第250話【ラグベール過去編】ホビル王の誤算




久しぶりに遠征から戻ったハンクは上機嫌だった。





懐に珍しい花の種を忍ばせ、

誰にも見つからないように花の種を蒔く方法を

頭の中で模索する。



花壇のランプ花は枯れかけていた。



魔力不足というよりは水を与えていない様に見える。

もしやヴェネット様の体調が悪いのだろうか。



城内の女中に彼女の様子を尋ねる。




・・・




帰ってきた言葉を上手く飲み込むことができなかった。






$$$







ハンクは力なくその場に倒れこむ。


顔は真っ青で、

意識は朦朧として、

心臓が痛いほど脈打っているのがわかった。





ヴェネットが処刑された。





そう聞かされたのだ。




なぜ?なぜだ?

表向きは、彼女の父親のつまらない濡れ衣が原因だと聞かされた。




「私の持ち物をどうしようと私の勝手だろう?」




それが謁見した王の言葉だった。

王にとっての彼女はその程度の存在だったという事だ。


強く握る手から血がこぼれる。



もしかしたら、



俺のせいかもしれない。

彼女と仲良くしていた所を見られて王が嫉妬して、


結局、

俺さえいなければ、こんなことにならなかったかもしれない。




「いいかげんにしろ」





見かねたラグールが声をかける。


「そこまで『愚か』が過ぎると、もう笑えんぞ」




「・・・」




「もっと単純に考えろ、愚物クズが我々に喧嘩を売ってきた・・・ただそれだけだ」




・・・




見上げる空の月は灰色だった。

何処か霞んでいるそれは、まるで自分のようだった。



正直、

不浄人であることも、追放されたことも

必死に魔法を覚えたことも、魔獣を討伐していたことも

そんなことすらどうでもいいことだった。



彼女がずっと生き続ける



それだけが、この俺の願いだった。





「ラグール・・・・・・王を殺す、お前の封印を一時的に解いてやる」




ようやく決心したか


ああ、いこう、あの偉ぶった無能を消し炭に変えてやろうぞ・・・







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「王よ・・・ハンクの顔をご覧になりましたか」


「奴は、元より貧民街出身の不浄人とのうわさ」


「この辺りで、始末してしまうのが賢明かと」




「・・・ふん、アレもそろそろ潮時か」




いくら魔法が上手に使えるからといって、

王の持つ軍隊と事を構えることができるほどハンクは強くない。



ホビル王は冷静だった。



ただし、誤算があったとすれば、

国ひとつなど軽く滅ぼすことができる『魔人』の存在であった。




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