第5話 ある女子生徒との逸(はぐ)れ

3人を見送って御手洗は倒れた女子高生のスマートフォンを探り、1台ずつ操作しては再起動を掛けていった。それを見ていたある女性が御手洗の背後から声を掛けた。


「先生・・・お手伝いしましょうか?」


「うわっ・・・驚いたよ祥子(しょうこ)くん。もう少し気配を出してもらわんと・・・」


「フフフ・・・先生が女子生徒のスマートフォンを探っているところを見て、変態だな~って思って。それはそれは面白いモノが見れました」


診察室で一緒だった看護師の飯倉(いいくら) 祥子(しょうこ)が御手洗の後処理を見て、両手の掌を返して「困ったなあ~」のようなリアクションをしていた。そして御手洗が処置していない女子高生のスマートフォンの処置を手伝った。


「先生はまあそんなに年下はお好みでないでしょうから、私がお手伝い致しますよ。傍から見ていたら滑稽ですのでね」


「・・・ああ、助かる。流石にこの数の生徒を私一人では色々面倒だからな・・・」


御手洗は立ち上がり、病院に車の手配の連絡を入れた。


「祥子くん、あと15分ほどで到着するそうだ」


「そうですか・・・あの彼女たちに教えたんですね」


御手洗は渋い顔をして、飯倉の質問に答えた。


「已む得まい・・・この子らに取り囲まれては力を使わらざる得ない。それを見せてはある程度説明しなければ納得しない。そんな子たちだったからね」


御手洗は再びタバコに火を灯し、一服した。


「ふう~・・・しかし、この子たちの目的、目標は私ではないな」


「そうですね。あのアプリは何か目印になるものがないと。例えば、感染している携帯がある。そうすれば、感染者の携帯が非感染者の携帯に反応して、襲い掛かることができますから」


「うん、そうだね。もしかしたら、彼女たちの中に私と同じ<レアリスト>が居るのかもしれないな」


「<レアリスト>・・・希少適応者ですか。そうなると、敵の手に落ちると厄介かもしれませんね」


「まあ、バレければな。私なんかは体内にある静電気信号での放出・伝達で人の神経の様々な操作できる。勿論再構築なんかもね。こんな能力、医療に用いることなどできない」


そして御手洗がタバコを吸い終わるときに救急車のサイレンが聞こえてきた。

その時、言い忘れていたことを飯倉が思い出し、御手洗に伝えた。


「そう言えば先生・・・本部より連絡がありまして、<ウィザード>が東京にいる信号をキャッチしたそうです」


「何!ウィザードだと・・・」


「はい、あのS級バグテロリストです。彼の操作するアプリの危険性は先生もご存じで・・・」


御手洗は持っていたタバコの箱の残りを握り潰していた。


「・・・ああ、あのF市の災厄だ・・・。私もあの現場に居たが、彼に全く歯が立たなかった・・・」


「先生・・・」


「うん、どうやら彼女たちの事件に介入するよういち早く本部に掛け合った方が良いかもしれん」


そう言って、御手洗と飯倉は到着した救急車へ倒れた生徒たちを運び入れていった。

それを一部始終見ていた女性が物陰に隠れていた。その気配の消し方は瑠美らの比ではなかった。


その女性はスマートフォンを取り出した。


「ウィザード・・・はい。そちらの方に向かいました。・・・ええ・・・目星が付いております。彼女だと・・・はい。では学園に戻ります」


そう言って切ると、眼前に御手洗が立っていた。


「気配を消していたようだが、電波が出ているぞ。貴様そこで何をしている!」


女性は完全に決めつけられていた。仕方がない。この状況下で見張るように隠れていたのだから。彼女は自身のレアを引き出し御手洗へ突いた。御手洗は反射的にそれを避けたが・・・


