マッチ売りの願い

陰茸

第1話貧しい村

「ここは何というか……」


そういう声がして、僕は後ろにいる仲間へと目を向けた。

声を出した少女はレイナ、調律の巫女と呼ばれる僕たちのリーダーである少女、そしてその後ろにいる背の小さな少女はシェイン、年齢的に一番下だと思うが、僕のことは新人さんと呼んでいる。そして、も僕の他の男子であるタオは熱血という言葉が当てはまる、シェインの兄貴分である少年、そして最後に最近仲間に入った僕を合わせると、それが仲間の4人だ。

僕は、レイナの動揺した様子に何があったのかと、レイナの視線の先の僕達がいる位置から見える村へと視線を移す。

そこから見えた村は、貧しいそうな、言って仕舞えば寂れた様子を醸し出していた。

隣のレイナは、村を見て硬直した僕に頷きかけると、真剣なかおをして口を開いた。


「ここは寂れた、いえ貧乏な所ね」


「姉御、それ言い代える前より酷くなってませんか?」


「えっ!」


もしかして深刻何かが!と、レイナの深刻そうな顔を見て僕は身構えていたので、気の抜けた発言に思わず苦笑を漏らしてしまう。

そしてそれに気づいたレイナにじとっ、と睨まれしまった。


「い、いや、何でもないよ。ところでタオ、これからどうする?」


レイナの視線から顔を逸らし、誤魔化すようにタオに話しかけた。


「そりゃ、村に行くに決まってんだろ。まぁ、タオファミリーを仕切る俺の手腕にあとは任せておけ!」


タオはそう自信満々に笑うが、気に入らなそうなレイナはぼそりと呟いた。


「遠慮って言葉を知らないだけでしょ」


それにタオが反応していつも通りの口喧嘩が始まる。


「困ったことになりましたね、新人さん。こうなったら村を探し始められるのはいつのことやら」


そうボソリと漏らしたシェインの言葉に同意するように僕はため息を漏らした。








何とかタオとレイナの喧嘩を納めた後、僕達は村を探して移動を始めた。

しかし、村というか、人ががあまりいない想区らしく、やっと村を見つけた時には既に日が傾きかけた頃だった。


「本当に寂れた、いえ、貧乏、いえ、貧しい村ね」


「レイナ、変わってない。しかも断定はより失礼だから」


僕がそう半顔で突っ込むと、レイナは頬を染めて動揺する。


「っ!、い、言い間違いよ!」


「本当にお嬢、よくそれで俺に遠慮が無いって言えたなぁ……」


「うぐっ!、な、何よ!事実じゃ無い!」


タオとレイナがまた喧嘩を始めそうになったので、引っぺがす。


「ああ、もうレイナ早く村に行くよ!」


「新人さん、面倒見良いですね」


そんなこと言わなくて良いからシェインも手を貸して欲しい、そう切に感じるが、今は口を閉じる。

兎に角、何とか村の中へとたどり着くことができた。

しかし、問題は其処からだった。


「えっ、何で私達がここに居るのが行けないのよ!」


レイナの叫び声が僕達のいる小屋の中で響く。

しかし、その叫びを受けた張本人である初老の住民は顔色さえ変えず、タオへと口を開いた。


「だから言っているだろう?厄介な問題が起きているんだ。これ以上面倒ごとはごめんだ。不審な奴らを招き入れるわけにはいかないんだよ」


「ああ、確かに聞いた。だが、此方も困ってるんだよ。どうにかならないのか?」


しかし、タオの懇願にも住人達は心を動かすことはなかった。

僕達の表情に諦めの色がまじる。

しかし、それを許さない人物がいた。


「ちょっと待って」


そう、この場の注目を集めたのはレイナだった。


「もしかしたら、その問題私達が解決できるかも知れないわよ」


その言葉に住民の顔色が初めて変わる。

それにタオが思わず、といった様子で口を挟んだ。


「お嬢、そんな安請け合いして大丈夫なのか?」


