僕が望んだ世界に君はいない

@KYS_N

第1話一歩動き出す

掌からこぼれ落ちたものを再びこの手に____。


彼女のほほえみをもう一度自分のもとに____。


少年は3分前までの世界に別れを告げ、新たな一歩を踏み出した……。



***



この物語は眉目秀麗、成績優秀、スポーツ万能な非の打ち所がない少年の物語である……。


ではなく、確かに世間一般で言われるところのイケメンではあるが、顔と性格以外はびっくりするほどに

凡人な少年__天野透あまのとおるの物語だ。


例えると、彼はゲームでの初期ステータスを顔にプラス、性格にマイナスの値をガン振りしたような人間なのである……。



***


「なぜ俺はこんなにもイケメンなのにモテないんだ? なぁ、なぜだと思う愁? 」

「お前みたいなイタイ奴のそばにいたい女子なんているわけねーだろ。考えろよ……。」


思わずため息をこぼしながら答える彼は八十神愁翔やそがみしゅうと、いわゆる友人だ。


「それよかもう今日で3年だな。」

「ん? 俺の初ピアス記念日から3年って事か? よく覚えていたな。」

「ちげーよ! なんだよその初ピアス記念日って、しかもなにそれ!? ピアスまで痛々しいな、今気づいたわっ! 」

「__ったくそんなつまらん事だけはなんで覚えてるんだよ……。あの悪魔の七夕から3年ってことだよ。」

「ふっ、俺とした事がうっかりしていたぜ! 」

「あれを忘れるなんてお前はどんだけ楽天的な奴なんだよ……逆に呆れを通り越して清々しいよ。」


ほんとに呆れたような顔をして答える愁を脇目に、つぶやく、


「忘れるわけないだろ__。」

「えっ? なんか言ったか? 」

「いや……なんでもない。__走るぞ愁、急がないとゲートが閉まってしまうっ! 」

「おい待てって、おいてくなよ〜。」


さっきはあんな事を言ったが、本当は鮮明に覚えていた。

ただ単にあの記憶を思い出したくなかったのだ__。


***


2046年7月7日、この日は年に一度、天の川が繋がり離れ離れになっていた織姫と彦星が会えるという。


そして、町中には笹が飾られ願い事を書いた色とりどりの短冊が、風に揺れる日だ。


そんなロマンチックな日が一変して悲劇に染まった____。


俺が住んでいるこの国、日本はもとから地震が多かった。


あの日揺れたときもいつも通りの地震だとみんなが思っていただろう…….もちろん俺もそう思っていた__。


だが実際は違ったのだ__。


地面が歪むどころではない、空間が歪んだ____。


それからはもう悲劇の連続だった……逃げ惑い、赤く染まっていく人々、まるで積み木が崩れるように一瞬で建物が消えた____。


残ったのは、どこまでも続く平地と俺だった……。



それから3年、首都圏が全て更地に変わり、国が機能しなくなった今、俺たち生き残ったものは、北海道、東北、北陸、関西、中国、四国、九州・沖縄の7ブロックに避難し、各ブロックごとで独自の自治体が収めている状態だ。


人口も2/3まで減少し、国が機能しなくなったことで世界からも突き放された。



俺は実家が北陸にあった事もあり、北陸に戻った。


あの悪魔の七夕以降、一度も空間がゆがんだ事はない。


そして、あのほほえみもまだ、残像のままだ……。



***



「おーい席につけ〜今日はまぁ……なんだ、転校生みたいなやつを紹介する。」


相変わらずだるそうな先生だな、あれで教師なのだから信じられん__。


「じゃあ転校生、適当に自己紹介してくれ。」


なぜぼっち席の俺の隣に机があるのかと思えば、そういう事か。


それにしてもなんか見た事があるようなやつだな……。


どっかであったけな? 俺に限ってそれはないか……。


「天野霞あまのかすみです。よろしくです!」


ぼーっと物思いにふけっていた俺だが、これには思わず驚いて立ち上がってしまった__。


「姉貴__?!」

「なんだ天野〜今日のお前へんだな、ぜんっぜん面白くない、いつもなら『ああっ! 我が姫よ、やっと我がもとにいらしてくださったのか! 』くらい言うのになっ!」


突然声をかけてきたのは、クラスの中心人物の|盾宮隗斗≪たてみやかいと≫だ。


俺はこの王様気取りなやつが嫌いだ__人のことを言えた身ではないがな……。


「えーっと……誰だか知らないけど、私は君のお姉さんじゃないんだけどなあ……」


もはや教室は爆笑の渦だった。


今までの冷ややかな視線の方が、どれだけ楽だっただろうか__。


よく考えればありえないことだった。


俺の姉貴はあの日死んでいる……しかし、あの声、あの顔、あの仕草は姉貴そのものだ。


忘れるはずがない。


驚く俺を余所に彼女は座った____。

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