医療業務

 今日も客が来る。飛び込み客だ。往診じゃないのがありがたい。

 既に一人、処置中だがこれもすぐに終わるだろう。


「センセイ、どんな・・・ですか?」

「これならすぐに治るでしょ。化膿しちゃってるから切って入れ替え、傷口を塞いですぐに終わりますよ」

「痛くてたまらないんだ。すぐになんとかしてくださいよ」

「前にかかったお医者さん、ヤブだったんだねえ。だめだよ、ちゃんとした所で処置しないと」

「安かったし、IDは仕事のために急ぎで入り用だったもんで。次からセンセイの所でお願いしますから」


 IDインプラントの処置がよろしくなかったのだろう。まともに消毒していたかも怪しい。


「抜糸がいらない方法もありますけど、どうします? 通院一回減らせますよ」

「200ニューイェン以内で済むならそれでお願いします」

「それだとちょっとアシが出ちゃうね。218ニューイェン。やめときます?」

「それくらいなら、いま手持ちはありますから」

「はい。それじゃ患部を切りますから麻酔入れますよ」


 ガス圧注射で患部の周りに麻酔を撃ち込んでいく。

 バスッ、バスバスッ。

 ガスが開放される音が狭い部屋に響く。


「それじゃ効いてくるまで15分ほど待っててくださいね。5分後にコレを飲んで。後からの痛みを抑えてくれるから。水はここに置いときますね」

「はい。ここデバイス使っていいんですかね?」

「大丈夫ですよ」



 開放した傷口から電子部品を取り出す。血にまみれたそれは基板がき出しで、消毒以前の問題だ。


「あーコレ、IDインプラントも安物で、アンテナ以外まともにラミネートされてないですね。もう一度コレを入れちゃうってのはオススメできませんねぇ。最安のやつで12ニューイェンかかりますけど……」

「しかたないんで、その安いやつで」


 看護師に声をかける。

「はい。じゃコレの吸い出しと一番安いやつで書き換えお願い」

 ステンレスに輝くソラマメ型のトレイ、膿盆のうぼんごとIDインプラントデバイスを渡す。看護士は無言で受け取り、隣の部屋へ向かう。

 傷口を洗いながら書き換えを待つ。数分もかからない作業だ。

 紫外線灯で消毒され、フィルムが被された膿盆が運び込まれる。

 フィルムを手早く取りながら患部を覗きこむ。


「患部はそんなに酷いことになってないから、そのままいけますね。ID位置は変えなくて済みますよ」

「そいつはよかった」


 非接触IDは読ませるときに慣れた位置がある。うっかりエラーが出ると面倒くさいものだ。

 患部に一回り小さくなったIDインプラントを納め、生体適合性糸で固定する。

 患部を生理食塩水で再度洗う。皮膚を広げていた多腕鉗子を取り払う。

 無縫合パッチで傷を合わせ固定、フィルムで患部を封入する。


「はい、終わりです。一週間は患部をねじったり力を入れないように」

「仕事は……」

「力仕事は無理ですね。悪いことはいわない、休んでおきなさい。スカベンジくらいならいいけど、フィルムには絶対に傷が入らないように。またここに来て金を払うことになりますよ」

「そいつは勘弁」

「痛み止めと化膿止め出しておきますから。3日して違和感が消えないようだったらまた来てください。あと保険インシュアランス、入ります? 一番安いヤツで月20ニューイェンからの掛け捨て。病気怪我の外科手術が半額負担になりますよ」

「そこまでは余裕ないんで」


 一礼して患者が出て行く。

 実働で15分ほどの処置、全体でも一人時程度の仕事だ。現金リアルマネー払いの客だとたいした儲けは出ない。本命は次の手術だ。

 銃撃された患者がこっちに向かっている最中。企業コープのバックが付いてるし、保険もばっちり。支払い拒否なんてさせねえぞ。さて、どれだけふんだくろうか。


 手術の手順を思い描きながらスキャナを起動、処置室を出る。

 ドアの横にある滅菌ボタンを押した。

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