第8話 ある事件のフィナーレ
瑠美は一通りの事情を大分にし終えた。
大分は瑠美の聞いた話を受け入れ、床に倒れ気絶した3名の桜明の生徒を軽々と担ぎ上げ、瑠美をエレベーターへ促した。
「ここは危ないってことだな。なるべく電波の遠い、屋上へ避難しよう」
瑠美は大分の言うことに従った。
この辺もまだ感染者がいる可能性がある。また追跡されてしまうと厄介と思ったからだ。
しかし瑠美には引っかかることがあった。
それをエレベーターに乗りながら考えていた。
エレベーターが大学の屋上に着くと、瑠美と大分は屋上に出た。
そこで瑠美は引っかかっていたことに対しての違和感を理解した。
「(私、スマホないのに何故あの生徒たちが追跡してきたの・・・)」
その答えに気が付いたとき、瑠美の体がぐっと金縛りのように動けなくなった。
「ああ・・・」
瑠美は遠くで介抱していると思われる大分を見ていた。
その大分は生徒たちを屋上の隅に寄せて、スマートフォンである操作をしていた。
その操作について、瑠美に説明した。
「私が君の担任であったのが何よりの幸運だったよ。彼女らは私が君を追跡させるように仕向けた。これで彼女らの感染は解けた。だから安心したまえ竜宮司」
瑠美は大分が話したことについて混乱していた。私に追跡させた?感染を解いた?一体何のこと・・・
瑠美は使える脳をフル活用して、その答えを導き出した。
「先生・・・貴方がこの事件を・・・」
そう瑠美が言うと、大分は吹き出した。
「・・・っつ、ハハハ・・・私はただ彼に提供しただけだよ。彼がアプリを使ってみたいというからね。一般的な諸悪の根源は私だと思うが、実際の実行者はそこにいる者だよ」
そう言うと、瑠美の後ろから小石川が瑠美の肩に手を掛けた。
「こんばんわ、竜宮司くん。君が探し求めていた<レアリスト>か・・・」
「えっ・・・カツラ・・・」
瑠美は咄嗟に小石川の学校で親しまれている愛称を言った。それに小石川は苦い顔をした。
「酷いなあ。髪が抜けたのは本意じゃないんだが」
そのやり取りにも大分は笑っていた。そして笑いを収めると、大分と小石川で話し合っていた。
「・・・まあ、<ピエロ>さん。結果は上々のようで」
「そうだね。君のアプリを有効に使わせてもらった。良し悪しどうとあれデータが取れた。これで関西に戻ったときに色々遊べそうだよ」
「そうか、それは何よりだ。私の期待した成果もこの通りだ。この竜宮司がそうだ」
「ああ、<レアリスト>の開発が企業単位ではもうご法度だからね。このアプリでその<レアリスト>探しが簡単にできるようになったわけだな。この竜宮司が感染された携帯を持っているにも関わらず、症状が出ていない。決定的だな」
「ああ、あのF市の偶然の産物がこの通り、結実となった訳だ。これでこのアプリの有用性が君に理解してもらえた訳だ。今までベータ版だったが、この正規アプリを君にもあげよう」
「ああ、有難う。ベータ版は感染携帯と適応する所有者が一対一だったからな。」
「ふむ、その点は正規版もあまり差がないから。後は自分で仕上げてくれ」
「了解だ。フフフ・・・」
瑠美は意味が分からなかった。<レアリスト>探し?アプリ活用?事件の発端がそれ?と益々混乱した。
大分は瑠美に近寄り、一つ交渉を求めた。
「どうだ、竜宮司くん。君も私と共に歩まないか?この世界は御覧の通り腐敗している。クリーンにして我々が正しい秩序を作り直そうと思っている」
瑠美は大分の誘いを拒絶した。
「じょ・・・冗談じゃないわ!あんな事が世界単位で起こそうなんて・・・狂気の沙汰だわ!」
瑠美の気持ちを確認した大分はため息を付いた。
