第20話 ワタシはきっと旅に出る
「ありがとう、お父さん」
ㅤ宇宙船免許取得のための最終試験も無事合格し、イバルくんと別れたあと、試験会場にお父さんが迎えに来てくれた。良い報告ができてよかった。
「本当に寂しくなるのはこれからかな。とりあえずおめでとう。今日は家でゆっくり過ごそう」
ㅤワタシは助手席より、後ろの席に座る方が好き。宇宙船の中でも、宇宙教習のときや、卒検のときは助手席がないタイプの船に乗っていた。後ろから前を眺めることが、何か好きだった。
ㅤ家族と出かけるときも、お母さんを助手席に座らせて、ワタシはおババやおジジと後ろに乗っていたっけ。
ㅤだから今も、お父さんの顔は見えずに、後ろ姿だけを見て、車に揺られてる。
ㅤだけどちょっとだけ寂しいのは、今横を見てもおババはいないし、イバルくんもいない。そしてこれからワタシは、一人で運転することになるのだ。壮大な宇宙の中を。
「さあ、着いた。みんな待ってるよ」
ㅤお父さんが車を停めて、シート越しに振り返った。ワタシはうなずいて、車のドアを開けた。
「ただいま」
「おかえり」「おかえりなさい」
ㅤ玄関で、お母さんとおババが迎えてくれた。何だか久しぶりで、とても嬉しかった。
「えと、どのくらいぶりだっけ」
「二週間くらいじゃない?」
「エ、それだけだった?」
ㅤ何となく、一ヶ月ぶりくらいな気がする。教習所では集中するためカレンダーなどは見ないように過ごしていたし、あまり感覚がなく、最後の試験会場へも家に帰らず教習所のバスで行った。
ㅤだから自分の時間の感覚と時差がある。今回の場合は、思ったより早かったという感じなのかな。いずれにせよ変な感じだ。
「じゃあ早速、ごちそうを食べましょう、マァちゃん」
ㅤお母さんの声に、おババの笑い顔。お父さんに背中を押され、手洗いうがいを済ませて食卓へ向かった。
「ほら、お食べ〜〜」
「エ、ちょっと待って、嘘でしょ」
ㅤハンバーグの上にミートボールがいくつも乗っかっていた。その名も、ミートボールハンバーグ、ってそのままじゃないかい。
「どうしてこれにしたの、申し訳ないけど、他にもあったでしょ」
「だって、マァちゃんが美味しそうに食べたものを思い浮かべたら、この二つか、かき氷くらいしかなかったもの。あ、かき氷も乗せた方がよかった?」
「そんなわけあるかい。まだ肌寒いぞ。それにありえない組み合わせだぞ」
「そうかなぁ、あったか冷たいで美味しいんじゃないかなぁ」
ㅤ試してみたい方は是非どうぞ。お腹を痛めても責任は取りません。
「じゃあ、とりあえず作っていただいたので、いただきます」
「いただきます」
ㅤみんなで手を合わせた。これも凄く久しぶりに感じる。
「うん、ミートボールもハンバーグも美味しいし、ミートボールのタレがハンバーグにかかってるのもいいね」
ㅤとりあえず久しぶりの食卓は、身も心も暖かくさせた。もうしばらく、ここにいようかな。でも、行くんだ。
ㅤ眠りにつく前、星の人からもらった手紙を、もう一度読み直した。この人を探す旅に、ワタシは出るんだ。
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