始末屋6


 どうにもこうにも。

 ヤクザの若頭の隠し子が俺の手元にいるだと。


 冗談じゃねえや。なんでまたこんな事になっちまったんだか。しかも本人は薬物中毒ジャンキーときた。


 その上、情報屋、本人と調達屋で言ってる事が違いやがる。

 同じヤクザ組の別派閥にきつけられた親戚が親を殺した、までは同じだ。だが交通事故で死んだのか、目の前で殺されたのか。どうもひっかかる。もう一度、調達屋に連絡して話を聞いた方がいいかもしれない。


 運転中にやっかい事が浮かんでは消え、浮かんでは消え。イライラする。


 本人は交通事故って言ってるが、ショックで記憶があやふやなのかもしれないし、目の前で交通事故が起きたのかもしれない。これなら辻褄つじつまは合う。情報屋に防犯カメラのデータを取り寄せてもらうか?


 今日はもう疲れた。一度帰って寝てしまおう。おっと、しこたまぶん殴ったヤクザ。あれはどうしたものか。

 いちおう意識が回復するまでは闇医者に預かってもらう事になってはいる。事情を聞いた上で落とし所を探らにゃならん。

 さいわい、若頭の娘はこっちの手の内。保護した上でこっちを調べてたうさんくさいやつがいた、ってことで有耶無耶にしてしまうこともできるだろう。だがそう・・なったら小娘を持っていかれる可能性もある。まだ始末は済んじゃいない・・・・・・・・・・・・。中途半端はダメだ。しばらく行方不明になっててもらうか。

 闇医者のところは電波暗室できっちり防御されていたはずだ。監禁でも拷問でもなんでもありの身柄ガラ預りとの兼業。ついでにダウナー系のクスリをぶちこんで夢の中に沈んでいてもらったほうが都合がいいか。


 イヤフォンに触れて通話を開始。


「どうも、昼は世話になったな」

「どうもじゃないですよ。一応三日分の預かり代は受け取ってますけど、あの男、どうするんです?」

「その件で通話したんだよ。ダウナーつっこんで生かさず殺さずで。あんたの所なら楽勝だろ。そういう感じで頼む」

「料金上乗せで一日当たり50は取りますからね?」

「了解だ。とりあえず一週間分振り込むよ」


 端末を操作。次の瞬間にはイヤフォンの向こう側で通知音が響く。


「ああ、たしかに。……八日分入ってますけど?」

「手間賃だよ」

「そんな気軽にポンポン払って大丈夫ですか? ポイントが途切れたら有無を言わさず放り出しますよ」

「分かってるさ。どうせ経費だ。クライアントからはきっちり受け取って・・・・・いるし、文句は言わさねえよ」

「そんな太い・・顧客がいるならいいんですけどね。こっちは仕事を選べる状況でもないし」

「手間をかけさせてすまんね。一仕事終わったら酒でもおごるよ」

「期待しないでおきますよ。消すなら消すで早めに連絡くださいよ。生かさず殺さずだと管理も面倒ですし、栄養入れた後に消すってなるともったいないですから」

「うん、まあよろしく頼む」


 なんやかんやとやりとりをしたが、結局の所は金次第。払っている間はしっかり面倒をみてくれるだろう。

 通話を切って自宅に戻る。途中で適当な晩飯を買う。昔懐かしのドライブスルーでハンバーガーだ。


「ただいま」


 癖で帰宅を口にするが、返事があったためしはない。が、今日は違った。


「おかえりなさい」


 悪くないな、と思ってしまった。どうかしてる。

 優しくしてやる義理も、厳しくする人情もないのに。

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