レイナはそれに考えるような顔を下げて、すぐに上げる。

その顔は決意に満ちていて、ここの住民を救おうという覚悟が垣間見える。

しかし、


「お嬢?つまり、そこの嬢ちゃんがリーダーなのか?それなら問題解決は俺たちでやるよ…」


レイナが言葉を発する前に住民たちは失望を顔に浮かべて身体を反転させる。


「なぁ、な、な!」


後に残されたレイナは感情が高ぶりすぎて、怒りの言葉さえ、形にすることはできなかった。







「確かに、タオにしか声をかけないからおかしいとは思っていたのよ」


先程のことから、レイナは不貞腐れて愚痴を漏らし続けている。


「だけど締め出すことは無いじゃ無い!」


「タオファミリーのリーダーは俺だって言っておけば良かったのか?」


「私はそんな組織に入った覚えなんか無い!」


タオの余計な一言によって喧嘩が始まる。


「またやってますね」


こちらに寄ってきたジェインがレイナとタオを呆れたように一瞥した。


「まぁ、いつもと変わらないちゃ、変わらないけどね」


「ところで新人さん、先ほどのこと、おかしいとは思いませんか」


僕は一度、先程の住民と話したことを思い出して頷いた。


「確かに。最初は僕達を止めるのが負担になるから色々な理由をつけて追い返そうとしているのかと思ったけど、レイナの問題を解決できるっていう一言に顔色を変えてたから、そういうわけじゃ無いんだよね?」


「ええ、多分本当に問題を抱えているんでしょう。しかしだとしたら旅人4人を迎え入れることさえ致命的な手間になるほどの問題。それはどういったことなんでしょうね」


ジェインの言葉に頷いて、本当にあの村で何があったのだろうと思考巡らせる。

しかし、その思考は僕の最も望まない形で遮られた。


「ヴィラン!」


僕のその一言にシェインだけでなく、レイナとタオも喧嘩を止めて、振り向く。

その視線の先には、僕達の敵であるカオステラーにこの想区の住民が姿を変えられ僕となった存在、ヴィランが現れていた。


「何でここにヴィランが!」


タオが苦々しげに吐き捨てる。

僕もシェインも同じような顔だろう。

しかし、レイナだけは違った。

顔を輝かせて断言する。


「あれが村の人が言っていた問題に関係あるに違い無いわ!」


それは、レイナがロクでもないことを言い出す時の雰囲気。

確かに、この状況下では十中八九ヴィランと村の問題が関係あると考えて良いだろう。

しかし、それでどうするつもりだ?

猛烈に嫌な予感に襲われながらも、僕はレイナに声を掛ける。


「レイナ!急いでここを離脱するよ!」


しかし、レイナは頬を吊り上げたまま大声を張り上げる。


「いいえ!そんなことは出来ないわ!今直ぐカオステラーを探して問題の中心を収めるわよ!これで私はリーダーとしてチヤホヤされるんだからぁ」


そう叫んで英雄の栞を握りしめてヴィランの元へと飛び出していった。


「あっちゃぁ、あれは明らかにお嬢のスイッチが入ってるぞ」


「姉御はやる時はやる人なんですがねぇ」


タオとシェインが、ゲンナリと呟く。


「まぁ、行くっきゃないか!」


しかし、すぐにタオも英雄の栞を握りしめてヴィランヘと突撃する。

最後に残ったぼくとシェインはどちらともなくため息を漏らし、英雄の栞を握りしめた。


「では新人さん、姉御のこと頼みます。くれぐれもお嬢が迷探偵になることの無いようお願いしますよ」


そう言ってタオを追ってヴィランの元へと駆け寄っていくシェインの言葉に苦笑を漏らす。


「しょうがないなぁ」


僕はそう思わず漏らしながらも、英雄の栞を手に戦闘へと走り込んで行った。

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