第132話【行商人編】詐欺師の交渉術
行商団は・・・
盤石な組織とは言い難い・・・
苦労して運んだ商品が安く買いたたかれることだって少なくない。
それでもいつか夢に見る・・・
大儲けして、どこかの国に定住し、のんびり暮らす未来を・・・
$$$
「これ以上のお金は出さない・・・」
大勢の護衛に囲まれ、ピカピカの礼装に身を包んだ長い耳の男の子・・・
エルフ貴族のお坊ちゃんは・・・そう冷たく告げる・・・
今日は、エルフ国の辺境領主に品物を納入する日だった。
領主はこの時期、街へ品物の買い付けにやってくる。
クラスティア王国から仕入れた珍しい品を高く買ってもらうはずだった・・・
突きつけられたその価格は相場と比べても明らかに安すぎだ・・・
「こんなガラクタ・・・お金を出すだけで有難いと思うんだな・・・下賤な人間風情が・・・」
ウツロより一回り小さい彼は冷たい口調で言い放つ。
その状況を後ろで見ていた・・・
表情には出さないが・・・カルロが困っている・・・ひしひしと感じた。
いつものカルロなら・・・
真っ向から戦って口論をしただろう・・・
だが、相手は・・・西の国で権力を持つエルフという種族で・・さらに貴族だ・・・無理に事を構えるのは得策じゃない・・・
絶対に覆らない立場の上下・・・格差・・・
どうやっても あがなう ことなんて・・・できない・・・
チラチラとあたりを見回す。
ふと・・・
後ろに レーベル婆さん がいるのが目に入る・・・
俺の顔を見るや・・・レーベルは、にやりと笑い、
「ワシに任せろ」と言わんばかりの顔で親指を立て、こちらへ ずんずん やってくる・・・
え・・・おいおい・・・
$$$
「お主・・・ レ ベ ル が 低 い のぉ」
取引先のお客様に言い放つ第一声だった・・・
あまりの突然の声に周囲はシーンと静まりかえる・・・
レーベル「そこのエルフの
その悪意が自分に向けられたものと知り、
エルフ貴族のお坊ちゃんは激昂する。
「僕がレベルが低いだと?・・・人間風情に高貴なエルフのことが、わかるわけがない」
「ワシは由緒正しきレベルアップ祈祷師じゃ・・・ワシにかかればどんな存在であろうと・・・その人物の本質が見える・・・見えるんじゃよ。」
「僕は!!・・・僕は!!!・・・誇り高きエルフだ・・・魔力もずっと高いし、魔法だって一流の家庭教師に習っている・・・どうだ、レベルが低い要素なんてどこにもないんだよ!!」
「何のレベルが低いか・・・それは・・・お主が一番・・・よくわかっておるじゃろう?・・・今この場の大勢の前で発表してしまっても良いが・・・それもいささか忍びないかの」
「・・・」
エルフの表情に焦りが見える。
何か思い当たる節があるのだろう・・・
カルロ「・・・あの・・・お婆さん・・・その辺で・・・」
カルロが止めようとしたが、レーベルさんは構わず続ける。
「もし・・・レベルが高いと証明するならば!!・・・そうじゃな手始めに・・・この商人たちに『豪気な様』を見せつけてみよ・・・まさか・・・みみっちく値切ったりなど・・・しておらんよな?」
「ッ・・・・」
怒りで顔を真っ赤にするお坊ちゃん・・・
口をパクパクさせて・・・
ふーと息を吐く・・・
「いいだろう・・・おい商人、さっきの言い値で買ってやる・・・さっさと契約書を寄こせ!!」
こうして・・・
交渉は一転、大成功となった。
後に聞いた話であるが、
このエルフのお坊ちゃんは父親に商売を任され、今日が初めての交渉だった。安く買い付けて褒めてもらおうと鼻息が荒くなっていたらしい・・・取引先の諸事情とはいえ、なんとも迷惑な話だった・・・
$$$
カルロ「お婆さん・・・ありがとう・・・本当にありがとう」
レーベルに抱き付く、カルロ・・・
レーベル「この程度、なんてことはないわい・・・小僧がな、子犬のような目で助けを乞うもんじゃから・・・助けに入ったまでじゃ・・・ははは」
子犬の目なんてしてないし・・・
カルロ「ウツロもありがとね」
ウツロの頭を撫でるカルロ・・・
なんとも釈然としない・・・
まったく・・・
あんな無茶苦茶な方法で取引をまとめてしまうなんて・・・
流石、詐欺師といったところなんだろうか
中身が空っぽの詐欺師なのに・・・
意味が分からない・・・
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