第268話 キョウサク村の謎生命体 その2




【カボチアン】





それはとある高名な学者によって名付けられた学名である。

彼らの見た目は頭に大きなカボチャを乗せた筋肉質な人間だ。

数十名発生し、

声を発することができず

狂暴ではなく、むしろ紳士的

キョウサク村のカボチャの収穫時期になると、どこからともなく現れること以外

何もわかっていない。



「ほら、収穫時期近いから、最近うろうろしてるじゃない?カボチアンさん達」



たまに家事も手伝ってくれるし

いい人達でねぇ、

前に盗賊に襲われた時も撃退してくれたし、とっても強いんだよ




ノミンは動揺する。




(何コレ・・・怖ッ)




そういえば、記憶が結構ある

高い木に登って降りられなくなった時に助けてもらったり

反抗期だった時期、日暮れまで殴り合って一緒に夕日を見たり




ああ、それ・・・

俺が・・・『精神的に追い詰められて病んでるだけ』かと思っていた・・・




生まれも育ちもキョウサク村だったから

それが当たり前だと思っていたけれど


今更ながら異常事態だとわかる。





$$$






「俺は、魔獣かもしれない謎生物に手伝ってもらうなんて、断固拒否するッ!」




盾と防具の注文数は多く

一人で仕上げるのはとても大変だが

ノミンは彼らに助けを乞うのを頑なに拒んだ。




「こらッ ノミン カボチアンさん達に失礼だよ」




「ごめんなさいねぇ、ウチの息子が年頃で」


カボチアンに話しかける母親

手のひらを上にあげてジェスチャーする彼ら


(意思疎通している・・・)





ノミンは代わりに村の人々に声をかけた。

だが、彼らも別の作物の収穫に手いっぱいで

ノミンを手伝えそうにない。

何より、ノミンの作ろうとする盾や防具が高く売れる事に懐疑的だった。




俺がやらなきゃならないんだ。




今回の注文で大金を持って帰れば、村の人たちだってきっとわかってくれる。




満月の日、

ノミンはカボチャを収穫して作業をたったひとりで進めていく。

軟らかくなっているとはいえ固いカボチャ

作業は全然進まず、

焦りばかりが募る。


日頃の疲れも出て、眼が霞んできた。



ダメだ・・・寝ちゃ・・・




・・・



・・





気か付くと

ベットに寝かされていた。

日が高く上っている。

(寝過ごした)





工房に駆け込んで、目に飛び込んできたのは

たくさんのカボチアン達が盾と防具を作製する姿だった。

仕上げもノミンがおこなう物より洗練されていた。



「ノミン おはよう あんたが倒れちゃったからカボチアンさん達が集まってくれたよ」



ぽたぽたと

目から涙がこぼれてきた。


ああ、そうだ


俺は信用されないと嘆きながら、自分でも同じことをしていた。




「すまない・・・疑って、すまなかった!!」





泣き崩れるノミンに

カボチアンのひとりが手を差し伸べる。



『お前はこの村のカボチャの可能性を信じて、毎日毎日畑を耕してくれた、俺たちは、それに感謝している。・・・これくらい容易いことさ・・・『恩を返すのがキョウサク村の誇り』・・・そうだろ?』


という内容を言っているように感じた。



・・・ああ、そうだな!



ノミンは涙をぬぐって立ち上がる。






$$$






今夜も

闇夜に紛れて盗賊たちが村を狙う。



げへへへ



「この辺は盗賊狩りの魔法協会『カボチャ鈍器』が出没するって噂だが」


「なに、どんなに強かろうと たった一人で 何が出来る」


「俺たちは30人もいるんだからよぉ!!」


「違ぇねぇ!!」

「うおぉ!」

「うおぉ!」





「悪いが、今夜の俺はひとりじゃない」




盗賊の前に立つ

ノミン=ファーマ



「・・・何言ってる・・・お前に仲間なんて・・・!?」



盗賊達はノミンの後ろに控える軍勢に気づく。

カボチャ顔の人間

いや、これホント、人間?



「さぁみんな、盗賊たちを殲滅する」





『カボチャの収穫時期にキョウサク村に近づくのは自殺行為』


それ、盗賊界隈で一番言われてることだから



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