「ぐっ!」


気付くとわき腹から出血していた。光速の突き出しだった。それにたじろいだ御手洗は後方へ下がると同時にその女性は目の前より姿を消していた。


「ウィザードではないが・・・まさか私に手傷を負わすクラスがいるとは」


すると飯倉が御手洗を見つけて呼びかけてきた。


「先生~」


御手洗は混乱を嫌い、咄嗟に傷を隠し何気ない顔で飯倉に答えた。


「飯倉、病院へ戻るぞ。彼女等を<解放>しなければならない」


「はい、了解です」


御手洗と飯倉は救急車へ乗り込んでいった。


・・・


瑠美たち学園に向けて走っていた。

時間も19時を回り、辺りは暗くなっていた。


学園に向けての上り坂を駆け上がる途中で皐は遠くにいる不審な人影らに気が付いた。


「瑠美、お良!止まれ」


皐は2人の前に出て小声で静止を求めた。瑠美と良子はそれに従った。

遠目ながら2人にもその不審な人影に気が付いた。


「ありゃ~、あれはゾンビたちだね」


瑠美はアプリに操られた人たちをそう表現した。良子もそれに倣った。


「う~ん、動く死体(リビングデット)ですか・・・まあ、生きているんですけどね~」


そうこうしているうちに目の前の数が増えてきていた。そしてそれらが真っすぐこちらへ向かってきている。


皐は驚いた。あんな遠くで何故こちらの居場所が気づくのかを。

ゾンビたちの到着がまだだったので、少し思考を巡らしていた。


「・・・お良」


「は~い?」


「あのゾンビ共はバグアプリ感染者だとする」


「うん、すると~」


「何故、ここの居場所が分かって躊躇なく真っすぐ向かって来れるのか・・・」


良子はちょっと考えて、皐に質問の回答をした。


「まあ、機械的に言ったら~、追跡されているってことじゃないかな?」


瑠美が首を傾げた。皐も良子の回答に詳しい内容を求めた。


「追跡はどこかに追跡される何かがあるってことか?」


「うん、発信源。良くあるパターンだよ。各スマホにもGPS機能があるじゃない。アレ」


皐はまた思考に落ちた。一体何が私たちを追跡できる条件であるかを。

それを瑠美が2人の話の中から閃いていた。


「あの、さっちゃん、お良・・・GPSがスマホにあるんだよね」


その発言に良子が答えた。


「うん、そだよ~。正確にはどの携帯にもね~」


瑠美は頷き、持論を述べた。


「私たちの携帯だよ。感染してるんじゃないかな?」


「なっ!」


「ほわ~」


2人とも瑠美の答えが一番しっくりいっていた。

そして3人とも携帯を取り出した。


瑠美はスマートフォン、皐はガラパゴス、良子もスマートフォンだった。


しかし、良子が疑問を呈していた。


「あれ~、でも私のスマホは~、やはりカスタマイズで~、GPS機能をマスクしてあるんだよね~」


それを聞いた瑠美と皐は良子のスマートフォンでは追跡不可能だと理解した。


「じゃあ、さっちゃんか私かな?」


それにも良子が疑問を言った。


「う~ん、それも違う気がする~、スマートフォンの感染アプリなわけだから~、ガラ携のさっちゃんは関係なさそう~」


それを聞いた瑠美は青ざめた。


「まっ・・・まさか私のだけ・・・」


皐と良子は見合って頷いた。


「どうやらそうみたいだな」


「う~ん。納得。瑠美のスマホだよ。もしかしたら感染していたのかも~」


皐と良子は瑠美に詰め寄ってスマホを取り上げようとした。しかし、瑠美は「ちょっと待って~」と2人に言った。


「ストップ~!感染ならお良のスマホも~」


「ざんね~ん。言ったよ~、私のはカスタマイズで~、日本で一番のセキュリティ~」


「ちょ・・・ちょっとそこまで聞いていな~い」


実力行使で皐は瑠美のスマホを取り上げ、その場で叩き割った。


「はわわわ・・・」


瑠美は無残に朽ち果てたスマホを見て涙ぐんでいた。


「わ・・わたしの・・スマホ・・・がが・・・」


皐は壊した後、向かってきているゾンビ共に視線を向けた。すると、ゾンビらは目標を見失ったか、あてもなく彷徨い始めた。


皐は一息ついた。


「ふう・・・これで一安心だな」


良子が「そうだね~」と言った瞬間、瑠美と良子、皐の間に1人の桜明の生徒が上から降り立った。

隣りに有名な神社があった。その神社とこの道には大分高低差があったが、その境内から飛び降りてきた。


