第229話【星屑祀編】では、ごゆっくり



夜空に浮かぶ星という物にロマンを感じるか?




この俺ウツロ=ハイイロの答えは『否』である。

理由はひとつ、行商団でカルロに教わった知識が悪影響を及ぼしている。



行商団の野営は近くに光源がなく

それはそれは満点の星空を眺めることができた。



「いいかい、ウツロ、行商人にとって星から得られる情報は多いんだよ」


「それって、方角が正確にわかるとか?」


「それは、重要、他にもまだまだある。・・・例えばあの星、赤く光っている場合は、西の国全体の麦が不作になると信じられていてね」




「・・・そんなことまでわかるのか?」




「私もあまり信じていなかったんだけど、レブルス系の行商人は信じてる奴が多い。だから、本当に先物取引に動くんだよ・・・だからそこに逆ハリしてこっちが先に少しでもおさえると・・・」



カルロの講義は長々と続いた。



その日を境に、星という物が、『酷く俗物的なもの』にしか見えなくなってしまった。ラグベール城に居た吟遊詩人たちの神話や幻想的な話など銅貨一枚の価値もないと言わんばかりに・・・




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星屑祀期間中、

ミラとの待ち合わせ当日、

今日は仕事が休みだ。



夕刻までの待ち時間、

ウツロはそわそわと落ち着かない様子で廊下を行き来する。



下宿屋の老婆は訝し気にその様子を見ていた。



「どうした、ウツロ?」


「別に」



「・・・」



「ふむ・・・・女か」



ぶっ・・・げほげほ





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「ウツロ先輩、お待たせして、すいません」



パコパコと鳴る靴音

ミラの服装は、白い衣装にブレスレットと多彩な髪留めと・・・とにかく、ばっちりキマっていた。


それに引きかえ、俺の服・・・普段着どころか寝間着も兼ねている。

少しバツが悪い気がした。



「こっちこそ、なんか悪い」

「?」




中央広場の方で

巫女が供物を捧げる催事と歴史についての歌劇が始まる。

人が多過ぎるそちらの方は遠巻きに見ながら

お祀り用のご馳走に舌つづみを打つ。


贅沢に香辛料を使うそれは、とても美味しかった。


ミラは終始ごきげんで

手をつないだり、腕を組んだりしていた。





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空の星は不思議な色を放っている。

これが星屑の夜ってやつか・・・


ミラに連れられて、街の高台に向かう。

星屑が良く見える良いスポットがあるらしい。




「おやおや、ウツロさんとミラさんじゃないですか」




ローベルさんに唐突に声をかけられる。

ここで露店を開いているようだ。




「へい、お客さん、高台に行くんでしたら、こっちの道が近道ですぜ」




「・・・」

ミラの靴で坂は辛そうだな


「よし、こっち行こうぜ」

俺はミラの手を引く。




ローベル「ふふ・・・では、ごゆっくり」




ごゆっくり?





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しばらく歩く。

ランプ花の咲く茂みの道は夜でも明るい。



茂みの中・・・

男女のまぐあいのような

怪しげな声が聞こえてくる。



「・・・」

あーこれってそういうことなのか




「!」




ミラも気づいたのか

顔が真っ赤に染まり、湯気も出てきている。



「ウツロ先輩・・・覚悟は・・・出来てますから」



袖を掴む力が強くなる。

消え入りそうな声でつぶやく。



(何の覚悟?)




「・・・当初の目的忘れんなよ」



ミラの手を引っ張り元の道に戻ることにした。




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