保全業

 退屈な仕事だ。

 誰もいない製造ライン。品質チェックの機械。全てがオンラインで管理されている。


 管理室でボーッとしながら仕事終わりまで過ごす。ジャンケンに勝った者の特権。負けた相方バディはスマートパッド端末デバイスを片手に各種チェックだ。といっても一日数回、〇〇をやりました、とチェックボタンをタップするだけ。


 毎日が代わり映えのしない業務。アラートが鳴ることもない。少なくとも僕がこの仕事に回されてからは鳴ったことがない。画面を見て、機械のステータスを確認して。マニュアル通り。


 この工場が何を作っているのかさえ知らない。マニュアル通りに機械を点検して、マニュアル通りに機械を整備。そしてマニュアル通りに出退勤する。たまには帰りに酒を呑むこともあるが。


 これまで何年続いてきたのか。これから何年続くのか。凄いぜ、なんせマニュアルが紙の印刷物ハードコピーだ。すくなくとも数十年は変わっていないのだろう。

 マニュアルの表紙こそラミネートされているが、エッジはボロボロ、紙は黄ばんでいる。コーヒーカップの跡まで残っている始末。どんな使い方をされてきたのやら。


 就業報告のタスクだけはパッド入力になっているけれど、このパッドだって数年モノだ。ずいぶん年季が入っている。


 突然のアラート。


 けたたましい音と共に、いままで見たことがない警告メッセージがモニターに表示される。


 いそいで埃まみれのマニュアルをめくる。相方に報告を任せ、自分は機械の対応だ。


 警告メッセージに参照ページ番号が書いてある。ありがたいね。マニュアルがボロボロじゃなければもうちょっとマシだったろうに。


 掠れたページ番号を必至に目で追いながらページをめくる。やっと目的のページだ。印字を斜め読みしてアラート表示を止める。しかし警告音は鳴り続けている。


「ええ、そうです。183ページのアラートが出ました。もう一人がマニュアルを確認して対応中です。ええ、はい、はい、そうします。では後ほど」

 相方がパッドで上司に報告したようだ。

「どうしろって?」

 一応聞いてみる。

「マニュアル通りやれって。終わったら報告の通話を入れる」

「やっぱり。なんとか読めるから俺が対応やるよ。終わったら報告頼むわ」

「了解」


 警告音が鳴り響いている。とりあえずこれを止めなきゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る