第9話 紅揚
ㅤ葉の色が緑から紅く染まる頃。また星の人から手紙が届いた。朝、母から受け取り、まず学校へ行く。
ㅤもうワタシも手紙の存在に動揺したりしない。星の人の存在をすっかり受け入れている。誰かもわからない存在を。
ㅤミヤちゃんは相変わらず、木崎くんとの関係を続けている。軽いような感じで付き合い始めても、一夏で別れたりしていない。そういう関係もある。どんな関係でも好き合っていれば、カップルということになるだろう。
ㅤワタシと星の人との関係は、よくわからないけど、いてもらうことで安心している部分はある。不思議なことに。おみくじで大吉を引いたら嬉しいのと同じだ。根拠なんか何一つないのに、あなたはツイてるよと言われるのが嬉しい。誰かもわからない人に、好きですよと言われることも。特に危害とか加えられない限り。
「ミヤちゃんはさ、木崎くんとどんな気持ちで付き合ってるの」
ㅤそんなことを、木崎くんが教室にいない休み時間に聞いてみた。特に意味なんかないし、何か意味のある答えが返ってくるとも思っていない。
「どんな気持ち?ㅤどんな気持ちも何もない。ただ何となく」
ㅤミヤちゃんは少し目線をワタシから外して、窓から見える運動場の方を見てた。そこにはきっと、友達とはしゃぐ木崎くんの姿もどこかにあるはずだ。
「そうだよね、そんなものだよね」
ㅤワタシは納得した素ぶりで、返ってきた言葉を受け止めた。でも、本当は何もわかっていない。ミヤちゃんの言う何となくと、ワタシがイメージする何となくは違うからだ。それを察してか、ミヤちゃんは。
「マァちゃんも誰かと付き合ってみたらわかるよ」
って言う。本当にそうなんだろな。特に若い子の恋愛って。劇的なものや熱心なものもあるかもしれないけど、きっとシャボン玉みたいに何気なくフワッと出来上がって、パチンと弾けて。
ㅤ一生分の涙を流したと思ったら、また誰かと出会ったり別れたり。でもそんな気持ちをワタシは、肌で実感した記憶はない。イメージしかない。それなのに、 恋愛してみたいとも思わないんだ。本当に思わないわけじゃないけど。憧れてはいるけど。ただそれはマンガみたいに描かれた妄想に過ぎない。
ㅤいつかワタシも経験するんだろうか。ミヤちゃんが言う「何となく」を理解できるかな。
ㅤ家に帰ってご飯を食べてお風呂に入って。ベタに水玉のパジャマを着てから手紙を読む。
ㅤこんにちは。夏ぶりに書きます。秋は基本涼しい季節ですが、暑さが残りつつ涼しさもあって、体温調節が難しいです。
ㅤ軽く風邪をひいたりしてしまってから、少し秋を苦手に思う部分もあります。
ㅤマァちゃんは、どうですか。快適に日々を過ごせていますか。僕はマァちゃんが幸せならそれでいいと思います。全ての感情を手紙にすることは難しいですが、幸せでいてほしいという気持ちは嘘じゃないと思います。
ㅤ本当は僕が幸せにしたいって書けたらいいんですけどね。まぁ、もう書いていますけど。書いていますけど。ね。
ㅤまた冬になったら手紙を送らせていただきます。一方通行の手紙を。
ㅤ星の人
ㅤワタシはキミの存在を受け入れている。おやすみなさい。
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