第2章:渋谷への誘(いざな)い

第9話 あるセンター街の噂

渋谷のセンター街には様々なひとが闊歩していた。

日本人のみならず外国のひとも老若男女、皆片手にスマートフォンを持ち合わせていた。


そんな中である女子高生の団体がスマートフォンのあるメール着信で話題になっていた。


「ミカ、何それ~」


ミカと呼ばれる女子高生がメールの着信内容を傍にいる友達に見せていた。

内容は<本日17時に渋谷を出るか、または次のお友達のアドレスを貼り、返信しないと不幸が訪れます>と言う内容だった。


ミカは今時そんな脅しで個人情報を奪おうなんてと言うことで取り合うことなく、友達におかしなメールだと言う話で見せていた。


そして現在午後4時55分・・・


ミカたちは面白半分でその場で午後5時まで待つことにした。

そして、時計が午後5時を迎えた。


・・・


ミカは何も起こらないことに爆笑していた。

が、突如周りを黒人、白人、日本人問わず男性がゆっくり群がってきた。


ミカたちはその場で立ちすくんでいた。目つきが皆白目を剥いて、涎を垂らしていた。

明らかに異常だった。ミカの取り巻いていた女子高生らはその男性たちに捕まれては外へ放り投げられた。


「・・・っつ~いった~・・・」


投げられた女子高生は痛みに言葉を漏らしたが、ミカの居たところに男性が殺到して、ミカが見えなくなっていた。


「!・・ミカ~」


その女子高生は叫んだ。周辺の警官らがその異変に気が付き、その男性たちを引きはがした。するとミカと呼ばれた女子高生は無残にも破壊され息絶えていた。四肢が折られ、髪を抜かれ、眼も刳り貫かれていた。


それから渋谷ではその手のメールが来ると、その時間内に渋谷を出るか、メールを返信するようになったと言う。


その書き込みを瑠美、皐、良子は良子の家のパソコンにて眺めていた。

良子は2人に感想を求めた。


「ど~よ。コレは~」


瑠美は苦い顔で答えた。


「う~ん。嫌な事件だね。ホントならばだけど」


皐は腕を組んで、鼻息を鳴らした。


「フン。噂だろうが、まあここまで多い書き込みだと噂としても調べてみても良いかもな」


良子は二パッと明るく笑い、更に追加情報を伝えた。


「ちなみに~、今回の異常者は~、普通の力みたいだから~、前ほど苦戦はしないと思うよ~」


「ならば、私の武術も通用するってことだな」


「そうだね~。危険なのは変わりないけど、アレほどじゃないとは思うよ~」


瑠美は良子に最初の見当を尋ねた。


「で、お良。最初の当たるひとは誰になるの?」


「あ~、渋谷でしょう~。じゃあうちのクラスのこの子でいいんじゃない?」


すると、ひとりの桜明の生徒がモニターに出た。

その生徒は同じ2-Aの松本(まつもと) 千佳(ちか)だった。


「松本さんなら~、渋谷の近くに住んでいるし~、渋谷は自分の庭だと豪語もしているから~」


良子の話に2人とも頷いて、明日学校でその松本に話を聞くと言うことでその場はお開きとなった。


瑠美は先のスマートコンプレックス事件により、<ツクヨミ>の力の顕現を見せた。しかし、その後の御手洗たちの処置でもその力は眠ったままだった。何らかの発動条件が満たされないとという分析だった。


取りあえず、瑠美のスマートフォンにも<レアリスト>覚醒アプリを装備してあった。瑠美の力は強大な力を振るう<レアリスト>や感染者などを無力化できる能力ということで重宝されるだろうと期待されていた。


皐は<ウィザード>、<ピエロ>戦に置いても、耐えうる精神力があると御手洗は見ていて、この先の戦力にもなるのではと期待されていた。3人の中でも洞察力が優れていて、この3人組ではブレーンとして発揮できると目されている。


良子も皐と同じくそれなりの精神力とそれを凌駕するプログラミングの才能を買われていた。彼女の作り出した遠隔解除プログラムは警察公安が所持していた解除プログラムを凌ぐものであって、御手洗はその腕を重要視していた。


