繋がる99人の私の想い
第21話 ミコト × 21
優奈と瞬太の恋を見届けたミコトは部屋のベッドの上で感嘆のため息をついた。紆余曲折あったけど優奈はもう遇えないと思い込んでいた瞬太に想いを伝え、彼もまた胸の奥に秘めた自分の恋心を見境も無く優奈にさらけ出した。ミコトは波止場で抱き合うふたりの姿を思い出すとその場でごろんと身体を寝かせて大の字に四肢を開いた。
「恋かぁ。恋ってああいうものなんだ」
人知れず恋のキューピッドとなったミコトは感慨深く天井の照明からぶら下がる引き紐が空調からの風で揺れる様を眺めていた。離れ離れになってしまったふたりを結びつけたのは、自由に容姿を変えられるミコトだった訳だが、人の恋が成就する形を見届て自分も恋するこの想いを伝えたい、と胸の奥に強い気持ちが沸き上がってきた。その相手は....
ミコトはゆっくりと身体を起こすと化粧台の前に置かれた椅子に座りなおし、横に広がった自分の身体を眺めながらその決心を強めて鏡の上に置かれた厚手の布を引いた。
「私も身体を戻してハヤトくんに自分の気持ちを伝えなきゃね」
布を引ききると部屋一面が強い光に包まれて、ミコトの身体はいつものようにシャイニールームと呼んでいる暗闇の中に浮かべられていた。ミコトはパネルから今選んでいる絵のモデルとなったミコトのパーツとは別の、この部屋を使う前と似たような身体のパーツを選んでいった。制服を元の学校の物に選びなおし、瞳子に明るいと目を付けられた髪色も黒目の落ち着いた色をチョイス、小顔に見えるショートの髪形を選んだ。ミコトは最後に目と鼻のパーツが載せられているパネルを手にとり、複数のそれらの中から自分の顔に当てはまるそれを決めるまでに長考を要した。出来る限り本来の自分の顔に近づけたかったのだけれど、どうしても前の自分を彷彿させる横に広がった鼻と一重の瞼を選ぶことが出来なかった。
全てのパーツを選ぶといつもの様に奥に設置された元の世界に戻る扉を開けた。そう、いつも通り。目を覚ますといつもの日付の、新しい長谷川 ミコトとしての生活が始まった。
「井上さーん、そのプリント私が職員室まで持っていくよ」
「そんな、悪いよ」
「いやいや、授業で分からないところを先生に聞きに行くついでだから」
「そっか、それじゃお願い」
明るい声を伸ばして同級生の机に置かれたクラス全員分のプリントを持ち上げる。ミコトは学校に登校すると、誰にでも親しく接していた優奈の姿を見習って自分から人のためになる行動を心がけようと鏡の中の世界で決めていた。ミコトはなぜ、自分が様々な容姿でハヤトに告白しても成功しないか自分なりに考えた。今までの告白のパターンは下駄箱に手紙を入れて放課後にハヤトを屋上に呼び出して、自分の気持ちを伝えるといったシチュエーションを自分で演出していたが、顔を合わせてもハヤトがミコトのことをよく知らないケースが多く、これではいくら端正で彼好みの顔を選んだところでどんなに愛の言葉を並べても彼の心には響かないと悩んでいた。
色々なケースを試し、失敗に失敗を重ねたその結果、ハヤトや自分を取り囲む周りの人達の信頼関係を築くことが重要な要因ではないか、と考えこれまであまり接点の無かったクラスの女子を中心にミコトは彼女達とコミュニケーションを取っていった。まだ入学したての5月半ばという事でミコトの気遣いはクラスのグループでも次第に受け入れられるようになっていった。
新しいミコトに生まれ変わって一週間後、休み時間にミコトの席に来た
「ミーコちゃん!グループ入れてあげるからID教えて!」
びっくりして顔を上げるとクラスのムードメーカーである真がミコトを見て可愛らしい左右の八重歯を口唇から出して微笑んだ。イマドキ女子が当たり前のように使っているこのグループ交流アプリに登録するのはソフトをやっていた中学以来の経験で、なかなか自分のアカウント情報を思い出せずにいたのだが、そんなミコトを見て冷やかしながらも真はミコトを自分がリーダーを務めるクラスのグループに入れてくれた。
休み時間が終わるギリギリにミコトのアカウント情報がそのグループに登録されると、ミコトが眺めている携帯の画面に大きく横に広がったクラスの女子の名前と彼女たちがそれぞれに設定したアイコンが横並びに表示された。ミコトが所属するクラス以外の名前も浮かんでいる。ミコトは画面の中から書き込めるアイコンを見つけると世間話がされているその緑色の輪の中で『長谷川 ミコトです。これからよろしくお願いします!』と発信した。
するとすぐにそのミコトの挨拶に呼応するような様々な言葉が浮かび上がり、携帯の画面ではスタンプや顔文字が次々と踊り、ミコトの加入を迎え入れる賑やかな会話が行われ始めた。それを見て微笑むと「そういうことー、これからよろしく」と真が指をひらつかせてミコトの席から離れていった。よし、まずはクラスのみんなと仲良くなる計画は成功。ミコトはグループに登録されている皆が多くいる席の方を振り返って笑みを作った。
帰宅後、食事を終えて部屋に戻ると携帯の充電器からはひっきりなしに通知を知らせる表示が光っていた。ミコトが携帯を手にとってアプリを開くと真がグループの皆にアンケートを執っていた。
グループリーダーの真です!いきなりだけど、始めましての人もいるからずばり聞いちゃいます!
・あなたは今、好きな人がいる
YES 80% NO 20%
ほう、とミコトが息を漏らすとその下にまた真が執ったアンケートが浮かんでいた。
・YESと答えた人、その人とは付き合っている
YES 50% NO 50%
おおおお、ミコトの口の中で声にならない言葉が転がる。画面をスライドして他の子の恋模様を眺めると同じクラス内に彼氏を持つ子が何人かいるらしい。皆おくびには出さないものの、親しくやっているんだな。興味津々で携帯を眺めているとグループ登録者の欄にサッカー部のマネージャーを務めている美優や祥子の名前もあった。真とは別の彼女達の会話を覗いて見ると、やはりそこでも部活に所属する男子の話題で盛り上がっていた。彼女達の履歴を眺めていると携帯の上部画面から新しい通知を知らせるスクロールが下がってきた。
それはさっきの真の執っているアンケートに対しての回答でその結果を受けてYESのバーが85%に伸びた。
ミコトはその発信者の名前を見てはっと息を飲み込む。緩んでいた気持ちを引き締めるようにミコトはその場で姿勢を正す。しばらくしてその発信者はさっきの自分の行動に意味を注ぎ込む様にグループメイトに想いを打ち付けた。
「私が好きなその人、それはC組のハヤト君です!」
携帯を持っていた左手が大きく震えて、ミコトは大きく息を吐き出した。その発信者はハヤトと同じクラスの清水
「瞳子、やっぱりそう。ハヤト君のこと、ずっと好きだったんだ」
何度新しい自分に生まれ変わっても、瞳子という目の前に立ちはだかり続ける恋のライバル。
ミコトは彼女からの宣戦布告にも似た言葉を受けて鏡に映った今の自分の姿を見つめた。何度も持ち主に通知を伝え続ける携帯電話が握り締める手の平の中でいつまでも震えていた。
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