突いてみた。


「静香さんは何か宛てがあるようだが・・・」


真島はすーっとした切れ目で皐を見つめた。


「ええ、数多くの人と巡り合えば、その確率は高まると思うの。それに私の導きがその方々の本性を垣間見る機会になるの」


皐はそれ以上は追求しなかった。独特という最初の表現から、危ない思想を持っていると認識を改めていた。良子は2人丁度揃ったところで、核心ある質問をした。


「ちょっとお聞きしたいことがありまして~、2人になんですけど~、サクッといいですか~」


「うん!いいよ」


「ええ、どうぞ・・・」


そう2人から答えをもらった良子は、タブレットで掲示板のメール騒動についての書き込みを2人に見せた。2人ともその書き込みを目で追った。真島は、


「・・・私はそのようなことはないですね。聞いたこともない」


と言い、逆に美倉は、


「コレ・・・あたしも同じような体験したことあるよ!」


と言った。その反応に瑠美たちは満足した。皐は早速美倉にメールを拝見できるか確認した。


「美倉さん、その時のメールを見ることはできるかな?」


「うん・・・嫌なメールだったよ。今時チェーンなんて。これなんだけど・・・」


美倉のスマートフォンよりメールの内容が確認とれた。大体掲示板と同じ内容だった。

良子はそのメールを転送してもらえないか尋ねた。


「サコさ~ん。可能ならば私の~タブレットに~転送大丈夫かな~?」


美倉は頷いた。そして、美倉のメールが良子のタブレット用のメールボックスに保存された。

良子はお礼を美倉に伝えた。


「ありがと~。これで~、サコさんの不安がちょっと取り除けるかもよ~」


美倉は目を輝かした。


「ホントに~!それならうれし~♪」


良子は喜ぶ美倉を放って、美倉のメールアドレスから出所を探っていた。

すると、タブレットに検索の答えが出た。


「うん~。サコさん。メールの発信元が分かったから~、サコさんへのメール着信をできないよう、プロテクト施すけどいい?」


美倉は二つ返事で良子に返した。


「うん!やっちゃってちょうだいな」


良子はあっという間に美倉の電話へのメールプロテクトを掛けた。


「はい、おしま~い。これでサコさんのスマホは~、見ず知らずのものや~、業者メールもブロックだよ~」


「え~!そんなに~。ありがと~。でも、ホントかな~」


美倉は素直に受け止めてから、一瞬我に返り、良子の技術を疑った。

一高校生身分の者が、それ程高度な技術力を持っているとは信じれなかった。


良子は悩み、周りを見回すと街の防犯カメラを見つけた。


「ん~、じゃあ、余り言わないでね~。サコさんだけに見せてあげる」


良子はタブレットを操作し始めた。美倉は「なんだろう?」と良子の行動を見ていた。

すると、美倉の目の前に良子のタブレットが出された。


「はい、コレ~」


美倉がタブレットを覗くと、タブレットを覗いている自分が映っていた。


「え・・・ええええ!」


良子は得意げに美倉の肩を指でつつき、街の防犯カメラを指差した。

美倉はそれを一目見て、再びタブレットを見た。良子は一言、


「そう言うこと~。どう?信じるかな~?」


美倉は口を真一文字にして、静かに頷いた。それを見ていた瑠美と皐はため息を吐き、

真島は手を顎に添えていた。


「・・・良子さんは芸達者でいらっしゃるのね」


真島が良子にそっと声を掛けた。良子は頭を掻いて、「いいえ~」と答えていた。

皐はふと考えた。この防犯カメラハックは意外と使えるかもしれないと。


皐は良子にそっと囁いた。


「(お良・・・後でそれを使うぞ)」


良子はわき目で同意した。皐は美倉から入手したメールサーバーについて良子へ質問した。


「で、お良よ。美倉さんのメール配信の出元は?」


良子はタブレットを再びメイン画面に戻し、ササッと作業を始めた。


「う~ん・・・ヒカリエの中のメールサーバーみたい・・・。あった!・・・ってココは!」


瑠美がタブレットに覗き込んだ。


「17階のオフィス・・・って、JK案内の事務所のサーバー!」


瑠美の反応に美倉が驚いていた。


「えー!じゃああたしは事務所に嵌められてたの!」


良子はその答えに首を振った。


「ううん。事務所が嵌められてたみたい~。このサーバーにあるバグアプリのせいだね~。多分コレ」


