第2話マッチ売りの少女
「はぁなぁしぃてぇー!」
数十分後、僕達はそう叫ぶレイナを3人がかりで持ち上げ、近くの洞窟まで運んでいた。
洞窟を見つけてから直ぐ、レイナを捕獲して連れてきたので、大した距離では無いのだが、レイナが暴れる所為で、洞窟に着くまで結構な時間が掛かっている。
「お嬢、どれだけ鬱憤溜まってるんだよ……」
タオの一言に僕とジェインも頷いて同じ気持ちだと示す。
しかし、幾ら大人しくしてくれと願った所でレイナが聞く筈もなく、一瞬気の抜けた瞬間を見抜き、また暴れて拘束から抜け出そうとする。
「ヴィランー!」
ますます激しく暴れるレイナにシェインはため息を漏らす。
「ありゃぁ、困りましたね。こうなった姉御を止められるのは新人さんだけです!」
シェインが言外に、何とかしろと無茶振りしてくるのを悟り、僕はため息をついた。
「あー、レイナ。やっぱり僕は大本を見つけて少ない手間でそこを叩く、探偵のようなスマートなやり方がレイナに似合っていると思うんだけど」
僕の言葉にレイナはピクリと反応する。
そして、上目遣いでこちらを見上げ、口を開く。
「本当に、名探偵なリーダーだと言わせることができる?」
先程も思ったのだが、僕達がこの想区を出るとここの住民は僕達の記憶をなくすことを忘れているのだろうか?
けれども、馬鹿正直にそんなことを言って暴れられるわけにはいかないので大きく頷く。
「勿論!」
「本当に名探偵だと言われる?」
「当たり前だよ!今だって僕らはレイナが迷探偵だと思ってるよ!」
「新人さん、最後に本音が出ましたね」
「まぁ、そう言うなシェイン。俺もそう思う」
シェインとタオの会話に落ち着き始めたはずのレイナが顔を訝しげに傾ける。
何てことを言ってるんだ!まぁ事実だけど、と僕は内心ヒヤヒヤしながらレイナの動向を伺う。
兎に角、幸いなことに会話の内容までは聞こえてなかったようで、無事洞窟の中で休息を取ることは決まった。
「新人さん。どうします?」
僕は洞窟に入り、一度中を見回した後唐突にシェインはそう口にした。
確かにシェインが気になるのもわかるぐらい、この洞窟は妙だった。
中央に赤々と燃える炎、そして、炎をつけるのに使われたと思えるマッチのカス。
直前まで、人がいたかのような装いだ。
しかし、シェインが指摘していることが決してそれだけを示しているのでは無いことは分かっている。
「本当にどうしよう?」
何故なら、火が付いていたぞぉ、と騒ぎ立てているレイナとタオを伺うように、岩の陰で小さな人影が蹲っているのだから。
僕はレイナとタオ、そして、明らかに顔を歪めたシェインを見て、あの子に声をかけることが出来るのが自分だけであることを確認する。
そして、その人影の興味がレイナとタオの出した干し肉に向けられたのを見てから、出来るだけ優しい笑顔を意識しつつ口を開いた。
「焚き火、使わしてもらってごめんね。代わりと言っては何だけれどもこっちで一緒に食べない?」
「っ!」
岩かげの人影がピクリと反応する。
そして出てきたのは 村の住民よりも貧しそうな服を着た、マッチの入ったカゴを手に持った少女だった。
「えっ!女の子?」
僕はそれに思わず声を上げてしまう。
少女は、その声に怯えたように目を見開いて後ろに下がる。
僕は自分が明らかに失敗を犯したことを悟る。
しかし、少女が逃げることはなかった。
「あなた、名前は?」
レイナが、僕の失態をカバーするかのように少女に優しく話しかけたからだ。
少女はまたピクリと震えるも、おずおずといった様子で口を開いた。
「み、皆からはマッチ売りとか、マッチ売りの少女って呼ばれてます」
レイナはその少女、マッチ売りの少女の答えに満足したように頷くと身体を屈め、目と目を合わして口を開いた。
「それじゃぁ、マッチ売り。いきなりここにきてしまったことは謝るわ。けれど、ここには旅の途中で偶然辿り着いただけで、決してあなたに乱暴を働こうなんて思ってないの」
レイナの言葉に、マッチ売りの少女の目が大きく開かれる。
「旅人さんなんですか?」
「ええ、そうよ。それもとっても頼りになる私が、リーダーのね!」
「やっぱり、旅って危険何ですか?」
「ええ、そうよ。でもこの私がリーダーであるからは大丈夫!この前だって……」
そうレイナが話を始め、その話を聞いたマッチ売りの少女は目を輝かせる。
僕はそれに助かったと溜息をついた。
しかし、レイナの話はどんどん誇張されていく。
確かに、レイナの話している内容は本当にあったことで、その内容自体は正しい。
だが、しかし、と隣を見るとタオもシェインも同じことを思っているのがわかる。
(((自分自身について誇張しすぎ!)))
「まぁ、何だ。これでお嬢の機嫌が治るならそれに越したことはないし、ほら、マッチ売りだって楽しそうじゃねえか」
タオはここは穏便に流そうと、言外に告げる。
それに僕とシェインは頷く。
「そうですね。まぁ、マッチ売りさんと楽しく話せているのは精神年齢が同じだからだと思いますが」
「「!」」
しかし、シェインの一言に僕とタオは固まる。
「もしかして、シェイン怒ってる?」
「は?」
恐る恐るといった感じの僕の言葉にシェインは本当に何を言っているのかわからないといったような顔をする。
ってことは本音ってことなのか!と別の驚愕がなかった訳でもないが、その言葉はレイナがいつの間にかこちらを訝しげに見つめていることに気づいて胸の奥にしまう。
「エクス、何話してるの?」
「い、いや、話すのも良いけどご飯を食べないのかなぁ、て思って」
僕がそう、誤魔化すとマッチ売りの顔が輝く。
それを見てレイナは頷く。
「そうね。そうしましょう」
タオとシェインが直ぐに用意に取り掛かる。
そして、思わぬ出来事が起こったのは、その時だった。
そう、振り切った、そう思っていたはずのヴィランが現れたのは。
「あ、あれは」
マッチ売りの少女が上げる声に反応して僕達は英雄の栞へと手を伸ばす。
「チッ、さっきよりも数が増えてやがる!」
タオの苦々しげな声の通り、ヴィランの数は先程よりも多かった。
「どうして!?この近くにカオステラーがいるとでも言うの!」
レイナが戸惑いの声を上げる。
しかし、いつまでも戸惑っているわけにはいかない。
「レイナ、あの子を!」
そう、僕の示した先には尋常ではない様子で震えるマッチ売りの少女がいた。
レイナは無言で頷くと英雄の栞を握りしめてそのそばに駆け寄っていく。
それを見届けてから、僕達はヴィランの方へと走り出した。
「レイナはいない。そして、ヴィランの数は先ほどの倍以上。タオ、シェイン、大丈夫?」
「はっ!確かにさっきよりは多いが、これぐらいいつものことだろう?」
「ええ、新人さん。全くその通りですよ」
そう飄々と嘯く二人を心強く感じながら僕は頬を釣り上げる。
そして、次の瞬間僕達とヴィランは衝突した。
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