「仕方ない。美央は性格的に付き合いそうになかったから、あの場に捨て置いていたからな。君ならと思ったが、まだ美央ほど育ち切っていない分洗脳のし甲斐がありそうだ」
そう言うと、瑠美の頭の上に手を置いた。その瞬間、瑠美の意識が飛び、その場で倒れ込んだ。
「人を正確にコントロールする上では私でも時間がかかる。まあ気長に待とう」
大分はその場で腕を組み、意識を集中させていた。その様子を見ていた小石川は大分に別れを告げた。
「それじゃあな<ウィザード>。私はこれで失礼するよ。また面白いことがあったら教えてもらいたい」
小石川はエレベーターに乗り、東京から姿を消した。
・・・
御手洗は部下からの連絡を受け、近くの大学病院にて警備員の死亡を確認したという情報を受けていた。瑠美と逸れた場所に近くだと考え、車をそこへ向かわせた。
その車内で御手洗はある所へ連絡していた。
それは榊もスマートフォンであった。
「これから助っ人を呼ぶ。あの<ウィザード>を捕らえるには応援が必要だからな」
すると、その電話に応答相手が出た。
「御手洗か・・・どうした」
「榊か、<ウィザード>だ」
御手洗が榊と言う名前を発したことに皐と良子は反応した。
御手洗がそのテロリストの異名を榊に伝えると榊は一言だけ述べた。
「どこに行けばいい」
「お茶の水駅のすぐ隣の大学病院だ」
「わかった」
榊とのやり取りがそれで終わった。当然のように御手洗に皐が質問をした。
「榊は、あの榊 美央ですか?」
「そうだ。君らは彼女を知っているのかい?」
「ええ、偉大な畏怖する先輩です」
御手洗はクスッと笑った。
「そうか。いい後輩を持ったな榊も」
「何故、先輩がこの件に参加を?」
「言ったろ。助っ人だ。彼女は<レアリスト>だ」
良子が「へえ~」と感想を漏らしていた。皐も一言「そうだったのか」と言った。
・・・
御手洗達が目的地に着くと、普段着を纏った榊とそのメイドスタッフが待っていた。
榊は御手洗を見ると近づき、現状の把握を求めた。
「御手洗。どうなっている」
「ああ、既に公安がこの大学と病院を取り囲んでいる。目標は屋上にいると確認も取れている」
「そうか。あの叔父貴。今日こそ仕留める」
榊は<ウィザード>を叔父と呼んでいた。それに皐と良子が驚いた。
「榊さん。例のテロリストが叔父さんなんですか?」
皐がそう榊に尋ねると、榊は皐に視線を睨みつけた。その眼差しに皐は圧倒された。
「そうだ。私の叔父だ。榊(さかき) 真吾(しんご)、アメリカの特殊部隊で各地の内戦やテロリズムの制圧に参加した戦場のプロフェッショナルだ。奴はあの人体実験に参加して恐ろしい力を手にした。そして彼の心は彼の人生経験に伴い、実験の作用と共に腐りきってしまった」
榊がそう言い終わると、再び御手洗と話し始めた。
「私らはすぐにでも突入するぞ。私の仲間の一人が既に屋上に忍ばせている。それが瑠美の存在を確認している」
皐と良子が衝撃を受けた。瑠美がテロリストに捕まっている。2人とも居た堪れなくなっていた。
「私たちも行きます!」
「うん。私のこのアプリも役立つと思います~」
2人は御手洗に突入への参加を直訴した。榊はそれを拒んだ。
「だめだ。死ぬかもしれんぞ。連れてはいけない」
しかし今回は2人共食い下がった。
「冗談じゃない!私の親友が捕まっているんですよ。ここで引き下がって後悔するより、行って後悔した方がマシだ!」
「そうですよ~。死ぬのは怖いけど、友達を助けられないで、その友達が死ぬことになったら~、私は悔やみきれませ~ん」
2人とも涙ぐみながら榊に訴えた。榊もその訴えに沈痛な面持ちをした。
