第8話 シロップ

ということで、カキ氷を食べることにした。


「お母さん、まだ?」

「今やってるから」


 ㅤお母さんは台所でピンクのTシャツの袖を肩までまくり、ギーコギーコと手動カキ氷機を縦に回す。


 ㅤワタシは背中越しから、削られシャッシャッと落ちていく氷を眺めたり、お母さんに適当にチャチャを入れたりして楽しんでいた。


 ㅤ家で作ったカキ氷を食べるなんて、久しぶりかもしれない。なんて思っていると。


「そういえば、シロップが切れてるから買ってきてよ」

「エ、ないの?ㅤそれ早く言ってよ」


 ㅤワタシはすぐにでも食べる気でいたのに。ただ氷のまま食べるのは嫌だったから、お駄賃と買い物袋をもらい素直に急いで出かけた。


 ㅤたぶん走って数分のコンビニにシロップは売っているはず。自動ドアが開くと同時くらいの勢いでコンビニの中へ飛び込んだ。


 ㅤするとシロップはイチゴ味とメロン味がある。ワタシはイチゴ派なんだけど、メロン派の人も家族にいたかな?ㅤそう思って迷いなく二つ買って、商品を受け取ると同時にロケットスタートで帰宅した。


 ㅤ氷が溶けるのは早いからね。夏があっという間に終わるのと一緒で。とか適当言ってみた。


「おかえり。できたよ、ほら、シロップかけて」

「ただいま、こっちは先に冷蔵庫入れておいて」

「あれ、メロン味も買ったの?」

 ㅤ買い物袋の中を覗いたお母さんが呟く。

「なんで、いけない?」

「だってうちみんなイチゴ派でしょ」

「エ、そうだった?ㅤほら、おババはメロン派でしょ」

「おババは食べないよ、ね、母さん」

ㅤ光に当たっても涼しげで、柔らかな白いシャツを着たおババが縁側に座りながら微笑んだ。


「ありゃぁ、そうだったかって言ってる間に溶けるから気にしない」


 ㅤイチゴシロップをジャッとかけて食べていく。焦って頭が痛くなる。それなりのフワフワ食感と懐かしさに目を閉じる。


「お父さんも帰ってきたら食べるかな?」

「そうね、そのときはまた作ろうか」


 ㅤそんな、夏休みのある日。置き去りのメロンシロップは、星の人にあげたいと後になって気づいた。

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