第249話【ラグベール過去編】死んだ想い人
ホビル王に仕える『宮廷魔術師ハンク』の名は高まるばかりだった。
王の名の下、偉ぶって腐敗しきった軍隊の中で
彼だけが民衆の盾となって行動し、
どこへでも駆けつけて魔獣を倒し続けた。
彼が王になるべきではないか、民衆の中には内心そう思う者もいた。
だがしかし、そんな噂をしようものならば、
軍につかまり首を刎ねられてしまうことは避けられないだろう。
民衆は、王の圧政に震えるばかりだった。
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ハンクは今日も王から勲章を授かる。
帰り道、
城の廊下を歩く。
ハンクはため息をつく。
内心・・・
ここにはあまり顔を出したくない。
貴族の長男だった頃の事を
否が応でも思い出してしまうからだ。
「ごきげんよう、ハンク様」
綺麗な女性とすれ違う。
軽く一礼し、その場を去る。
・・・
ラグールは
廊下の影からハンクに話しかける。
「あの女」
「第5王妃のヴェネット様だ」
「・・・知り合いか?」
「昔・・・俺の許嫁だった人だ」
「あれからも やはり・・・微弱な魔力しか 感じぬ」
「当たり前だ、不浄人だったら追放されている」
「・・・」
「・・・」
「・・・あの
・・・ば・・・馬鹿を言うな!!
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思わず叫んでしまったバツの悪さから、場所を変える。
「・・・落ち着いたか?」
「・・・ッ」
「はは・・・思わぬところで貴様の弱点を見つけることができて、気分が良い」
「お前性格悪いな」
ここは、王宮の外れの庭園のようだった。
植えてある花はどれも枯れ落ちてしまっている。
ここも懐かしい・・・
ヴェネットと一緒に遊んだ場所だ。
昔はランプ花が年中咲き乱れて綺麗な場所だった。
「ランプ花は大気中の生物の魔力を少しづつ吸い取って咲く花だ」
ここには魔力を供給する者が少ないからな。
枯れるはずだ。
・・・ほぉそうなのか
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ヴェネットは王宮の外れの庭園へおもむく。
ランプ花の手入れをするためだ。
『あの人』が不浄人として追放されてからずっと手入れをしてきた。
でも花は一向に咲く気配がない。
それでも毎日毎日欠かすことはなかった。
さて今日も水やりを・・・
・・
・・・
・・・・
花が・・・
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「お待ちください!!」
ヴェネットが
息を切らせてハンクを呼び止める。
「・・・姫、いかがされましたか」
「もしかして、あなたが・・・あの庭園の花を蘇らせて下さったのですか?」
・・・見られてた!?
え・・・あ・・・いや・・・・・・
「はっはは、私の魔法にかかれば、この程度容易いこと」
「・・・ふ・・・ふふ・・・ふふふふ」
ヴェネットは微笑む。
その上品な美しさにハンクはさらにたじろぐ。
・・・
「お見苦しい所を・・・失礼いたします」
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「・・・あの
ラグールの言葉が胸に刺さる。
俺が彼女を奪っても
彼女が幸せになれる保証がどこにある。
この国の王に見初められたんだ。
それ以上の幸せがあるものか。
彼女を守る、そう誓った。
そうこれが正しい。
でも、
もし魔力なんか無ければ
ヴェネットと婚約して・・・
幸せに暮らしていける未来もあったんだろうか
ハンクは唇を噛み、王宮を後にする。
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