榊もあのF市のことがあった。あの時駆け付けたから今がある。
それがなければ、決して知らなかったことだった。
それを知ることができたことは、榊にとって救いだった。
あの時の自分がいたから、こうして知人・友人を守ることができる。
彼女たちにも後悔をしないように導いてやることも先輩として必要があると考えた。
「わかった。いいか御手洗?」
榊は2人を連れていくことに決めた。その同意を御手洗に求めた。
「ああ、この2人は私らの目の届くところに居た方がよい。一緒に連れていくとしよう」
こうして、御手洗と榊、皐、良子とメイドスタッフ、公安の部隊と共に、大学棟からエレベーターに乗り込み、屋上へ向かった。
・・・
屋上に着いた一向は倒れた瑠美と隅に居る桜明の生徒と中央立ち尽くす大分を見つけた。
大分は御手洗達にすぐさま包囲され、部隊の持つ銃を全て大分に向けた。
皐と良子は倒れた瑠美に近付こうにも傍にいる大分のせいで近付くことができなかった。
その上、担任の大分が何故そこに立っていて、何故銃を向けられてるかに困惑していた。
「なんで・・・先生が・・・」
「う~ん、どうしてここに大分先生が?」
皐と良子がそう言うと、御手洗と榊が顔を顰めた。
「まさか、教え子の先生をしていたとはな」
御手洗が吐き捨てるように言った。榊も同じように言っていた。
「ああ、私の後輩がこんなテロリストに教鞭を振るわされていると思うと身の毛も弥立つ!」
大分はクスクスと笑い出し、自身の手を前に翳した。
その瞬間全ての銃が下に落下し、隊員たちもその場に崩れ落ちた。
大分はその状況を御手洗達に説明をした。
「私は<ピエロ>ほどマインドコントロールは上手くなくてね・・・この屋上くらいの周囲ならば人の脳に刺激して無力化はできる。しかし、それしかできない」
御手洗と榊はスマートフォンを取り出し、起動させて、自身に力を付与した。
それについても大分は語った。
「君らはもっと無知だ。スマートフォンの<レアリスト>覚醒プログラムを使わないと、内なる力を解放できないんだからな」
大分の余裕に榊が噛みついた。
「黙れ!榊の面汚しが!」
「ほう、美央か。少しは成長したのか叔父さんが確認してあげよう」
そう言うと、大分の手が榊に向けられた。榊の髪が風か何かで一瞬ふわっとなった。しかし榊は変わらなかった。それを見た大分は感心した。
「うん、成長したみたいだね。流石出来の良い姪だ」
「ふざけるなあ!」
榊は大分に疾風の速さで突進していった。
榊の打撃、蹴り技等、全てがクリーンヒットした。大分は後方に吹っ飛んでいった。
その動きを見た皐は榊の戦闘力に脱帽した。良子は驚き感心していた。
大分は口元の滲んだ血を袖で拭き取り、ゆっくりと手を付きながら立ち上がった。
「・・・っつ、痛いじゃないか美央。私の影響下でその動きは見事だな」
「当然だ。あの時の屈辱を今ここで晴らす!」
そして榊はとどめの一撃を大分の胸に当てた。しかし大分はビクともしなかった。
大分は榊の腕を掴んだ。
「ふう・・・私の能力を使わなければならないとはな。血筋なのか君のレアも私と同じ系統らしい」
すると、いとも容易く榊の腕をへし折り、御手洗の居るところまで榊を投げ飛ばした。
榊は苦痛の悲鳴を上げ、その傍にメイドたちが駆け寄った。
御手洗はその光景に怒りを覚え、大分を睨みつけていた。
大分は気にせず、自論を展開し始めた。
「私はこの力を<スサノオ>と言っている。強化系脳波の特化だ。私は日本書紀と古事記が好きでね。そこから拝借した。その他にもいろいろ力の探求している。そして私の求めるレアは<アマテラス>というものだ」
