第15話 卒業

 ㅤ結局、高校を卒業するときを迎えても、一年の冬以来、星の人から手紙が届くことはなかった。


 ㅤ何だか寂しかったけど、もう終わりと告げられて、本当に終わりだった分、単なるイタズラとはやっぱり思えなかった。


 ㅤどこかにきっと星の人は存在する。どこかにきっと、キミがいる。正直、星の人は「たぶん、マァちゃんは僕のこと、誰かわかると思います。」と言っていたけど、わからない。わからないから気になる。遠くにいるから、見たくなる。


「マァちゃん」


 ㅤ卒業式が行われている体育館。隣に座るミヤちゃんが、ワタシの左手を右手で握った。


「どこに行っても、あたしたち親友だからね」

 ㅤミヤちゃんは少し涙ぐんでいるのか、式中の私語だからなのか、目は前を向いていた。ワタシは手を少し強く握り返すことで返事をした。


 ㅤミヤちゃんは、就職をして、上手くいったら木崎くんとそのまま結ばれるつもりらしい。かたやワタシは、宇宙と、星の人を目指して旅立つ予定。


 ㅤ当分の間、会えなくなるかもしれない。だけど、ミヤちゃんのことを忘れたりしない。言葉のやり取りや、触れ合いがなくなったとしても、思いがそこにあれば、きっと繋がっていられる。


 ㅤそんなことを思いながら、心でミヤちゃんにありがとうと呟きながら、卒業生全員で席を立ち、こんな歌を歌った。



「光の最中で」


 星の輝きは 永遠じゃない

 でも今は見える 夜空に光る


 いつか全てのことが

 思い出になるとき

 悔いも涙も捨てて

 飛び立てるだろうか


 卒業しよう いつか いつの日か

 卒業しよう 光の最中さなか


 夢のきらめきは 一瞬じゃない

 短く見えても 一生モノだ


 恋が芽生えた心

 引き裂かれた心

 そのどれもに残った

 靴跡を眺めた


 卒業しよう いつか いつの日か

 卒業しよう 光の最中で


 卒業しよう いつか いつの日か

 卒業しよう 光の最中で


 光の最中で



 ㅤピアノの伴奏に合わせて、合唱した。クラスが分かれ、どこか高いところから聴こえる木崎くんの歌声は、ズレていたけど、それが絶妙な(?)ハモりみたいになっていて、パワーもあった。泣き叫ぶようだった。ミヤちゃんは先ほどの涙が笑い泣きみたいになっていた。幸せそうだった。


「じゃあね、ミヤちゃん、木崎くん」

「うん」

「あのとき告白してごめんな」

「いやいや、ありがとうね」

「じゃあ、また会おうね、絶対だよ」

「うん」

「色んな人に告白したけど、今はミヤちゃん一筋だからな」

「何言ってんねん」

「痛っ」

「あはは、お幸せに」


 ㅤ校門前で、ミヤちゃんと木崎くんに手を振った。楽しそうな二人の背中を、少しだけ見送ってから、背を向けた。今になって、涙が一粒二粒こぼれてきた。ワタシはまだ、これからのこと、細かくは決めていない。決まっているのは、どこにいるかもわからない星の人を探すことだけ。


 ㅤ会いたい。話を聞きたい。誰なのか知りたい。そう考えたら、足取りも弾んできた。涙を乾かす、太陽が雲間から顔を出した。


「繋がりを大切に思うように」

 ㅤいつかの、校長先生の話。寝ぐせにスッピンで、お腹を空かせてイライラしてても、その言葉だけは妙に頭に残ってる。

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