第3話 あるハッカーの腕前

その日の放課後、3人は皇居の畔にいる桜明の陸上部の部長、ひいらぎ 美里みさとと話をしていた。


「・・・それじゃあ、その貧血になった子はもう元気になっているんですね」


瑠美は柊に言った。柊は問題なくと答えた。


「その彼女、如月(きさらぎ) 桃子(ももこ)さん、貴方たちと同じ2年生だけどね。近くにいた仲間が支えていたけど、徐々に意識が遠のいてきて終いには気絶しちゃったのよ。あの時は部員皆が焦ったわ」


柊はその時のことを回想しては、状況について3人に説明してくれていた。

良子もフムフムと頷いてはメモを取り、皐は瑠美の後ろで黙ってその話に耳を傾けては思考していた。


「あれから病院に彼女担ぎこまれたんだけどね、なんか初期症状の処置だったから何事もなく即日退院だったのよ。・・・あっ、来た。後は本人から聞いた方が詳しく聞けると思うから。如月さ~ん」


柊は皇居を周回して走って来た如月を呼び止めた。そして3人に彼女を紹介した。

如月はその3人のことを知らないため、なんで私に用があるのかが知りたかった。


それに付いて瑠美が説明した。


「如月さん、実はですね。私たち郊外学習の一環でこの都内に起きている様々な不思議を探しているんですよ。貴方が貧血にあった話も興味がありまして、それで取材にきたんです」


それを聞いた如月は取材に応じた。何故ならば「校風」が様々な意味で生徒たちに幅広い理解を求めていたからだった。そのためなるべくならば生徒同士での協力は惜しまないように皆が考えていた。


如月はその貧血の時のことを思い出していた。


「う~ん、私たちはこの皇居を周回する上で、テンポを気にしていてね」


「テンポですか・・・」


瑠美は相槌を打った。如月は頷いた。


「そう、そのため各自自分の好きなテンポの曲をスマホに入れては聴きながら走っているんだ」


良子は気になるところをメモしていく。そして良子は核心のついた質問をした。


「あの~、如月さん。私、白河 良子と申します。初めまして。それでですね。貴方のアプリでスマートリラックスというものがインストールされていたという話を耳にしたのですが、覚えありませんか?」


如月はその質問に首を傾げた。


「スマートリラックス?聞いたこともない。何ですかそれ」


良子も首を傾げた。


「あれ~、外れたのかな~」


そう良子が悩んでいると、後ろから皐が如月に質問した。


「私は財部 皐と言います。如月さん、詰まる所、貧血から退院までで気になったことや不信に感じたことはありませんか?」


皐が如月に詰め寄ると、如月は真剣に考えて、一つ思いついたことを3人に告げた。


「・・・そう言えば、私のスマホは、まあ誰もそうなんですけど。初期化されていて、アレっと思った。普通、暗証番号が分からないと若しくはお店に持って行かないとできないじゃないですか。なのにどうしてかな~と。あんまり知り合いも多くはないから別に大したことじゃなかったですけど・・・」


それを聞いた良子はメモを取り、その如月さんと電話番号の交換をしてからその場を切り上げた。


良子は瑠美と皐に今から自分のマンションに来てと誘った。2人ともそれを了承した。

調べることは2つ。一つは如月のデータ消去の謎、もう一つはスマートリラックスに関しての事。


良子のマンションは秋葉原の駅前のタワーマンション内に在り、上の階に位置していた。

3LDKの間取りで両親と3人で暮らしている。既に時計も18時を回っていたが両親は仕事で帰りが遅いらしく、まだ誰も家にいなかった。


良子は部屋の電気を付けると部屋の中には見事なサーバー端末が設置されており、6面の大型モニターが良子の机の上に化粧台のように飾られていた。


「よいしょっと」


良子は2人に椅子を用意して自分のパソコンの側に座らせ、本人はパソコンを起動し、物凄い速さでタイピングをしていた。


当然何をしているのかが気になる2人だったが、長い付き合いながら多分良いことではないと察していた。


「・・・よし!出た。瑠美、さっちゃん、これを見て」


モニターに映っていたのは山手線沿線の大まかな地図だった。しかし一つ違うところは地域によって色が濃くなったり薄くなったり、それが断続的になっていることだった。


それに付いて皐はいち早く理解した。


「これはビックデータか・・・」


「ご名答!さすがさっちゃん」


瑠美だけがいまいちだったので、瑠美は皐に質問した。


「何、ビックデータって?」


「ん?ビックデータとは過去のデータを全て結合して、その時期にどれだけのある需要があったかを見るのに役立つ代物さ。これが高速道路の混雑や観光地のピークなど色々分かれば、人をより効率良くおけるということだ」


「へえ~。便利だのう~」


瑠美は感心した。しかし皐はそのビックデータの内容が気になった。


「お良よ。これは何のデータだ」


「う~ん、如月さんだっけ。彼女の携帯をちょいとハックして、その時のスマホアプリを解析したんだ。全てのアプリを対象に使用頻度を選択して、色々な送受信をその彼女が貧血を起こした時間付近でざっくりデータとして載せてみたよん」


