第232話 キョウサク村のカボチャは刃を通さない




魔法協会、二つ名『カボチャ鈍器』




その時代、

クラスティア王国は戦争が終わったとはいえ、

辺境では、まだまだ治安が悪く食料供給が不安定だった。



俺の名前はノミン=ファーマ、農民だ。

辺境のキョウサク村に住んでいる。

土地が痩せたここではカボチャぐらいしか育たず、村は貧しい。


カボチャを乗せたリアカーを引いて街を目指す。




くすくすと笑い声が起きる。

「キョウサク村の男、また来ている」


「呪われた土地の食べ物なんて誰が口にするのかしら」



「なぁ、あんちゃん」




カボチャか中身を見てもいいか?




黙って頷き、カボチャを渡す。




ガキンッ!




大ぶりのナイフの刃が折れる。

そんな強度の作物は、野菜と呼べるのだろうか・・・


ドン引きする周囲

乾いた笑いが起こり、その後、誰一人彼に声をかけようとしなかった。






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キョウサク村がこうなってしまったのはいつからだろう。


売り物になりそうな作物は育たず、土地は荒れるばかりだ。


だが、カボチャだけは不思議と良く育つ。

ただし、どれだけ煮ても刃物が通らなかった。




「・・・」





空腹で眩暈がする。



「!?大丈夫ですか?」


優しい女性の声だった。





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ノミンに声をかけたのは街のシスターさんだった。

まだ若い彼女は教会を年老いた司教とふたり、教会を切り盛りしている。




「すまない、食事までご馳走になって」




「そんな御大層な事はしておりませんよ、どうかお気になさらずに」




ウチの村には、『一宿一飯の恩義を返さなければならない』という掟がある。

「その・・・すぐは無理かもしれないが、ぜひお礼をさせて欲しい」



「・・・ええ、その時を待っていますわ」

優しく微笑むシスターの姿に体温が高くなるのを感じた。






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借りた納屋で眠る。

この時期の夜は冷える。



村はもう終わりだ。

次に移住する土地を考えなければ



まるで、

自分が世界から のけ者に されている様な感覚

酷く酷く、凍えるように寒かった。




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