実は良子は先に手にしていたプログラムによって、スマートコンプレックスを再現に成功していた。しかし、それを2人にバレて、物自体の消去を余儀なくされた。


でもそこで良子は諦めなかった。それを部分転用して、個人単位である程度の覚醒付与をできるように作り変えていた。


ある時、それを2人に説明した。


「う~ん。流石にアレはマズかったので、今度は軽いものを作ってみたんだ」


瑠美と皐は怪訝な顔をした。その反応に良子はぶすっとした。


「あれ~、信じていない・・・」


「当然だ。あのスマートコンプレックスを再現できたものの類似品など、どんなものでも不可解だ」


「そうだよお良!」


そんな2人をお構いなしで良子は自分のスマートフォンに作ったアプリをインストールして、起動させた。すると良子のアプリは黄色く輝き、そして収まった。


「よ~し。これから説明するのは実際やってみた方が早いから。瑠美!じゃんけんしよ~」


「へ?じゃんけん」


「うん。じゃんけん。きっと勝てないから」


そう言われると瑠美は負けるものかと思い、じゃんけんを良子と始めた。

しかし、10回、20回やっても一回目にして負ける。その状況を見た皐は良子に尋ねた。


「お良よ。その類似品はお前に付与されたんだよな」


「うん、そうよ~」


「・・・動体視力と反射神経が桁違いだな」


皐の指摘に良子が驚いた。


「あれ~、やっぱりすごいねさっちゃん。見抜けた」


瑠美は皐の指摘に「どういうこと?」と良子に質問した。


「これはね~、人の動体視力と反射神経を高めるアプリなの。いつでも解除可能だし、3分で切れるようにも暗示させているの~」


「3分って・・・ウルト〇マン?」


「ハハハ~、まあそう取ってもらっても~、いいかもね~」


良子は瑠美の返しに笑った。皐は肝心なことを聞いた。


「で、お良よ。副作用は?」


「う~ん。やっぱり、多少疲れるってことかな?この潜在的な集中力を極限まで高めた状態まで持ってきている訳だからね~。あまり乱用は良くないってことだね~」


「そうか。やはりな・・・危険が伴うわけだ」


「でも~、これから私や瑠美なんかは~、さっちゃんみたいに戦えないから必要じゃない?」


皐は考えた。確かに言い分はあると。そして瑠美と良子にそのアプリを持たせることに了承した。

良子はまた笑みを浮かべた。


「良かった~。じゃあ瑠美にもインストールするね~。キチンと個人認証でしか起動しないようにもしてあるからね~」


そう言って、瑠美にもアプリをインストールした。

その後、流石に御手洗に知らせないとと言う皐の提案でこのアプリを紹介したところ、


「ふむ。君の作品はいろいろ興味深いものが多いな」


と言い、公安にもそのアプリの仮採用されていた。


今のところ、アプリについてはあの極悪な<スマートコンプレックス>と公安の所持する<レアリスト>覚醒アプリ、<スマートコンプレックス>を始めとするアプリ解除プログラム(良子の遠隔操作解除も含める)、そして良子発案の限定的覚醒アプリ。


しかしながらアプリ解除プログラムについては、昨今のPCのウィルス対策と同様に鼬ごっことなっている。簡易的な似たようなバグアプリならば対応可能だが、いざ新種となると時間を要することになる。


御手洗は解析班を設けては、新種を発見し持ち込んでワクチンを開発していた。良子にもその問題をリアルタイムに解決できる腕を持っているということで、3人組を活動させるメリットを感じていた。


次の日の休み時間、3人は松本と話す機会を得ることができた。

松本は茶髪のセミロングで瑠美と同じく溌剌とした可愛い女子であった。

瑠美が渋谷の噂について話すと怪訝な顔をし始めた。


「あー、アレね。全く、私の近所で何でそんな噂がたつのかしら・・・」


「でもさ、これだけ嫌な噂が立っているのを放っても置けないんじゃないの?松本さんの庭でしょ」


松本は頷いた。


「そうだね。渋谷で私はNPOの仕事を手伝っているからね」


良子が感心していた。


「へえ~。ボランティアしているんだね~。偉い!」


皐も同調した。


「真に。して差し支えなければ、一体どのような活動を?」


「ええ。昨今治安があんまり良くなかったから。そして色々な人種も入り込んで、地元のひとたちもこれはマズいと思ったんでしょう。だから、渋谷の町内会と企業、自治体と連携して、渋谷の治安維持に努めよう!っとここ最近立ち上げたんだよ」


