宇宙編

第21話 スピカ

 ㅤ春。あの手紙が届いてから、今年で四年目か。ワタシの宛先は決まってない。家族にも詳しい理由は話してない。


 ㅤそれでも手紙を持って旅に出る。家族と一度、お別れをする。


「いつかおれたちも乗せてくれよ」

 ㅤ宙港ちゅうこうまでお父さん、お母さん、おババが見送りに来てくれた。

「うん」

と、返事をしたけど、ワタシが乗る宇宙船は一人乗りのカータイプだ。一番安いやつ。これにワタシの運転で誰かを乗せることは現実的にできない。


 ㅤただそういう話ではないと嗅ぎとった。そしてお母さん、おババと順番に軽くハグをして、宇宙船に乗り込んだ。


 ㅤエンジンをかけると船体の真下から強い力が生まれ、上へ飛ぶ。どんどん家族の姿がわからなくなる。点になる。


 ㅤ少し涙が出そうになったけど、これは本当の別れじゃないからと、引っ込めておいた。でもあとでお父さんにメールで聞いたら、お母さんは地上で崩れていたらしい。


 ㅤ宇宙と呼べる場所に突入してからは、船体が前へ進む。卒検以来の運転になったが、感覚はまだ何となく覚えている。


 ㅤ目的場所なんかないけど、手当たり次第行ってやろうと思ってる。イスの後ろのわずかなスペースに積んだカバンの中には、生活必需品と星の人からもらった手紙。その手紙を頼りに、片っ端から探していくつもり。


 ㅤだから行くのはどこでもいい。何か手がかりを得られれば。


 ㅤそうして船を浮かべていると、前方で停止して浮遊する船があった。


 ㅤ何だろう、邪魔だなぁと左折指示を出し横を通り抜けようとしたとき、見覚えある顔が見えた。

「あれ、イバルくん?ㅤおーい」

 ㅤお話モードに切り替えて、船内から声をかける。

「おお、マァちゃんか」

「どうしたの、何やってんの」

「いやちょっと故障しちゃってね。オレの船中古だからさ」

「え、どうすんの」

「ちょっと後ろから押してくれないか、バリアモードにするからさ」

「うん、わかった」

 ㅤ背後へと回り込んで軽く助走をつけてドンと当たる。するとその衝撃のおかげか、イバルくんの船が加速し始める。

「やっと動いた。ありがとう、マァちゃん」

「ねぇ、イバルくんはこれからどこ行くの」

「さあね。とりあえず宿でも探すかね」

「エ、じゃあワタシもそうしようかな」

 ㅤそう軽く呟いたら、

「ダメだよ!ㅤオレは一人で行くんだから。マァちゃんも一人じゃないとダメだよ。何か探す旅をするならさ」

 ㅤそう怒られた。宿を探すって言っただけなのにな。


「うん、じゃあまたどこかで会えたら」

 ㅤイバルくんに別れを告げて、別々の方角へ分かれることになった。あまり良い気分ではなかったけど、同じ見えないものを探す同士、ここまで順調に来れてることは良かったなと思った。

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