第4夜「視線」

 Aさんは宅配のバイトをしています。

 いつものように一軒一軒配達をしているとき、いっしょに回っている後輩からこんな話を聞きました。

「○○公園の裏にある家、この前、宅配したんですけど、なんだか不気味なんですよね。不在なのにどこかから見られている気がするんです」

 自分のシフト時も何度か前の道を通りがかったことはありましたが、直接宅配したことはありません。とはいえ、昨今のネット通販の隆盛もあり、訪ねてみると不在なんてことは珍しくないですし、なぜか居留守を使われることも、ままあることです。どこかから見られているというのはちょっと奇妙ですが、対人恐怖症という可能性もあります。最近は、戸建て用の宅配ボックスやコンビニ受け取りもあるため、直接会えなくとも受け取る手段はありますから。

 ですので、その時は、気のせいじゃないの、とだけ答えました。

 数日後、自分の担当にその家があることに気付きました。

 金券が包まれている感じの小さめ荷物だったのでそのまま手に持ち、近くの駐車場からその家へと向かいました。

 建物もさほど古さはなく、平日昼間ということもあり、特に不気味さを感じるということもありません。

 入口にある小さな鉄柵の門を開き、コンクリートの階段をタン、タン、タンと昇ります。

 そして、玄関右側にある呼び鈴を押す。

 ピンポーン。

 家の中に音は鳴り響いていますが、反応はありません。不在だなと、不在連絡票を取り出し書き始めたその時、上の方から強烈な視線を感じました。

 もしかして後輩の言っていたのはこのことだろうか。誰かいるのかなと見渡しましたが、誰もいません。

 やはり気のせいかと思い、帰ろうと振り向いた瞬間、ギョッとしました。

 空中に顔が浮かんでいるのです。

 来るときには見えなかった玄関のひさしの裏側に、女性の真っ白な顔だけが宙に浮かんだまますごい形相で自分を睨んでいます。

 逃げなきゃ。転びそうになりながら駐車場まで逃げ帰りました。

 ようやく振り返りましたが何もいません。付いてきてはいないんだ、と安心しました。

 ところが、あぁ、助かったと右手を見てしまったと思いました。荷物を置かずに戻ってきてしまったのです。

 サイズが小さいのだから郵便受けにでも投げ込んでくればよかった。

 その時、ふと、送り主が目に入りました。これ有名な神社じゃないか。もしかして御札?

 結局、もう一度行く勇気が持てず、荷物は持ち帰り、別の人に再配達してもらいました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る