勿論その眼光とは鋭く、表情も鬼のようで、3人を見据えていた。


「逃げろ~」


皐がそう叫ぶと、瑠美は神社の境内に通ずる道を駆け上がり、皐と良子はそのまま坂を駆け上がっていった。


運悪く、その生徒は瑠美を目標として境内を凄い速さで駆け上がってきていた。


「ひ~」


瑠美は負けじと脱兎の如く逃げた。そして境内に辿り着くとそこにも桜明の生徒が2人いて、瑠美を見た。


「はう~」


瑠美はその2人の間を走り抜いて逃げた。追跡者が3人に増えた。


「うわ~ん」


瑠美は泣きながらも必死に走った。すると傍に大学病院が見えてきた。


「(ここに隠れよう)」


そう思い、瑠美はその大学病院へ入っていった。


急患用入口を走って入っていった瑠美に警備員が気づいて、警備室から入口に出てきた。

「待ちなさい!」と瑠美に声を掛けた時、追ってきた桜明の生徒らに首を一突きされて、警備員はその場に崩れ落ちた。


生憎、瑠美の走っている院内のルートには人が居らず、瑠美はそのまま大学棟へ入っていった。

瑠美が走りながら振り返ると追跡者が未だ瑠美を追っていた。


「はあ、はあ・・・距離が縮まっていく・・・」


瑠美はいつか追いつかれてしまうと恐怖に駆られていた。そして瑠美は正面を見ないためある人にぶつかってしまった。


「はうっ」


瑠美はすごく硬い壁に当たった衝撃を感じたがそれは壁でなく、担任の大分だった。


「なんだ、竜宮司。お前大学に用でもあったのか?」


大分は瑠美に質問を投げかけたが、瑠美は状況が状況だけに説明ができなかった。

すると、追跡者が瑠美と大分の前にやって来ていた。


大分は制服から一目で桜明の生徒だとわかったが、その様子が違うことも察した。


「・・・竜宮司・・・こいつらどうしたのだ」


「はわわわ・・・」


瑠美は上手く説明できなかった。

しかし、追跡者はそんなことはいざ知らず瑠美と大分に襲い掛かって来た。


「むん!」


大分は飛びかかってきた3人の攻撃を全て受け止めた。

その力に驚いていた。


「・・・何かされているな。お前ら・・・」


そして大分は一人ずつ急所を突いて、気絶させた。瑠美はその大分の強さに胸が熱くなった。


「かっこいい・・・」


そして、大分は再び瑠美に向かい合い腕を組んだ。


「説明が必要だな。竜宮司・・・」


その威圧感たるもの、瑠美は逆らえなかった。



・・・



一方、皐と良子は坂を駆け上がり、一直線に学園に向かっていた。


「瑠美は大丈夫なのかな~」


「まあ、追跡される要因がなくなったから問題ないだろう。学園への道はそんなに迷うほどでもない。向こうで合流できるだろう」


そう皐が言うと、良子は頷いてひたすら走っていった。


そして、皐と良子は学園に着いた。

切れた息を2人は整えて、正門から入っていった。


既に遅い時間であったので生徒は居なかった。

廊下を歩きながら、良子はタブレット片手に推理をしていた。


「ん~、この学園が火元として~、何を媒体にだよね~」


皐は周囲を警戒しながら歩き、2-Aの教室に辿り着いた。

皐と良子は傍の席に腰を下ろし、火元に関しての状況整理をしていた。


「怪しまれずに生徒間で蔓延させることのできる媒体か・・・」


皐はそんな学園内蔓延できる方法を知っている気がした。

皐は深く思考した。そしてあることに気が付いた。


「・・・お良よ」


「はい?」


「ハッキングは連絡ルートさえ分かればできるのか?」


「うん、朝飯前よ~」


「それでは決まりだな。<ツブヤキ>だ」


「ツブヤキ?・・・みんながやってる?」


「そうだ」


皐は立ち上がり、良子について来いと言った。

良子はタブレットを持って付いてきた。


皐の足はある部屋へ向かっていた。


「この学園ではあるツブヤキがスマホを持ち、且つ登録している生徒全員へ配信がある」


「ほー」


「それが今回の火元だ」


「なるほど~」


そして2人は校長室の前に立った。


「お良よ。覚悟はできているか?」


「モッチのロンよ~」


「では、行くぞ」


そう言うと、皐は校長室のドアを開けた。




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