御手洗は臨戦態勢を整えながらも、大分の質問に反応した。
「<アマテラス>だと?」
「そうだ。触れずとも間接的に制圧できる、人の脳をコントロールできる能力の頂点だ。それを探す旅をしている。私の能力では一気に世界崩壊に導くのは極めて難しい。現に君たちにこう捕捉されているわけだからな」
そう言うと大分は一瞬で御手洗に詰め寄った。その神速に御手洗は成す術なく大分を眼前に見ていた。
「そのレアはどこから生まれるかわからない。だからアプリで探している。とりあえずそこの竜宮司を調べるとしよう」
「ふざけるなあ!」
御手洗は大分に一撃を加えようとしたが、御手洗の振り抜いた一撃を交わし、御手洗の背後より掌底で前方へ突き飛ばした。
「ぐあっ・・・」
御手洗は地面に叩きつけられたが、手で支えながらも立ち上がろうとしていた。
大分はそんな御手洗に語り掛けた。
「君のレアも恐らく<アマテラス>に通ずるものだろうが。私の求めるものとは違うようだ。こう名前に冠付くものは私みたいな圧倒的才能があってこそだからな」
「・・・っつこの・・・テロリストめが・・・・」
大分は御手洗の下へ歩み寄って、御手洗の頭を髪を掴み持ち上げた。
「あ・・あが・・・」
「さて、君との追いかけっこもそろそろ飽きたな。ここで終わりにしようか」
・・・
瑠美は暗闇の中にいた。夢の続きかと瑠美は思った。
瑠美の目の前に瑠美が立っていた。
「・・・貴方は元々暗い子。貴方は元々何もできない子。どうしようもないからみんなが手をさしのべてくれたの。周りのひとはみんな貴方にとって悪い人、都合のよい人たち・・・」
瑠美はカッとして否定した。
「違う!みんな・・・みんなそんなひとじゃない!私みたいなダメなのも見捨てず助けてくれる。いいひとたちよ」
「クスクス・・・そう、分かっているじゃない。ひとは皆貴方を蔑んでいるわ。そうじゃないと助け甲斐がないもの。貴方の存在意義は劣等感を持ち続けること。小学生の頃の貴方が本当の私」
「何を・・・言いたいの」
もう一人の瑠美は静かに笑う。
「クスクス・・・貴方はただ忘れているだけ。いえ、忘れさせられただけ。でも思い出すことはできるわ」
瑠美は困惑した。何を忘れたのか全く分からなく理解も出来ない。もう一人の瑠美が話続けた。
「私は貴方、それも本質の私。さあ続きを見せてあげる」
すると目の前が真っ白くなって、気が付くとあの五十鈴川になっていた。
目の前で小さな瑠美がいた。
「クスクス・・・ねえ瑠美ちゃん?ここで何が起きたか知ってる?」
瑠美は震え始めていた。すると血塗れの瑠美が現れた。
「うう・・・瑠美ちゃん・・・ごめんね・・・ちょっと助けを呼んでもらえる・・・」
瑠美は起きた出来事に咄嗟の判断ができなかった。
しかし自然と言葉が出てきた。
「ご・・・ごめん・・・ごめんなさい!」
瑠美はしゃがみ込んで繰り返し謝っていた。自分が見捨てた。このコを・・・。
すると血塗れの瑠美がため息を付いた。
「ふう・・・貴方は・・・ただ受け入れないだけ。事実は違うの」
血塗れの瑠美はパチンと指を鳴らすと、場面は増水した五十鈴川になった。
「あ・・・」
瑠美は増水した川の中で、血塗れの瑠美をおぶっていた。
元々水位のない川で増水しても瑠美の足より上に出る程度だった。
しかしながら増水した川は足が埋まるだけでも足を取られる。
瑠美は泣きながらも力の限り川を歩いていた。
血塗れの瑠美は、
「・・・ありがと」
と一言言って気を失った。
「あ・・・」
瑠美は血塗れの瑠美が意識を失った事に何かタガが外れた。
・・・
気が付いた時、周囲はどこか分からない手術室に近い部屋の中だった。