瑠美は「ふ~ん」と感心した。しかし皐はそのビックデータを見てため息を付いた。


「これは都内で動いている全てのアプリが対象なんだろう。それじゃあ見分けが困難だな」


良子はフフンと鼻を鳴らした。


「あま~い、甘いぞさっちゃん。それがちょちょいとやれば」


良子の操作でビックデータの表示があっという間に数件の信号データまで消えていった。


「彼女あんまりアプリなど携帯に興味がなかったことが功を奏したね。いろいろ頻度良く使われているとそれが雑音で排除しきれなかったなかったけどね」


そのデータは学園と如月さんの家にあたる所と皇居周辺、病院だった。


皐はそれを見て、病院に行ってみた方が良いと判断した。


「病院がまだ調査していないな。明日はそこに行ってみるか」


皐はそう言うと、瑠美と良子は了承した。


「うん、そうだね。調査は足からだからね」


「う~ん。病院かあ。いまひとつピ~ンと来ないけど・・・仕方ない」


良子がもうひとつの調べものをした。画面にスマートリラックスと入力し、自身のプログラムでの検索を掛けた。


「皐に瑠美~、私たちって~あまりスマートリラックスのこと知らないじゃない?」


皐が頷く。確かに都市伝説レベルの噂でしかないのが現況だった。


「そうだな。そのソフトが仮に存在してどうなるのだ?」


良子は頭に両手をやって手で組んで悩んだ。


「う~ん・・・アプリ自体の直接的な効能って~、何か波長を媒介して~伝えるような感じ~」


瑠美も思案顔をしていた。


「波長って、音波とか?」


良子が捕捉した。


「電磁波でもいいよ~。電波とか~。電話も微弱ながら出ているからね~」


皐がそれに質問を投げかけた。


「強力ならば?」


良子が片手で指を鳴らす。


「そうね~!ネットもアクセスできれば~微弱ながらもつなぎとめてられるし~」


瑠美が良子の話に「どういうこと?」と投げかけた。すると良子があるものの例えを披露した。


「ほら~沢山いる人の中からキャラクターを探すようなゲームあるじゃな~い?見つけるまでは大変だけど、見つかるとそれしか目に留まらないし~同じものから探すなら次も見つけやすいでしょ~」


瑠美がポンと手を叩く。


「あ~、ウォー・・・」


皐がそれを阻み、スマートリラックスの総括をした。


「その波長が人に害を及ぼすと想定できるな。未知数ながらもな」


瑠美がうんうんと相槌を打ち、皐の話に補足した。


「彼女含めた異変にあったひとは通話や音楽を媒介しての感染が考えられるね」


良子は画面を見ながら、


「あとは~感染経路だね~」


と言った。この場はこれでお開きとなった。


良子は2人をマンションの外まで見送るため1階のエントランスまで一緒に降りた。

良子が2人に挨拶をした。


「それじゃあ、2人共。気を付けて帰るんだぞ~」


「ああではお良」


「うん、じゃあまた明日ね~」


そう挨拶を交わし終えて瑠美と皐が自動ドアを開けると目の前に同じクラスメートの塚越(つかごし) 弘美(ひろみ)が入口前に立っていた。


3人は彼女が住んでいるところを知っていた。彼女は都内ではない。そして良子の家も知らないはず。それが目の前に立っていた。


皐はただならぬ雰囲気にさっと身構えた。瑠美は慌てていた。良子は「あれ~?」と呑気なものだった。


塚越はフラフラと3人に向かって歩いてきて、次の瞬間鬼の形相と化して3人に襲い掛かって来た。

即座に皐は塚越の間合いに入り当て身をしたが、塚越はびくともせず、皐の脇腹に目がけて足を入れて、皐を壁際まで蹴り飛ばした。


その力と動きは人間業とは思えない、そう皐は感じながらもゆっくり態勢を立て直したが目前に塚越が立ってニヤッと笑みを浮かべていた。


「やられる!」


皐はそう思った刹那、メイド服を着た2人が塚越を後ろから取り押さえ、黒いメイド服を着た榊が塚越が持つスマートフォンを服から取り出し、操作して電源を切った。


すると、塚越はフッと魂が抜けたように崩れ落ち、その場で気絶した。

榊は3人を見てぼやいた。


「・・・全く・・・余計なことに手を出したみたいだねえ、お前ら」


その言葉に皐が打撃の痕に耐えながら榊に話した。


「・・・榊さん・・・何かご存じなんですか・・・」


瑠美も良子も恐怖でうずくまりながらもその質問の答えを聞きたかった。

榊は瑠美を見下ろして、自分のスマートフォンを取り出した。


「瑠美、お前にある信号アプリを内緒で取り付けておいた。念のためだ。それが功を奏したみたいだな。このようなことがお前の身に起きた時にだけ私の下へ連絡が来るようにな」


瑠美は驚いた。何故そんなことを榊が自分にしたのか、全く謎だった。

榊は瑠美があの夜の記憶がないと察し、安堵した。


「・・・あんまり詮索するんじゃないぞ。お前らは何者かにマークされているらしいからな。下手に動けば今のような奴らがお前らを襲うぞ。じゃあな」


そう言って黒い精霊たちは塚越を抱えて、その場を去っていった。


瑠美らはそんなことで納得できるわけがないと思っていた。

だが、力づくで榊から情報を引き出そうと思うほど命知らずではなかった。


そして、予定通り翌日は病院を調査するということで3人は家路についた。

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