明日

明日

　おはようございます。

　本当に良い朝でございますね。今日も張り切って参りましょう。

　さあ、初めはどうしましょうか？朝起きたらまず何をするんでしたっけ？ああ、そうそう。まずは顔を洗って歯磨きをするんでした。そのためにはまず目を開けて体を起こしベッドから降りて部屋のドアを開けたのち、階段を下りて洗面所へと向かわなければいけません。さあさあ急いで。お日様は待ってくれませんよ。それが終わったら朝食を食べましょう。いつもは抜きがちですが、今日はいつもより少し早いので余裕を持って食べられそうですね。今すぐにあなたが起きることができれば...の話ですが。お味噌汁に...白いご飯、それからそうですね、たくあんなんてどうでしょう？ほら、お腹が空いてきたんじゃありませんか？朝ご飯を食べたら、着替えをしましょう。いつものように、友人に着る順番が変だと笑われてしまう着替えを。まずはブラジャーをつけて、それから真っ白いインナー。あ、しまった。私としたことがすっかり忘れていました。いつも着ているインナーにはこの間お醤油を零してしまったのでした。うっかりうっかり。まあでも所詮インナーですし、バレませんよね。少し頑張って買ったタイトスカート...おっと、また腰まであげてしまってからシャツを着るのを忘れてしまいそうになりました。スカートの中にシャツの裾をしまうのだから先にスカートを履いてしまってはいけませんよね。さあてしっかりとスカートのチャックをしめたら、ストッキングを履きましょう。いつもここで友人には笑われてしまうのですよね。ストッキングが履けたらジャケットを羽織る前にお化粧と髪のセットをしなければ。今日は時間に余裕がありそうですから、いつもみたいに急いで失敗してしまう心配はありませんね。せっかく女に生まれたのですから、自分を良く見せようとする努力は怠っていはいけませんね。さてさて、満足のいくお化粧ができたのなら長めの髪を後ろの少し低めの位置でふんわりと縛って、鏡で全身を確認しましょう。大丈夫そうですか？ではスーツのジャケットを羽織って仕事用の鞄を手に出発しましょう。パンプスを履いて...おっと、家を出る前に一度持ち物を確認しましょう。お財布に、携帯電話、ハンカチ、ティッシュ、お色直しポーチ、折り畳み傘、小腹が空いたときのためのお菓子、筆記用具。よしよし。それでは、しっかりと確認できたのならしっかりと施錠をして駅へと向かいましょう。

　今日はいつもより数本早い電車に乗れそうですね。きっといつも乗る電車よりもずっと空いてて快適でしょう。ただし居眠りは厳禁ですよ。降りる駅は終点ではないのだから。さて、目的の駅に着いたら少しだけ歩きましょう。最近やっとパンプスのヒールにも慣れてきました。駅を出て、目の前の信号を渡り、右に曲がってまた信号を渡ります。そのまままっすぐ歩いたなら、一階にコンビニがあるビルが見つかりますね。さあ、今日もお仕事張り切っていきましょう。

　長い長い午前勤務を終えたら、ランチタイムです。お弁当を作る時間はいつも通りないと思うので、今日もコンビニで...いえ、今日はちょっとだけ奮発して近くのパスタ屋さんへ行きましょうか。たまには贅沢もしたいですよね。パスタが来るまでの時間は、折角なのでちゃんと休息に使いましょう。焦ってしまうと、余計にミスが目立ってしまいます。パスタと一緒に注文したカフェオレを一口。窓の下を眺めながら明日に想いを馳せてみるのもいいかもしれませんね。

　楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいます。お仕事に戻らなくては。

　さあ、午後勤務を終えたのなら楽しい時間がやってきます。今日は友人と飲みに行く約束をしていたのです。いつも通り、馴染みの居酒屋で馴染みの店主と談笑を交えながら一週間の疲れを吹き飛ばすように楽しみましょう。辛いことも、悲しいことも、悔しいことも...すべて忘れてしまえるように。明日も笑えるように。大好物の鳥皮や砂肝や、牛タンも頼んでしまいましょう。そして友人と他愛ない話をしたり、ハゲ上司の悪口をぶちまけたり、異性の悩みを柄にもなく相談してみたり。結婚はしたいなあ、なんて呟いてみたり。真っ白なウエディングドレスに身を包まれるのは女の子にとって一生の憧れですものね。

　すっかり酔いつぶれてしまった友人をタクシーに乗せたら、電車に乗りましょう。終電なのできっと朝よりももっと空いてて快適でしょうね。帰りは寝てしまっても大丈夫ですね。降りる駅は終点ですから。駅員さんに起こされて、慌てて帰路に着きます。夜風に晒されて、きっとゆっくりと酔いは醒めてゆくことでしょう。

　家の鍵を開けて、パンプスを脱ぎ捨てます。余裕があればシャワーも浴びましょう。おっと、脱ぎ捨てた服を洗濯するのを忘れないようにしないと。洗剤もね。メイクを落として、温かいお湯を被って...居眠りしてしまいそうです。しっかりと身体を拭いて部屋着に着替えたら乾ききらない髪のままリビングへ。お気に入りの番組をみながら髪を乾かしましょうね。ドライヤーの音で聞こえないからといつも少し大きめにしてしまうテレビの音量。今日は控えめにしておきますか？髪が乾く頃にはお気に入りの番組も終盤を迎えています。次回予告を遠くで聞きながら歯を磨いていると、洗濯機が選択の終了を教えてくれます。皺にならないようシャツをハンガーにかけて、下着とストッキングと...それからインナーもちゃんと干しましょうね。

　さて、それが終わったらもう寝る時間です。日付はとっくに変わってしまっていますが大丈夫。明日は休日です。お昼過ぎまで寝てるのもいいですが、たまには映画を観に行ったりするのもいいかもしれませんね。それから映画館の近くのカフェでゆっくりとお茶を飲んでケーキを食べて...もしかしたらそこで運命の出会いなんかもあるかもしれませんし。

　明日もきっといいことがあるはずです。楽しいことが待っているはずです。悔しいことや悲しいことや辛いこともあるかもしれません。今までもたくさんありました。それでも、生きていればきっといつか絶対に幸せになれるし、楽しい人生だと思えるはずです。

　ああ、だから、目を覚ましてください―――私。

『　――日の金曜日、大型トラックが横断歩道を横断中の女性を撥ね、死亡させる事故がありました。女性は病院に搬送されましたが、まもなく死亡しました。大型トラックを運転していた男性は―――　』