体の自由が利かない。話し声だけは辛うじて聞こえた。
「・・・あの・・・レベルは・・・良好で・・・子は・・・相対性・・」
「ですね。・・・脳・・・波長が・・・混同し・・・レパシー・・・」
何を話をしているのと瑠美は思ったが、直ぐ眠りに落ちた。
再び暗闇の中。瑠美は目の前の瑠美と対峙していた。
目の前の瑠美が話す。
「これが1つの真実。でも全てではないわ。貴方は貴方を知らない。貴方自身が持つ力を少し起こしてあげる。でも少しよ。今はまだダメ・・・」
もう一人の瑠美は淡く青白く輝き始めた。瑠美はその光に目が眩んだ。
大分に洗脳を受けて倒れていた瑠美から温かみのある波動出て屋上を包み込んだ。
その感覚で一同瑠美を見入った。皐が叫んだ。良子は終始慌てふためいていた。
「瑠美ー!」
「あわわわ・・・瑠美~」
すると瑠美が立ちあがった。瑠美が周りを見渡した。
「さっちゃん、お良・・・榊さん・・・御手洗さん?・・・先生!」
大分は瑠美が覚醒したことに気が付いた。
大分がニヤッと笑みを浮かべ、瑠美に語り掛けた。
「竜宮司が目覚めたか。洗脳が終わったみたいだな。竜宮司、私の言うことがわかるか?」
「ん?先生、何、御手洗さんを掴んでいるわけ!・・・放しなさい!」
瑠美は力一杯大分に叫んだ。その反応に大分は戸惑いを覚えた。
「ま・・・まさか・・・私の力が及んでいない・・・」
すると、御手洗は大分に掴まれた手を力任せに解き、その場を離れた。そのことにも大分は驚いていた。
「何故、<スサノオ>の力にお前が対抗できる」
御手洗は大分の質問に対して答えた。
「さあな。お前の力が弱かったからだ。というより私も力が使えないがね」
大分はその場で腕を組んで考えていた。そして一つの結論に辿り着いた。
「そうか・・・竜宮司か・・・君は私の求める<アマテラス>ではない。むしろ一番邪魔な存在だ」
皐と良子は瑠美の傍に近寄っていた。大分が榊と御手洗にかまっていたため、瑠美と大分の間に距離ができていた。
榊が仲間に支えられて立ち上がっていた。そして榊は大分に話し投げかけた。
「フフフ・・・日本書紀か・・・叔父貴よ・・・瑠美がまさか<力の無力化>というレアものだったとはショックだっただろう。さしあたって<ツクヨミ>か?」
榊の意見に大分が同意した。
「無論。その可能性はあった。まさかここに来て<ツクヨミ>の顕現とは・・・参った」
大分は手を挙げた。そして次の瞬間大分は屋上フェンスをよじ登り、屋上の面々を見下ろした。
「また会おう。私が<アマテラス>を見つけて世界を再生する」
そう言って屋上から飛び降りた。大分はある程度落下すると、そこは<ツクヨミ>の影響範囲外となった。そこで<スサノオ>を呼び起こし、地上へ見事に着地を果たした。そして公安の包囲網を抜けて街へと消えていった。
御手洗はゆっくり立ち上がり、瑠美の下へ歩み寄った。
そして御手洗は瑠美へ協力を求めた。
「ということだ。君のレアがどうやら世界を救いそうだな。力を貸してもらえるか?」
その言葉に瑠美は二つ返事で答えた。
「もちろん!こんな事は許しません!」
それに皐と良子も頷いた。
「御手洗さん、ここまで関わったのだ。参加させてもらいたい」
「う~ん。参加します~」
御手洗はその3人の言葉に力強く頷いた。榊も仲間に支えられて、エレベーターへ向かった。その途中で瑠美に語り掛けた。
「瑠美!明日はバイトだぞ。遅れないようにな」
それを聞いた瑠美は元気に榊に手を振った。
「了解です!オーナー!」
それを聞いた榊は微笑を浮かべ、エレベーターに入っていった。
・・・後日・・・
