第298話 肉壁マーゾ、覚醒




村にオークが出た。





その通報でアーネスの部隊は駆り出される。

ゆられる馬車の中にマーゾの姿はない。



(この間はちょっと言い過ぎたかな・・・)



ううん、私は間違ってない、

あの馬鹿はすぐに調子に乗る。


自分がどんなに傷ついても、嬉しそうに・・・いや、悦しそうに、笑うばかりだ。






$$$







久々の遠出に遠足気分だった私達の余裕は村の惨状を見てすぐに消える事になる。



オーク、1匹どころではない。



数体のオークの群れがゴブリンどもも配下に引き連れて、村を襲っていた。

こんなこと普通ではありえない。


想定外の魔獣の行動にパニックになる部隊



ひときわ大きなオークがアーネスの部隊の中央目掛けて突進してくる。



押し倒される盾持ち鎧の剣士達

中央の防御を突破され、散り散りに逃げ出す魔女達



逃げ遅れたアーネスは恐怖のあまり身動きが取れなくなる。

にたりと笑うオーク




(しまった・・・殺され)




振り下ろされる棍棒




痛みはない、顔を上げる。

目の前に見えるその背中、私はそれを良く知っている




マーゾ?





パンツだけは履いているが裸の男がソコに立っていた。




「あんたそのカッコ、鎧はどうしたのよ?」




「ふふ・・・置いて来た」




「は?」




「このカッコは、『敬愛する恩人マクラーレン様』リスペクトなんだぜ?」






軽く談笑する目の前の人間に

オークは、烈火のごとく怒り狂う。




より高く振り上げた棍棒、

目の前の小さな人間に、渾身の一撃を・・・叩きこむ!!




周囲に轟音が響き渡るほどの一撃がマーゾの頭上に襲い掛かる。





目の前の小さな人間は倒れない。

それどころか、


その顔、痛みに恐怖に歪む事もなく・・・




(笑っている?)





ッッ!!!!





いっっっッって、痛っっっッってええええええええ!!!






ああ・・・あああ・・・





あああああああああああああああ・・・たまらねぇ!!!







その異様な人間?の姿に、魔獣たちの空気が凍る。







マーゾは両手を挙げた状態で横移動で動く、


異様な速度で、村人と魔獣の間に、割って入りダメージを受けていく。







ッッ!!!




どんな痛みを受けても倒れる事は許さない。


倒れるって事は、立ち上がるまで遅れるってことだ。



それは・・・

そこにあるかもしれない『悦び』を

他の誰かに横取りされるかもしれないって事だろ?



その一歩、その一歩、足を前に出せ、横に出せ、後ろに出せ。




走れ、走れ・・・その快感は、全部全部、俺のモノだ!!








「マーゾに続け!!、陣形を立て直すぞ!!」






周りの鎧の剣士たちも

魔法障壁を展開して、陣の修復を図る。




同時に魔女や魔法使い達の詠唱の余裕も生まれていく。




アーネスも負けじと魔法に集中する。




水鏡を全域に展開




断罪する聖なる光ホーリージャッチメント




私の光魔法が周囲の魔獣を一掃する。

発動までの時間が長すぎるのが欠点だが、私の最強魔法だ。







$$$








怪我人を搬送する馬車の中、

隣同士のマーゾとアーネスは気まずい。



(怪我人?・・・つーか、こいつの傷もう治りかけてない?)




「ほら、アーネス!言いたいことがあるんでしょ?」


余計な気を遣う同期




う・・・うう・・・



おそるおそるマーゾの方を向く。

きっと今の私の顔は真っ赤になっているだろう



「マーゾ・・・その・・・ごめんなさい・・・この間は言い過ぎたわ」




私のやっとの思いで絞り出したセリフをふっと笑うマーゾ




「そんなことか、気にすんなよ・・・むしろ、あの時の『言葉攻め』、最高だったぜ」




・・・



「ホント、台無し!」



他の怪我人の人たちに申し訳ないと思いながら

私はそう叫ばざる得なかった。




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