第292話 テツィ先輩、馴れ初め




クラスティア魔法協会、テツィ=ロナウ

※254話あたり閑話





北の国出身の彼女はクールで、鋭い目つきに銀髪のロングヘヤ―が特徴で

背丈ほどの大剣で敵を粉砕するアタッカーだ。





世界を飛び回る『上級魔法協会員』のひとりだが、偉ぶる様子はない

特に敬語が苦手らしく、後輩にも敬語は必要ないと最初に話す。


ただし、ナメた態度は許さないし、実際にらみが怖いので、

敬語を自然と敬語を使いそうになるのは、俺だけじゃなかったみたいで





もうひとつ、

彼女と仕事をすると必ず飲みに行かされる


彼女はお酒が大好きだが

めっぽうお酒に強く、酔ったところを見た事はほぼない。


飲み勝負も大好きで、他の客と勝負をしては

支払いを対戦相手に持たせることもしばしばであった。





「ウツロ・・・酒弱過ぎ」



ウツロのグラスはさっきから全く減っていない。




人には向き不向きがある。

持って生まれたモノには逆らえん。

たくさん飲めば強くなるという都市伝説もあるらしいが、それも効果がないことは実証済みだ。




「これじゃあ、飲み勝負にならない」



「誰が勝負しても勝てないだろ」





「ふむ・・・そんな事はない・・・私もずいぶん昔に一度・・・敗けた事がある」




テツィは

その日は珍しく自分の過去を話し始めた。







$$$








北の国、国境沿い

夜、傭兵崩れの荒くれどもの集う酒場でテツィは今日も飲み明かす。



大物を仕留めた日

だが、テツィの機嫌はすこぶる悪かった。




あの時の戦闘の一部始終、

敵の動きが鈍かったのは『何らかの魔法』のせいだ。

だが、誰だ?私の戦闘を邪魔した奴は?

傭兵の誰かなら分け前を要求しに来るはずなのに・・・不気味だ。





そこへ颯爽と





その場に似つかわしくない煌びやかなドレスとアクセサリー・・・

それらに身を包んだ青髪の女性がテツィの向かいの席に座る。




「アクアローナだ!」


「クラスティア王国、魔法協会のボス」


「どうしてこんな場所に?」




どよめく周囲





正直、私も困惑していたが、

ナメられないように余裕の表情を崩さない。




「へぇ、どんな用事か知らないけど・・・こんな野郎だらけの場所でそんな派手なドレス・・・余程の世間知らずで非常識」




少し目を丸くする青髪の女性

ふふ、と笑って言葉を返す。




「『意中のヒト』を口説くのですから、これくらいの装備は当然」




・・・?


一瞬意図が分からず考える。

『意中のヒト』=私という事?





ひゅー!!






湧きたつ周囲

(何の歓声、これ)





突然現れたこの女は、私をクラスティア魔法協会にスカウトしたいらしい。


正気か?最近名が売れてきたとはいえ私はまだまだド新人なのに



話だけ聞くと

待遇面は悪い話ではない。


私には既に家族もいない天涯孤独だ。

働く場所に、こだわりはない。






「それに・・・魔法協会に来れば、『魔鎚のミズチ』に会えますよ」







私の目の色が変わる。





「あなたの故郷の村を亡ぼしたドラクロア一味を討伐した人物・・・」





この女・・・どこまで私の事を知ってるんだか




「確かに・・・そいつの名前には因縁がある、だからどうした?そいつがドラクロアを仕留めなくても、どうせ私が殺してた、・・・私は獲物を横取りされただけだ」





私は柄にもなく激昂してしまった。

確かに魔法協会の「わけわからん奴」に仇を横取りされて

最近、生きる目的がわからなくなってきた感は・・・確かにあるが





ならこうしよう





「飲み比べだ」


私が勝ったら大人しく帰れ、この店のお代もアンタ持ちだ。



「ええ、かまいません」


でも、私が勝ったら・・・あなたを『お持ち帰り』しますわ





うおおお!

待ってました!


それ一気!一気!!




周囲の空気はヒートアップしていく。




どれだけ時間が経ったろうか

あれだけお酒を煽ったのに・・・この女、顔色ひとつ変わらない・・・化け物か?


流石にしんどくなってきた。




「・・・私よりお酒に強い奴が居るなんて思いもよらなかった」




「いいえ・・・あなたの方が強いですよ」










「だって私・・・水魔法で解毒しているので、酔わないんですよ」






はああああああ!?




そんなのイカサマだ、そう叫ぼうと思った瞬間に意識が飛んだ。






$$$







「・・・という事があった」



そんな自分の恥を話すなんて珍しい。

今日のテツィ先輩は見た目より酔っているみたいだ。



そして、俺のお酒は一向に減る気配はなかった。




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