桜明は公安の管理下に置かれた。感染した生徒たちは公安職員達により処置が施され、記憶が消去されていた。校長、教頭、担任の大分は一身の都合上での急な異動ということで片づけられた。生徒たちに不審がられたが、それも日が経つにつれて徐々に受け入れていった。
ある日、担任不在だった2-Aに新しい担任がやってきた。その姿に瑠美、皐、良子は驚いた。
無精髭も綺麗に剃られ、髪もきちんと整えた御手洗が教壇に立っていた。
「えー、後任の御手洗 聡介と言う。これからみんなと共に学校生活することとなった。よろしくな」
とりあえず、女子高は男性教諭がモテる。新任できた御手洗が注目の的となり、いなくなった先生のことはあっという間に忘れ去られた。
しかし、3人は忘れることはない。今度起こるかもしれないサイバーテロに3人は例の掲示板にて情報を集め、確度の高い事件に率先して介入していった。
今日も授業が終わり、瑠美と皐は良子の下へ近寄った。
「お良。今日はどの案件でやるかな?」
瑠美が良子に尋ねた。良子はタブレットで検索している。
「ん~、今のところ目新しい良い案件はないですね~。この間の続きをやりましょうか?」
皐は良子の意見に賛同した。
「そうだな。渋谷区で起きた不幸の手紙のようなチェーンメール事件。早く片づけないと何かとまずそうだ」
3人が取り扱っている案件の中にもバグテロリストによるものもあった。御手洗が直接持ってくることもあり、それは3人を来るべき戦いに備えての訓練とも言える已む得ない措置でもあった。
3人に御手洗や榊らが普段より様々な手解きをしていた。
もはや既に日常には戻れなく3人には酷な事情かもしれない。だが、瑠美、皐、良子は各々の持てる力を発揮し、強い意志をもってこれからも東京を守り抜いていくと誓っていた。
・・・
T川市パレスホテル1階ラウンジ内。
真吾は新聞を片手にコーヒーを嗜んでいた。すると篠原が帽子を被り清楚な装いで彼の座るテーブルへ着席した。すると給仕のスタッフが近寄ってきた。
「お飲み物は何になさいますか?」
ありがちな常套文句だった。篠原はニッコリ微笑み、
「アイスティーで、ミルク付けてね」
「承知致しました」
とやり取りを済ませ、真吾へ一枚の紙きれを差し出し語り掛けた。
「真吾さん、こちらのアドレスに・・・」
真吾は新聞を閉じ、その紙切れを受け取った。
「・・・<ライトニング>よ。今回の成果で騒がずとも調べが進められる手法へと前進した」
「そうねえ。多勢には無勢だからねえ。隠密ならばこの街も消す事は出来るけど・・・」
「F市の時は偶然の産物だった。インフレを起こさせては本来の目的である<アマテラス>の降臨は不可能だ」
「結局すぐ国に抑えられてしまったものね」
「しかしながら・・・」
真吾は深刻そうに<ライトニング>へ話続けた。
「あの<ツクヨミ>・・・。調べが必要だな。無効化のレアは存在することは考えていたが、実在したのは初めて見た。それに・・・」
「それに?」
「あの力、古(いにしえ)の力に通ずる。元々レアはあの仮説の実証、実験からの産物だからな」
<ライトニング>がゴクリと唾を飲む。話を戻して真吾はこう締めくくった。
「やはり世界を崩壊へと導くには、そして意識を統一するには瞬時に全世界の人間にアクセスできるようなレアが必要だ」
真吾はコーヒーを飲み終わると立ち上がった。
その頃篠原のアイスティーが到着した。
「先に失礼する。支払いはオレが払っておく」
そう言って真吾は去っていった。
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