良子が手持ちのタブレットでササッと調べ上げていた。


「あ~、コレね」


良子は検索したものを松本に見せた。


「そう、それ。<ピースブリッジ>」


「ふむ平和の橋ね・・・」


「うん。正確に平和の架け橋。いろんな人種とも街と融合して、より良い街作りを目指せればという感じかな。もはや鎖国風土なんてペリーの時代よりも更に無理になってきているからね。ほらあの陸上の高校生やドラフト指名の人だって、アレがこれからの日本は標準になっていくんじゃないかな」


瑠美は松本に言う話に頷いた。


「そうだね。アメリカの様に人種のサラダボウルが真の国の形なんだろうね」


皐も瑠美の意見に同意した。


「そうだな。もはや<和>の心も日本人よりも別の国の人たちの方が強く持つ印象が強い。全く残念なことだ」


皐は日本人が日本人らしさを失い始めていることに侘しさを覚えていた。

その様子に良子が皐に語り掛けた。


「そうだね~。最近さっちゃんの家に遊びに行ったとき、師範のおじいちゃんに会ったけど、門下生に海外のひとが増えていると聞いたもの」


皐は良子の感想に「そうだな」と答えたが、何故良子が皐の家に、しかも祖父に会いに行ったのか疑問に思った。


「時に、お良。何故祖父に?」


「あ~、実は最近古書に凝っていて~。神保町に行ったときに~、おじいちゃんに偶然あったんだ~。そしたら、色々紹介してくれるって。それで~、借りていた本を返しにいったんだよ~」


皐は良子の新たな趣味に驚いた。


「ほう、お良はコンピューター一辺倒で<和>の心などないと思っていだぞ」


「へ~、心外だな~。こう見えても和風です~」


瑠美は良子の反発とその意外性に笑っていた。


「ハハハ・・・お良は確かに日本人だよね」


良子は瑠美の反応に更に捻くれた。


「・・・そんなに笑わないでもいいじゃない~・・・」


松本もそんな3人のやり取りに爆笑していた。


「ッツ・・・ハッハッハッハ・・・・」


3人共松本の笑いに少々紅潮して、皐は話を戻した。


「それで、松本さん。そのNPOには何か噂は持ち込まれたりしないのかな?」


松本は複雑そうな顔をして、ゆっくり話し始めた。


「実は・・・あの噂のような被害にあったコがいて、同じスタッフなんだけど・・・。その手のメールが届いて、ちょうどそのコは渋谷の外れの方で仕事中だったから、隣の区まで走って逃げたんだけど、知らない白人男性が追ってきたらしいの」


良子が不思議に思った。


「掲示板でも外国人ってあったね~?何かあるのかな~」


瑠美も首を傾げた。


「さあ~」


皐は「話の腰を折ってすまない」と言って、松本に話の続きを勧めた。


「ええ、隣の区に入った途端、その白人男性はふっと我に返ったかのようにその場をきょろきょろして、頭を掻きながら渋谷方面へ戻っていったみたいなの。それからそのコ渋谷の拠点に戻って来て、私にその話をしてきたの。噂だと思っていたから、その話も冗談だと思って聞いていたんだ。でも、彼女真剣だったから、困っちゃってさ・・・」


松本の話から、3人は少し話をした。


「松本さんに頼んで、そのNPO紹介してもらおうか」


瑠美がそう話すと、2人とも同意した。


「そうだな。今のところは取りあえず怪しいところへ飛び込んでいくしかないな」


「うん~。それが良いと思う~」


3人は頷いて、瑠美が松本に頼み込んだ。


「松本さん。今度の出勤にでも私たち見学に行っても良いかな?」


松本は快く了承した。


「うん、いいよ。色々活動を発信するのも一つの目的だからね」


そして松本と3人は日取りを決めて、その日に渋谷で待ち合わすことになった。




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