救急救命士

「バイタルチェックいそげ!! 出血がひどい、輸液をいれろ!! 腹の止血は今やってる、そっちは傷口を押さえておけ!!」


 装甲服アーマーに身を包み、胸とヘルメットに社章、肩と背中に蛇と杖アスクレピオスを背負ったメディックが怒鳴る。怒鳴りながらも手は止めない。傷口にテープを貼り、その上を包帯でギチギチと締め上げる。


「最寄りの提携病院は25キロほど先です!!」


 同行している社員がえる。


「担架に乗せるぞ、1、2、3!!」


 動力ホイール付き担架ストレッチャーに乗せられた社員は鎮痛剤と興奮剤のチャンポンで朦朧もうろうとしている。


「バイタルサインは、意識レベル10ヒトマル心拍数ハートレート212、血圧プレッシャー低下中、体温正常範囲内、呼吸数は12から38、チェーンストークス出てます」


 負傷者のスーツに繋いだ端末デバイスからメディックの一人が数値を読み上げる。


「輸液にBD拮抗薬アンチバトルドラッグを7単位追加する」

「少なすぎませんか?」

「BDが強心剤代わりになってるから、これ以上入れると危険だ」


「出られます」

「先方への連絡は?」

「受け入れヨシとのこと」

「じゃ、ゴーで」


 すべては声に出して行動する。ログとして残すのも仕事のうちだ。

 ヘリの後部ハッチに向け、動力担架が自走する。段差の衝撃を特殊ホイールが吸収しつつ乗り越える。

 直後、ヘリの轟音ごうおんが響く。メディック部隊は手慣れた様子で動力担架を収容、固定し扉を閉じた。静寂。バイタルを示す電子音だけが機内に響く。


 飛び立つヘリを見送り、負傷者の同僚が列車に戻る。

 バイザーARに表示されたリストに一人だけレッドマークがついている。残時間のカウントが無慈悲に進んでいく。

 うんざりとした様子で隊長がつぶやく。


「まだギリギリでオンタイムだ。みんな乗ったな? 仕事を続けるぞ」




「前に撃たれた時は助かったけど、今回はどうですか……」


 弱々しい声がヘリの中にこぼれる。


「大腿部の静脈と神経にダメージがあるけど死にはしないよ」

「仕事に復帰できますかね」

「それは医者に聞いてくれ。そこまで生かして連れて行くのが俺の仕事だ」


 そもそも治療は医者の仕事。治療を受けられる場所まで連れて行くのがメディックだ。


「到着まで60秒!!」

「よし、よく頑張ったな。これで治療を受けられるぞ」

「これからが辛いんですけどね」

「それだけ軽口叩けるなら大丈夫だろ。会社コープ保険インシュアランスでどうとでもしてくれるだろうさ」


 病院の屋上にヘリが着陸する。同時に医者と看護師が走り寄る。

 これまで負傷者に行った処置は音声からAIが起こしたテキストデータでタイムテーブル一覧になっている。これはメディックの処置も、スーツの保護機能で投薬、圧迫止血されたものも含めてだ。患者のバイタル変化も同様。

 これを無線データと記録メディア、プリントアウトで渡す。無線データは病院のサーバに送られカルテ化される。後から保険会社に請求が行く。メディアとプリントは現場で医者が参考にするためだ。


「はい、連絡のあった彼ですね」

「よろしくお願いします!!」


 医者はプリントアウトをめくり、流し見しながら負傷者の患部を見る。


「きっちりしてるな。あそこのメディック部門は腕がいい」


 処置室に向かう医者の後ろを看護師たちと動力担架が付いていく。


 カツカツという足音と、モーター音が廊下に響く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る