第134話【行商人編】魔力さえあれば・・・



ウツロは走る・・・




試しに剣を振る・・・スパッと大きな木の幹が斬れた・・・

かなり魔力を込めて撃ったのに・・・

もう、魔力が満タンに戻っている・・・



ヤバい・・・今日は負ける気がしない・・・

心なしか・・・足まで速くなってる気がするッ




$$$





目が覚めると・・・縛られて運ばれていた・・・



周りは夜の森だった・・・

枝葉の隙間から、小さな三日月が見えた・・・



エルフ貴族のお坊ちゃんは暴れて抵抗したが・・・

彼らは容赦なく、腹を蹴り上げた・・・

「ぐふっ・・・痛い・・・痛い・・・」

「お前は人質だ、大人しくしていれば・・・命までは取りはしない」




「・・・はん・・・あの厳格なお父様が・・・僕を助けるためにお金を払う訳がないだろう・・・」




「・・・くくく・・・はははははははは・・・」

4人の部下とリーダーらしき男は大笑いする。


「あれだけ『たくさんの護衛』に守られておいて・・・よく言う・・・お前は余程『大事にされて』いて・・・余程『弱い』と思われているんだろうさ・・・」





・・・

今まで気づかないふりをしていた・・・

わかっていた・・・

お父様は・・・自分の事を・・・


涙がポロポロ流れ出していることに気づく・・・



悔しい・・・力のない自分が・・・悔しい・・・



「こいつ、めそめそと泣き出したぞ」

「ははははっは・・・」



・・

・・・

・・・・




「ッ・・・・ぎゃあああ、痛ぇ・・・足が・・・足が・・・」




盗賊のひとりの悲鳴とともに

乱暴に地面に叩きつけられるのを感じた。


剣を抜く、盗賊たち・・・




戦っているのはたった一人だった・・・

あれは・・・行商人の女の後ろに居た・・・『子犬の目をした弱そうな男』・・・ウツロとかいう名前だったか・・・


一瞬で、4人の部下の足を傷つけて行動不能にした・・・




リーダーの男イビキは・・・じりじりと間合いを測る・・・




組み合う剣・・・体格の差を利用してイビキが相手を突き飛ばす・・・

距離が離れた瞬間、鋭い風切りがイビキを捉える・・・寸でのところで『魔法障壁』を展開して防御する・・・



ニヤリと笑う・・・ウツロ・・・



2発ほど風切りを撃ちこむが・・・魔法障壁を突破できない・・・



ウツロ(へぇ・・・魔法の盾みたいなものかな?・・・今ならこれも斬れそうな気がする・・・いや・・・斬るなんて面倒だな・・・)






もっと・・・すごい魔法・・・

あの盾を『すり抜けるような風切り』が撃てればいい・・・






イビキ(くそ・・・もっと魔法障壁を中央に集中させないと割られてしまいそうだ・・・あと少し・・・あと少しで・・・左手の『睡眠魔法』を発動できる・・・これで・・・俺の勝ちだッ)






ウツロが剣を振る・・・

その風切りは魔法障壁をすり抜けて・・・イビキの肩口をバッサリ切り裂いた・・・



ぐああああ



上がる悲鳴をよそに、

男の子はウツロに抱えられ・・・その場から一目散に逃走したのだった。



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