第219話【エレノールさん編】ウツロ北支部へ




ウツロが北支部に異動になった頃の話





馬車に揺られて、

クラスティア王国北部の街、ミストクラノスを目指す。


ウツロの顔は浮かない。

いや、どん底まで暗い顔をしていた。



左遷・・・



その言葉が頭をちらつく。

リムガントでそこまで高い地位に居たかというと

下っ端だったが・・・


だが、なんとなく、

『いらない子扱いされて飛ばされた』という疑念が心を支配していた。



・・・



男子寮の自分の部屋に荷物をおろし。

備え付けのベットに横になる。


はぁ・・・


昼間は北支部に挨拶だけは済ませた。

経理?の女の子が、俺を殺すかのような眼で睨んできたな・・・



なんだあの子・・・

初対面だろうに、俺何かしたかな?





いらない子か・・・

移動中の事を思い出して少し涙目になる。



大した武勲も上げられず・・・

無為に過ごす日々・・・



行商団のことを思い出す。



カルロと大喧嘩して別れて

こんなところで、何やってんだろ






$$$







リムガント魔法協会本部

朝早く、エレナは車いすでオフィスまで移動する。

(・・・遅く来ると混雑で、車いすが迷惑ですし)



車いすに装備された長い棒

槍であった。




魔槍グリーバルム・・・





幼い頃からの相棒

魔武器であるこの子と一緒に

魔法協会魔獣討伐部でずっと仕事をしてきた。



今は・・・

ちょっとした物を取るときにとっても便利だ。


私の場合、手よりも、槍先の方が器用まであるし



もちろん、刃先にはカバーを取り付けていますよ。



『・・・』



魔槍の機嫌が悪い・・・

ちょっと、怒っている。




昼休み、




廊下の先、

給仕の人が

来客用のワイングラスを大急ぎで運ぶ。



「高価なワイングラスが!!!」



慌てて手を滑らせる彼女




ふっ




槍先に乗るグラス


くるくると回転して割れることなくテーブルに戻る。




「・・・ありがとうございますっ、さすが絶槍エレナさん、達人の槍捌きですね」




「・・・ええ・・・お褒め頂いて光栄です」

ぎこちない笑顔で返す。




・・・




もう・・・

この子が武器として使われることはないのかな・・・


いや、優秀な後継者に引き継いで・・・



『・・・』




また、悪くなる魔槍の機嫌


(そう、まだ私と一緒に居たいのね)


エレナは目を細める。






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