良子は一つのアプリをタブレットの画面に出した。それはJK案内で利用する外国人との通訳ソフトだった。良子は物凄いカスタマイズの通訳ソフトだと感心していた。


「きっと~、この通訳ソフト~、そこいらのものとは段違いの性能だよ~」


良子の話に美倉が笑みを浮かべて話し始めた。


「う~ん!このソフトでね、いろんな国のひとを相手にできるから。あたしみたいに頭の悪いひとでも朝飯前だよ~」


皐は自慢することではないと内心思った。良子は美倉の話に頷きながらも警告した。


「でも~、これが出来すぎていて、誰もバグを気にしなかったのがマズかった。このバグは利用者にマーキングして~、渋谷内で~、ある一定の条件を課したとき~、対になっているバグアプリが作動するようになっているね~」


美倉は首を傾げた。瑠美は<ある一定の条件>について、何となく予測がついていた。


「お良・・・それはあの掲示板の書き込みの話かな?」


瑠美がそう言うと、良子はこくりと頷いた。皐は一つ総括した。


「成程。これで掲示板の件についての絵が見えてきたな。バグアプリの仕業か。バグテロリストがこの渋谷に居る訳だな。そいつがJKサーバーにバグを植え付け、JKと外国人の友好関係を割こうとした」


瑠美と良子は同意した。美倉は困っていた。


「ええ~。何で、あたしたちの観光案内が、ボランティア活動が邪魔されるの~」


美倉はそう言うと、皐が回答した。


「美倉さん。貴方たちの活動と過去の渋谷の事件で何かあるのよ。やり方と効果としては、完全に鎖国時代の攘夷主義。しかし、今時そんなことを渋谷でやることが不自然だ。すると、渋谷内でそれを嫌うひと。即ち、3年前の事件との関連性が見えてくる」


美倉は更に困った。その傍で真島がクスクスと笑っていた。


「あのドラッグ騒動ですか?」


真島が答えると、皐が頷いた。


「そうです。真島さんはご存じでしたか」


「ええ、ニュースになりましたもの。渋谷では有名な、そして教訓となる事件です」


「そうです。あの薬害が今でも恐怖を抱くものがいる。それを警鐘するためにあの掲示板の書き込みに繋がっていると考えるとしっくりくる」


瑠美と良子は皐の話に納得した。そして瑠美が首を傾げた。


「でも、今回は行き過ぎた警告者ということかな?それで松本さんが怪我をするの?」


良子も瑠美の意見に同意していた。


「そうだね~。心配性な犯人なのかな~。高々、渋谷の治安維持や外国人との融和でのボランティア団体だよね~」


2人の意見を参考に皐は答えた。


「仮に、行き過ぎた行為をせざる得ないとした場合ならばどうだ?」


瑠美が皐の話に腕を組んで、考えていた。行き過ぎた警告は実は行き過ぎていなく、現在渋谷が行き過ぎた街になっている。3年前の再来が。瑠美は皐にこう返した。


「既に榊さんの仕留め損ねたドラッグメーカーが動いている。それに気が付いたバグテロリストが渋谷に警鐘していた。私たちの知らないところで、2つが牽制し合っていた訳ね」


皐は瑠美の解答に満足していた。


「そうだな。それが掲示板の答えだ。お良よ」


皐に呼ばれた良子は「は~い」と返事をした。


「美倉さんに施したワクチンは簡単に反映できるか?」


良子は笑みを浮かべて話した。


「う~ん。大丈夫だよ~。サコさん~」


良子に呼ばれた美倉は返事をした。


「は~い。何かな良子ちゃん?」


良子はタブレットを操り、美倉のメールにワクチンを乗せて送った。

美倉のスマートフォンに着信の音が鳴った。美倉は届いたワクチンアプリをどうすればよいか良子へ聞いた。


「良子ちゃん。この添付はどうすればいいのかな?」


「それをJK観光案内に拡散することで~、暴漢被害が減るかもよ~」


「分かった~。全員へ転送するね」


美倉は良子の言い分に素直に従っていた。その作業が終わると瑠美たちもそろそろ話も潮時と考えた。丁度、美倉もボランティア活動に戻ろうと3人に促して、真島に挨拶をして再びゴミ拾いに戻っていった。


真島は4人と別れた後、再びタロットを出して1枚引いていた。


「・・・審判の札・・・そろそろかしら・・・」


そう真島は呟いていた。街の人混みは今日も別れたばかりの4人の姿を既に捉えることができない程の活気であった。




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