第19話 卒検
ㅤ今日の卒検は、複数人乗りのカータイプの宇宙船へ乗り込む。最初は前に教官、右後ろにイバルくん、左後ろにワタシ。
ㅤ宇宙へ飛び出してしばらくしたあと、教官から運転が変わる。そして決められた星までのコースを運転する。着いたらそこからまた運転手交代で同じことをする。
「最初はイバルくんいってみましょうか」
「はい」
ㅤイバルくんと教官の席が船内で入れ替わる。そしてイバルくんが自動運転から手動運転にし、自らの手で船を動かす。
ㅤしかし様子がいつもとおかしい。
「あれ、手に汗をかくな……くそ」
「落ち着いてください、ゆっくりでいいですよ」
ㅤコントローラーを持つ手が震えてる。イバルくんでも、こんなふうになっちゃうんだ。ワタシだったら、もっと。
「よし、行きます」
ㅤ船は、ゆっくりと少し揺れながら発進した。でも、やがて軌道に乗る。真っ直ぐ進み始める。イバルくんは周りの様子もしっかり伺いながら、徐々にスピードを上げていく。
「お、いいですね、上手です」
ㅤ教官のペンが走る。今日のイバルくんの運転は、前回の荒っぽいものと比べたら別人だ。こんな運転もできるんだと驚いた。
ㅤそして、目的地についた。
「お疲れ様です、それではマァちゃんさんと入れ替わっていただきます」
ㅤいよいよワタシの番。イバルくんとワタシの席が入れ替わるとき、耳元で「お前のおかげだ」と囁かれた。なら、ワタシもしっかりやらないといけない。
ㅤ今日のワタシの手は、震えない。イバルくんも自分の運転が終わってホッとしたのか、後ろで「今日は飛ばしていこうぜ」と応援してもらう。教官が横でシッと静かにの合図をする。
ㅤワタシは、イバルくんの言う通り、少し飛ばしていこうと思った。動き出しでノロノロゆらゆらしてしまうワタシ。一気にスタートダッシュを決めて、そんな不安から解き放たれてしまおう。
「じゃあ、行きます!」
ㅤ普段より強めにボタンを押して動き出した。このくらい押しても、全然滑らかにスタートすることができた。目の前に大きめの石が現れても、慌てずに、宙返りで越えていく。
ㅤこんな感覚は、初めてだった。その後も順調に目的地を目指していく。
ㅤその途中、ワープ動作の確認もあり、一瞬の間、どこか適当なところまで飛んだ。横目でチラッと見ただけだけど、何だか綺麗な星が見えた。どこかで見覚えあるような気もしたけど、すぐにワープし直して、目指した星にたどり着いた。
「はい、お二人ともお疲れさまでした。とても上手でしたね。ワテも驚きました。まるで二人の良いところが、互いの悪いところを打ち消したような。結果は向こうに戻ってからになりますが、期待していただいて結構です。帰りはワテが運転します」
ㅤお、終わった。やった。やってやったぜ。イバルくん。と、再び入れ替わった席で横を見ると、イバルくんは寝ていた。ワテさんの嬉しい話もきっと聞いていなかった。
ㅤワタシは呆れながら、眠たくなった。そこからの記憶があまりない。覚えているのは、無事二人とも合格をもらえたこと。
ㅤその後の免許試験にも合格したこと。イバルくんに手を振って、別れたとき寂しかったこと。きっと、こんな教習所の日々を忘れやしないこと。
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